第2橋 スリル満点⁉︎ これぞ奇橋 祖谷のかずら橋 後編 (徳島県三好市)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」
第2橋 スリル満点⁉︎ これぞ奇橋 祖谷のかずら橋(前編)はこちらから
まるでサーカスの綱渡り
揺れが激しく隙間からは川面が……
無事目的地に到着すると、道端で客引きたちが自分たちの駐車場へ入るよう手招きしていた。観光地ではよくある光景だ。私営の駐車場なのだろう。それらはスルーしつつ、「かずら橋 夢舞台」の巨大な駐車場に車を入れた。ツアーバスが何台も停められそうな大規模な空間が広がっている。
夢舞台は物産館や食堂、観光案内所などが集まった、かずら橋観光のいわば拠点となる施設だ。ただ、停めた後で知ったのだが、駐車料金は私営の駐車場のほうが安いようだった。
案内に従って、橋へと歩を進める。夢舞台の館内を通り抜けて、約300メートルほどの距離である。
てくてくと坂道を下っていくと、行く手をふさぐようにしてネコがゴロニャンとしていた。あまりに愛らしかったので写真を撮ろうと、カメラを取り出す。ところが、「ニャー」と声をかけたら、面倒くさそうな顔をしてどこかへ行ってしまった。連れないネコちゃんなのだ。
坂道を下ったところにさっそく橋が架かっていた。といっても、こちらは近代的なつくりの普通の橋。気持ちはすっかり「かずら橋」でいたから拍子抜けなのだが、この橋の上からお目当てのかずら橋が眼下に望めた。
「……あれを渡るのか」
見た瞬間の感想である。まるで日本昔話に出てきそうな古めかしい橋が、祖谷川の渓流の上に架けられている。実際に渡っている観光客の姿も見えるが、みんな端にしがみつくようにして恐る恐る進んでいる。
かずら橋は有料で、通行料は550円。PayPayで支払ったら、決済完了を告げるあの独特の音(ぺいぺい〜♪ってやつね)が、緑深い山の中に鳴り響いて不思議な気持ちになった。
さて、いざ渡橋である。橋へ一歩踏み出した瞬間に早くも腰が引けてきた。スリリングであることは当然予想していたが、正直想像以上だった。
橋板どうしがくっついておらず、スキマができている。それゆえ足を踏み外さないよう、下を見ながら進まないといけないのだが、高所で下を見るなんてできれば避けたい行為だ。橋板と橋板のスキマから川が流れている様が望める。水面までは約14メートルあるという。
橋の入口に「幼児の渡橋は禁止」と書かれていた。なるほど、これは小さい子どもには無理だろう。足が簡単にスキマに落ちてしまいそうだ。
おっかなびっくり歩を進める。手は、手すりをがっつり掴みながら。
手すりの部分や、橋を形作るロープなどは固い蔦のような植物でできている。シラクチカズラである。だから「かずら橋」というわけだ。日本三奇橋のひとつに数えられるが、それも納得だ。こんな橋、ほかの場所で見たことはない。
橋に用いられているシラクチカズラは約6トン。3年に一度、架け替えが行われるという。確かに、天然の素材で作ったこれだけの橋を維持するのは大変そうだ。
吊り橋だから、もちろんぐらぐらと揺れる。普通の橋よりも揺れは大きい。まるでサーカスの綱渡りをしているような気分だ。
橋の幅は約2メートル。人がすれ違えるだけの幅はあるが、一方通行となっている。ただし、追い越しは禁止されていない。
自分のペースが遅すぎるのか、後ろから来たカップルに見事に追い抜かれた。ひょいひょい進んでいく彼らに尊敬の眼差しを送った。橋の長さは45メートル。それほど長くはないはずだが、いざ渡ってみると随分と長く感じられた。
自分がビビリすぎなのだろうか。いやはや、でも本当に怖かったのだ。少なくとも、ほかではできない体験であることは確かだろう。
そもそも、なぜこんな橋が作られたのか。追っ手から逃れる平家の落人が楽に切り落とせるよう、このシラクチカズラで橋を作ったという説がある。
「もし自分が渡っているときに切り落とされたら……」
考えただけで、震え上がってしまう。
かつては流域の各所に同じような橋が架けられていたが、いまではこことあともう一箇所「奥祖谷の二重かずら橋」だけしか残っていない。ともあれ、いかにも平家の落人にまつわるスポットというわけだ。
旅行に来たら、その地の名物を味わいたい。朝食は朝マックだったし、お昼こそは何かとっておきのご当地グルメを、と狙ったのが「祖谷そば」だ。
そばといっても、普通の日本そばとはいささか異なる。麺は太く、つなぎが少ないため切れ切れになりやすい。食感もツルツルではなく、モソモソという感じ。食べ慣れている普通の日本そばと比べてしまうと、正直物足りなさも覚えたが、田舎料理らしい素朴さだと捉えればこれはこれでアリだろう。
この祖谷そばもまた、平家の落人たちが常食としていたものだそうだ。平家が作った橋を渡って、平家のそばを食べる。平家尽くしの旅となった。
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