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第16橋 前編 コナン大橋&江島大橋〈えしまおおはし〉(鳥取県) |吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


推しがもっと好きになる
一石二鳥の鳥取旅

 これは前々からいずれ書こうと思っていたことだが、この「橋旅」には裏テーマみたいなものがあって、それは何かというと「推し旅」である。自分が応援している(推している)コンテンツにまつわる旅である。「推し活」の一種と言った方が分かりやすいか。

 「はし」と「おし」、言い回しからして似ているのは単なる偶然だが、とにかく自分にとっての「大好き」を貫くという意味では、橋旅も推し旅も根本的な方向性は同じだ。

 たとえば、好きなアーティストのライブツアーに参加するために地方遠征して、ついでに周辺地域の橋を渡ったり。アニメの聖地巡礼と橋巡りを合わせ技にしたり。旅費の節約にもなるし、まさに一石二鳥なのだ。

 そんな橋旅と推し旅が最高の形で両立できたのが、今回紹介する鳥取の旅だった。

 鳥取といえば……砂丘と……そう、コナンであろう。さも当然のように書いたが、異論はないものとする。なんといっても、空港の名前からして「鳥取砂丘コナン空港」なのだ。

 鳥取にはもう一つ、「米子鬼太郎空港」という空港もあって、そちらもまた有名キャラクターの名を冠している。空港近くの境港は妖怪ファンにはたまらないワンダーランドだ。

 コナンと鬼太郎。どちらも国民的作品といえるが、今回のお目当てはコナンであった。いちおう簡単に説明しておくと、『名探偵コナン』の作者・青山剛昌氏が鳥取生まれということで、その縁からコナンによる町おこしが行われている。力の入れようは、空港名に採用されていることからも伺えるだろう。

 青山氏の出身地である北栄町には、コナン関連の観光名所が集まっている。ファンにとっての一大聖地となっているわけだ。そして、それら名所の中に、気になるスポットを見つけた。その名も「コナン大橋」という。どんな橋かまではわからず、名前を見ただけだが、猛烈に気になってしまった。

 なにせ、「コナン」の「橋」なのだ。これは推し旅、いや橋旅するしかない。

 そんなわけで、鼻息も荒く鳥取へと飛んだわけだが、しかしながら実はそもそもコナンに関しては特別に熱心なファンというほどではない。ニワカではないものの、自分なんかが熱く語るのは烏滸がましいというか。

 連載開始当初はほぼリアタイで追いかけていたが、大人になってからは疎遠になっていた時期もあった。毎年公開される劇場版は気になった作品は観に行くし、そもそものストーリーや主要キャラはだいたい把握している、といった程度。

 ところが、その程度の旅人にとっても、鳥取のコナン旅は満足のいくものとなった。端的に感想をいえば、行く前よりももっとコナンが好きになった。

 まず訪れたのが、「青山剛昌ふるさと館」だ。ここは、北栄町のコナン観光におけるメインスポットといっていいだろう。青山氏の生い立ちを紹介したり、仕事部屋を再現したりと、いわゆる文学系ミュージアムのような構成だ。

青山剛昌ふるさと館に到着。阿笠博士の黄色いビートルが目を引く。


 とはいえ、当然ながらお堅い雰囲気ではなく、作品の原画がズラリと展示されていてマンガの博物館といった感じ。プロジェクションマッピングによる映像が見られたり、子ども向けのちょっとしたアトラクションがあったりと、楽しめる工夫が散りばめられている。コナンだけでなく、『YAIBA』など青山氏のほかの作品に関する展示もあり、懐かしさを覚えたりもした。

実物大の「キック力増強シューズ」。
ほかにも「犯人追跡メガネ」など、お馴染みアイテムが展示されていた。


 ふるさと館のすぐ隣には「道の駅 大栄」もあって、一帯はなんだかとても賑わっていたのが印象的だ。初夏に訪れたら、道の駅には地元の名産品であるスイカが山積みだった。買おうか迷ったが、ゴロンとして大きいので荷物になる。あきらめて、代わりにスイカソフトを食べた。

スイカ味のソフトクリームは案外珍しいような……。


 道の駅があるぐらいなので、駐車場は広々としている。ふるさと館を見たあとは、車は置いておいて、自転車で周囲を散策してみることにした。便利なことに、ふるさと館にレンタサイクルが用意されていたのだ。2時間200円。町内には無数の見どころが点在している。それらを見て回るのに、車だといちいち駐車するのが面倒だから、自転車や、あるいは徒歩が正解だと思う。

 ふるさと館の前から、最寄のJR駅まで一本の道が続いている。なんと、「コナン通り」というらしい。通り沿いには、コナンに出てくるキャラクターたちの像のほか、コミックスのカバー絵やら、特注マンホールやらがあちこちにあって飽きない。

ナン通りで特に気になったのが「眠りの小五郎」。隣に座って推理したくなる?


 コナン通りの端っこにあるJR駅にもまた、「コナン駅」という看板が掲げられていた。元は「由良駅」だったというが、地元の人以外は言われないと想像もつかないほどいまや完全に「コナン駅」と化している。駅前のロータリーにはほかよりも大きめのコナンの像が立ち、駅舎の中も壁や天井がマンガの絵で埋め尽くされ、コナン尽くしだ。

「由良駅」よりも「コナン駅」の文字の方が目立っている。


 ふるさと館からコナン駅まで、自転車でゆるゆる走って約20分。その道中に、気になっていた「コナン大橋」があった。「橋」ではなく「大橋」というぐらいだから、結構しっかりした橋なのかなと想像していた。

 しかし、想像とは違った。どちらかといえば、こぢんまりとした橋である。形がユニークなわけでも、古めかしいわけでもない。この際はっきり書いてしまうと、なんというかまあ、どこにでもありそうな普通の橋……なのだが、普通の橋とは違うところがちゃんとある。

 橋の両端にある街灯柱にコナンの像が立ち、欄干にはところどころコナンのレリーフが埋め込まれている。好みが分かれそうだが、個人的にはコナンがサッカーをしている絵柄がツボで、そのまま自分の部屋に飾りたいほどだ。

自転車でコナン大橋へ。よく見ると、あんなところにもコナンが!


 さらに、橋の上で印象的だったのが、コスプレをしている若者たちがいたこと。ベージュがかった金髪で褐色の肌なのを見て、なるほど「安室透」なのだとわかる。コナンの主要登場人物の一人だ。キャラになりきる—−聖地巡礼の正装といっていいだろう。

 ふるさと館に自転車を返却する。館内には当然のようにグッズショップもあって、目移りしまくりである。どうせならご当地モノを、ということで、鳥取砂丘でコナンがラクダに乗っているイラストが描かれたクリップを購入したのだった。


(後編に続く)
※後編は8月7日(月)の公開を予定してます。





吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。

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