見出し画像

【新刊試し読み】『シルクロード・楼蘭探検隊』〈わたしの旅ブックス40〉|椎名 誠

椎名誠さんの旅ブックスシリーズ第二弾となる『シルクロード・楼蘭探検隊』が5月23日(月)に発売されたことを記念して本文の一部を公開します。

本書について

まだ中国への旅行が広く解禁されていなかった1980年。シルクロードの入り口である敦煌を目指し、未知なる国を駆け抜けた著者初の中国旅。
さらに8年後、日中共同楼蘭探検隊の一員として参加した、タクラマカン砂漠の過酷な旅。
著者のこれまでの人生の中で忘れ得ぬ二つの旅を振り返り、当時書けなかった事実や逸話を新たに盛り込んだ探検紀行。
椎名誠の旅の原点がここにある。


試し読み

第一章 まず最初に行けるところまで
1.上海のやさしい洗礼
 
最初の中国

 ぼくが中国を強く意識したのは小学生から中学にあがるぐらいの頃だった。
 その頃ぼくが一番のめりこんで読んでいた本が「西域探検」もので、それらの中核をなすのが「シルクロード」だった。
 特にスウェン・ヘディンの本をがむしゃらに読んでいた。ぼくは兄弟が多く、兄や姉たちがいろんな本を読んでいて、本箱をのぞいてかれらが読んでいた本に影響されたのも大きい。
 シルクロードに憧れ、いつか行ってみたいという夢を持った。でもまもなく、そこは行きたくてもいけないところだ、という厳しい現実を知った。
 当時、日本と中国は国交を断絶していたのだった。
 でも、世の中の流れとは面白いもので、やがて現れた田中角栄が豪腕をふるって日中国交回復というものを成立させた。当時のぼくの気分としては宇宙旅行における成層圏突破のようなものだったろうか。それでもまだ個人が中国へ行けるわけではなかった。中国への旅行が現実的なものになったのはさらに時日をまたねばならなかった。ぼくがモノカキになった頃やっと自由旅行が可能になった記憶があるから、1980年代初めぐらいだろうか。
 でも本当の自由旅行はまだできず、十人以上の団体旅行ではじめて可能だった。シルクロードは敦煌までいけたのでそういうツアーに参加した。それ以降団体での海外旅行というのは体験したことがなかったから、それは最初で最後のツアー参加になったようだ。
 申し込みだけして、その許可が届き、出発当日成田空港で集合、という段どりになっていた。そこへ行くと若い男女カップルで賑わっていた。NHKが「シルクロード」を毎月一回放映して以来シルクロードへの関心が高まっていたからその影響をまのあたりにした気分だった。しかし、その部屋で係の人の話など聞いているとどうもちょっと様子がおかしい。
 改めて入り口のボードをみると「サイパン、グァムトロピカルなんとか」と書いてあり、部屋を間違えてしまったことに気がついた。ぼくの行くべきツアーの部屋はその隣りなのだった。大慌てで本来の部屋に行くと十人ぐらいの人が陰気にしんと座っていて、そのうち四人ほどはお坊さんで、手に数珠など持って静かにうつむいていた。
 飛行機は上海行きだった。
 ぼくよりも遅れてきた人が三人いて、そのうち二人はカップルだった。
「あんたら隣の部屋と間違えていない?」と聞きたくなったが「ぼくたち新婚旅行です」ときちんと挨拶していた。そういう人たちとツアーのチームをつくり、はじめてシルクロードの国に飛んだのだった。


目次

第1章 まず最初に行けるところまで  
1.上海のやさしい洗礼
2.「前進号」に乗って
3.敦煌は砂漠の中にあり
4.ひとむかし前の中国

第2章 いよいよシルクロード 
1.福岡経由大連行き
2.蘭州から嘉峪関へ
3.道なき砂漠をただひたすらに
4.オアシスの昼と夜
5.隠されていた事実
6.砂の海の向こうへ

〔付録〕ルチャリブレ探訪記


著者紹介

椎名 誠
1944年東京都生まれ。作家。写真家、映画監督としても活躍。「本の雑誌」初代編集長。『さらば国分寺書店のオババ』(1979年)でデビュー。『犬の系譜』(講談社)で吉川英治文学新人賞を、『アド・バード』(集英社)で日本SF大賞を受賞。モンゴルやパタゴニア、シベリアなどへの探検、冒険ものなど旅の本も数多く上梓。趣味は焚き火キャンプ、どこか遠くへ行くこと。近著に『幕張少年マサイ族』(東京新聞)、『南の風に誘われて』(新日本出版社)、『漂流者は何を食べていたか』(新潮社)、『そらと うみと ぐうちゃんと きみたちのぼうけん』(光村図書出版)など。

『シルクロード・楼蘭探検隊』著/椎名 誠
【シリーズ】わたしの旅ブックス
【判型】B6変型判(173×114mm)
【ページ数】208ページ
【定価】本体1,320円(税込)
【ISBN】978-4-86311-333-6

本書を購入する


旅ブックスMAGAZINEには【新刊試し読み】以外にも旅に関する連載記事やコラムが充実! 毎週月・木曜日記事公開しています。
フォローをよろしくお願いいたします!!