【日本全国写真紀行】61 香川県三豊市詫間町生里
香川県三豊市詫間町生里
浦島太郎伝説が残る美しい海里
香川県北西部、瀬戸内海にちょこんと突き出た半島がある。荘内半島あるいは三崎半島と呼ばれるこの半島は、浦島太郎伝説が残る地として知られている。そもそも、この半島と近くにあるいくつかの島々は、総称してかつては浦島と呼ばれていたという。室町幕府三代将軍足利義満が、広島の厳島神社参詣の折、この半島に立ち寄り「へだてゆく 八重の汐路の浦島や 箱の三崎の名こそしるけれ」という歌を詠んだといわれ、浦島と呼ばれていたことはかなり信憑性が高いと思われる。
そのほかにも、太郎がカメを助けたとされる浜辺「鴨之越」や、太郎が玉手箱を開けた時に立ち上った白煙が紫の雲となってかかった「紫雲出山」、そして太郎が玉手箱を開けた場所で太郎親子の墓がある「箱」など、あらゆるところに太郎伝説を裏付けるかのような地名や名称が残っている。
なかでも白眉は、太郎が生まれたという伝説をそのまま地名に残している生里だろうか。実際に足を運んでみると、その穏やかな海に抱かれた鄙びた漁村風景に、さもありなんと思えてくる。
生里はいま過疎化が進み、百数十人ほどの人々が暮らしているだけである。家も空き家が目立ち、漁師町特有の木板の壁を設えた茶褐色の家が立ち並ぶ路地にはほとんど人影はない。だが、入江の海に出れば、そこには波に静かに揺れる何隻かの漁船があり、この集落がまだ生きていることを教えてくれる。
それにしてもなんという海の青さだろう。遠浅で透明度の高い浜は、季節や時間によってさまざまな表情を見せる。特に夕暮れの風景は絶景として人気を集めているらしい。港のそばで出会った高齢の女性は、そのおだやかで美しい海があるから、この村を離れることはできないと話していた。
休日ともなれば、生里の海は多くの釣り客でにぎわいをみせる。アオリイカ、タチウオ、メバルなど、一年を通してさまざまな魚が釣れるので、西讃地方の釣りのメッカとなっている。かつて人気を博した映画「釣りバカ日誌」のロケ地となったこともあり、生里の美しい風景は、映画フィルムにしっかりと刻まれている。
玉手箱をあけた浦島太郎は、白煙につつまれて老人になってしまう。その後のことを知っている人はあまりいないかもしれないが、老翁となった太郎はやさしく慈悲深き老人として荘内半島で余生を送ったらしい。生里地区にある仁老浜がその地だといわれている。
※『ふるさと再発見の旅 四国』産業編集センター/編 より抜粋
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