政治の基本のキ。政治とは、国家とは。
門前の小僧、習わぬ政経を語る ①
①政治と権力
人間は1人では生きられない動物です。どんなに小さくても、ほとんどの人が何かしらの社会に所属しています。そうした人間の性質を、かつてギリシャの哲学者、アリストテレスは「人間はポリス的動物である」と表現しました。
社会が形成されると、その中で様々な力関係が生じ、利害が生まれ、その間での衝突が生まれていきます。それらを調整し、社会の秩序を保っていくための営みが必要になっていくのです。その役割を果たすのが、政治です。
利害の衝突を調整し、社会の秩序を維持するためには、強制的な力が必要になります。それが、権力です。具体的には、現在の国家においては警察の取り締まり、違反者に対する罰則を与えることなどによって、人々を従わせ、権力を行使しています。
しかし、それは本当にただしいことなのでしょうか。なぜ人間は、権力を行使し、またそれに従う事を受け入れるのでしょうか。「権力の正当性は一体どこにあるのか」この事を考えた人がいます。マックス・ウェーバーです。
ウェーバーは権力による支配の正当性は、3つに分けられると考えました。
第一に、伝統的支配です。これは、古くから続く支配権力の伝統をその根拠とする考え方です。王家による支配などがこれに当たります。古くは日本の天皇家による支配もこれに当たると言えるかもしれません。
次に、カリスマ的支配です。これは、権力者の天才的な能力や人を引き付ける力などによって、民衆に彼らに対する畏敬の念を抱かせ、それを権力の根拠とする方法です。ナポレオンやヒットラーなどが具体例となるでしょう。
そして最後に、合法的支配です。これは適正な手続きを踏んだ法に基づく支配の事で、今どきの国家はほとんどがこの合法的支配を行っています。
②国家の三要素
さて、それではこの権力を行使する主な主体である国家とは一体何なのでしょうか。
現在では、国家は「領域」「国民」「主権」の3つの要素を持つ必要があると考えられています。
一定の範囲の土地を基盤とし、その中で暮らす人々いて、その人たちの共同目的を実現するための固有の支配権によって1つにまとまった存在。それが国家だということです。
国民は、一般的にはその国の国籍を有するものの事を指します。しかし、文化的・民族的に様々な問題が絡む概念であり、それぞれの国によって考えなくてはいけないことがある概念でしょう。
領域は、領土・領海・領空の3つからなっています。このように国家の要素を3つに整理したのは、イェリネックというドイツの学者です。
3つの中で領土が一番わかりやすいでしょう。日本であれば日本列島の陸の部分です。では、陸から一歩出たら外国なのでしょうか。違いますよね。では、どこまでが日本なのでしょうか。一体どうやって海の上の国境を決めているのでしょうか。
これは、国連海洋法条約という条約に基づき決められています。領海はに関しては一定の範囲において各国が決めることができ、日本は基線(干潮の時の陸と海の境目)から12海里(約22㎞)と定めています。この範囲には日本の主権が及び、他国が好き勝手できません。ただし、無害通航権というものがあり、沿岸国に危害を加えないことを条件に、沿岸国の許可なく領海を通過できるとさだめられているため、通り抜けることは可能です。
更に、国連海洋法条約は、基線から200海里(約370㎞)までを排他的経済水域(EEZ)と定めています。最近はよく北朝鮮のミサイルが日本のEEZ内に(あるいは外に)落下した、といった文脈でニュースに出てくる言葉です。
EEZ内においては、沿岸国に対して、資源の調査、発掘や漁業に対する優先権が認められています。その一方で船の運航やパイプラインの敷設などは他の国にも可能となっています。
EEZの外は、公海と呼ばれ、どの国家にも属さない自由な海です。航行も通商・漁業も自由に行うことができます。このことを「公海自由の原則」と呼びます。
更にもう一点、国連海洋法条約は「大陸棚」というものを定めています。この言葉は本来は大陸から続く海底の傾斜面の事を言うそうなのですが、国連海洋法条約は、EEZと同じ200海里までの改定を大陸棚と定めています。更に、地形的・地質的に領土と繋がっている場合には、350海里まで延長が可能です。この範囲においては、沿岸国に資源の優先的な掘削権などが認められています。
さて、海の上の国境はわかったところで、空はどうなのでしょうか。外国の飛行機が日本の上空を許可なく飛行するのは良いのでしょうか。ダメな気がしますよね。では、外国の人工衛星が、日本のはるか上空、大気圏外を飛行するのは?
これに関しては一般的に、各国の主権が及ぶ領空は、領土と領海の上と定められており、大気圏外(宇宙空間)は含まれないと考えられています。
さて、最後に主権についてです。主権という概念を始めて理論的に打ち出したのは、16世紀のフランスの学者、ボーダンであると言われています。現在では、主権は以下の3つの概念として捉えられています。
① 最高独立性
国家権力は国内では最高の力であり、外からの干渉を受けないということ。
② 国家意思の最高決定権
国の政治の在り方を最終的に決めることができる権力のこと。
③統治権
決めたことを守らせるための権力のこと。
このように主権とは、「①外から干渉を受けずに、②自分の国の事を決め、③それを国民に守らせる」ことができる力のことなのです。
ここまで、実際のニュースなどではあまり出てこないかもしれませんが、政治を語る上で念頭に置くべきそもそも論の確認をしていきました。
次回は、これらの基本的な概念が、実際にはどのような形に発展してきたのかについて、触れていきたいと思います。
参考文献:
「ライブ!2022 公共。現代社会を考える」
監修:池上彰 出版:帝国書院
「蔭山克秀の政治・経済が面白いほどわかる本」
著者:蔭山克秀 出版:株式会社KADOKAWA
「政治・経済用語集」
編:政治・経済教育研究会 出版:山川出版社