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第2橋 スリル満点⁉︎  これぞ奇橋 祖谷のかずら橋 後編 (徳島県三好市)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。
渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。
「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。
——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


第2橋 スリル満点⁉︎ これぞ奇橋 祖谷のかずら橋(前編)はこちらから



まるでサーカスの綱渡り
揺れが激しく隙間からは川面が……

 無事目的地に到着すると、道端で客引きたちが自分たちの駐車場へ入るよう手招きしていた。観光地ではよくある光景だ。私営の駐車場なのだろう。それらはスルーしつつ、「かずら橋 夢舞台」の巨大な駐車場に車を入れた。ツアーバスが何台も停められそうな大規模な空間が広がっている。
 夢舞台は物産館や食堂、観光案内所などが集まった、かずら橋観光のいわば拠点となる施設だ。ただ、停めた後で知ったのだが、駐車料金は私営の駐車場のほうが安いようだった。


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「かずら橋 夢舞台」に車を停めた。料金は近隣の私営駐車場のほうが少し安い。


 案内に従って、橋へと歩を進める。夢舞台の館内を通り抜けて、約300メートルほどの距離である。
 てくてくと坂道を下っていくと、行く手をふさぐようにしてネコがゴロニャンとしていた。あまりに愛らしかったので写真を撮ろうと、カメラを取り出す。ところが、「ニャー」と声をかけたら、面倒くさそうな顔をしてどこかへ行ってしまった。連れないネコちゃんなのだ。
 坂道を下ったところにさっそく橋が架かっていた。といっても、こちらは近代的なつくりの普通の橋。気持ちはすっかり「かずら橋」でいたから拍子抜けなのだが、この橋の上からお目当てのかずら橋が眼下に望めた。


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橋の真下には渓流というロケーションなのが遠景でみるとよく分かる。


「……あれを渡るのか」
 見た瞬間の感想である。まるで日本昔話に出てきそうな古めかしい橋が、祖谷川の渓流の上に架けられている。実際に渡っている観光客の姿も見えるが、みんな端にしがみつくようにして恐る恐る進んでいる。
 かずら橋は有料で、通行料は550円。PayPayで支払ったら、決済完了を告げるあの独特の音(ぺいぺい〜♪ってやつね)が、緑深い山の中に鳴り響いて不思議な気持ちになった。
 さて、いざ渡橋である。橋へ一歩踏み出した瞬間に早くも腰が引けてきた。スリリングであることは当然予想していたが、正直想像以上だった。
 橋板どうしがくっついておらず、スキマができている。それゆえ足を踏み外さないよう、下を見ながら進まないといけないのだが、高所で下を見るなんてできれば避けたい行為だ。橋板と橋板のスキマから川が流れている様が望める。水面までは約14メートルあるという。


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おっかなびっくりパチリと撮った。高いところはあまり得意ではなかったり。


 橋の入口に「幼児の渡橋は禁止」と書かれていた。なるほど、これは小さい子どもには無理だろう。足が簡単にスキマに落ちてしまいそうだ。
 おっかなびっくり歩を進める。手は、手すりをがっつり掴みながら。
 手すりの部分や、橋を形作るロープなどは固い蔦のような植物でできている。シラクチカズラである。だから「かずら橋」というわけだ。日本三奇橋のひとつに数えられるが、それも納得だ。こんな橋、ほかの場所で見たことはない。


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写真の蔓のような植物がシラクチカズラだ。かずら橋はこいつでできている。


 橋に用いられているシラクチカズラは約6トン。3年に一度、架け替えが行われるという。確かに、天然の素材で作ったこれだけの橋を維持するのは大変そうだ。
 吊り橋だから、もちろんぐらぐらと揺れる。普通の橋よりも揺れは大きい。まるでサーカスの綱渡りをしているような気分だ。
 橋の幅は約2メートル。人がすれ違えるだけの幅はあるが、一方通行となっている。ただし、追い越しは禁止されていない。
 自分のペースが遅すぎるのか、後ろから来たカップルに見事に追い抜かれた。ひょいひょい進んでいく彼らに尊敬の眼差しを送った。橋の長さは45メートル。それほど長くはないはずだが、いざ渡ってみると随分と長く感じられた。
 自分がビビリすぎなのだろうか。いやはや、でも本当に怖かったのだ。少なくとも、ほかではできない体験であることは確かだろう。
 そもそも、なぜこんな橋が作られたのか。追っ手から逃れる平家の落人が楽に切り落とせるよう、このシラクチカズラで橋を作ったという説がある。
「もし自分が渡っているときに切り落とされたら……」
 考えただけで、震え上がってしまう。


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スローペースで歩を進める人多数。まあ、他人のことは言えないんだけど。


 かつては流域の各所に同じような橋が架けられていたが、いまではこことあともう一箇所「奥祖谷の二重かずら橋」だけしか残っていない。ともあれ、いかにも平家の落人にまつわるスポットというわけだ。


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祖谷周辺にはかずら橋のほかにも見どころが点在している。せっかく来たので、ついでにいくつか見て回った。断崖絶壁の上に立つ小便小僧の像。なんでこんなところに? と衝撃を受ける。


旅行に来たら、その地の名物を味わいたい。朝食は朝マックだったし、お昼こそは何かとっておきのご当地グルメを、と狙ったのが「祖谷そば」だ。


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普通のそばとは別モノと思って食べるべし?


 そばといっても、普通の日本そばとはいささか異なる。麺は太く、つなぎが少ないため切れ切れになりやすい。食感もツルツルではなく、モソモソという感じ。食べ慣れている普通の日本そばと比べてしまうと、正直物足りなさも覚えたが、田舎料理らしい素朴さだと捉えればこれはこれでアリだろう。
 この祖谷そばもまた、平家の落人たちが常食としていたものだそうだ。平家が作った橋を渡って、平家のそばを食べる。平家尽くしの旅となった。



イラスト

吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。


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