見出し画像

【新刊試し読み】『ふるさと再発見の旅 東海北陸』|撮影 清永安雄

残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ『ふるさと再発見の旅 東海北陸』が2024年10月16日(水)に発売されたことを記念して、本文の一部を公開します。


本書について

日本の原風景に出逢う旅へ
もういちどニッポンをひもといてみませんか―
日本全国津々浦々、歴史ある門前町や宿場町から知られざる漁村や在郷町まで。残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ。
第10弾「東海北陸」は静岡、愛知、岐阜、福井、石川、富山を収録。コラムでは地域に伝わる祭りやノスタルジックな商店街をピックアップ。各県の重要伝統的建造物群保存地区も全て掲載。
――掘り起こせば私たちの国は、虚実入り混じった、数えきれぬほどの歴史や伝説、言い伝えに彩られています。そんなふるさとの町や村に埋もれてきた、歴史譚や懐かしい原風景に出逢う旅――



試し読み


静岡県榛原郡はいばらぐん川根本町かわねほんちょう

空に向かって弧を描くように広がる「天空の茶畑」

 川根本町は大井川の上流にある、全域の90%以上が森林という町である。宇治茶、狭山茶と並んで日本三大銘茶の一つとして知られる「川根茶」のふるさと。町じゅうの至る所に茶園が広がっていて、農業生産額のほとんどを生茶と紅茶が占めている。
 川根茶は日本茶業界で初の天皇杯を受賞したのをはじめ、品評会などで幾多の栄誉に輝いてきた。全国の日本茶販売店では常に別格視され、高級茶として扱われている。深い山々に囲まれた川根本町の茶畑は日照時間が短いためお茶の渋みが抑えられ、大井川から立ち上る川霧が茶の樹を優しく覆って新芽を包み守り、良質の茶を育むといわれている。銘茶を育てるために最適な自然環境が揃っているのだ。
 製茶された川根茶の茶葉は針のように細くて輝いている。これを急須で淹れると、金色がかった透明のお茶になる。香りは爽やかでやや渋みがあり、まろやかな甘みと濃い旨みが口いっぱいに広がる。お茶の味には門外漢の筆者でも、なるほどこのお茶確かに美味しい、と納得する深い味わいだ。
 聞くところによると、川根の里の小中学校には最近まで「お茶休み」という年中行事があったという。新茶の茶摘み期に、農家だけでなく地域の人々が、老いも若きも子供までも総出で応援する。まさに地域ぐるみで茶づくりに取り組んできた町なのだ。
 さて、見渡せば至る所に整然とした茶畑が見られる川根本町だが、もっとも目を奪われる特徴的な風景は「天空の茶畑」と呼ばれる高い尾根に広がる茶畑である。我々が最初に訪れたのは、町の中でもひときわ高い標高六百メートルの場所にある尾呂久保地区。ここの茶園は、急斜面の厳しい立地を生かした茶畑が住居を取り囲むようにぐるりと広がり、まるで空に浮かぶ茶畑のように見える。
 次に訪れたのは、大井川の支流・境川の上流域に位置する下長尾・久保尾地区。クネクネと曲がりくねった山道を延々と登っていくと、突然、目の前に素晴らしい景色が開けて驚かされる。天に向かって弧を描くように茶畑が広がり、そこに埋まるように農家の屋根がポツポツと点在する風景は、思わず見惚れてしまうほどに美しい。
 川根本町では、茶畑のことをチャバラ(茶原)と呼ぶ。大井川鉄道沿線に連なるチャバラは、深く濃い山々の緑の中でも際立つ綺麗な緑色で、遮るもののない青空の下、太陽の光を満面に浴びてキラキラと光り輝いている。まさに絶景。これを見ていると、改めて、茶畑は日本が世界に誇るべき眺望の一つだと思う。




目次

【静岡】
川根本町/田子たご/湯ヶ島温泉/岩科南側いわしななんそく
コラム:徳山の盆踊/ゆりの木通り商店街/ととすけ/清水の次郎長生家/名画名作の舞台『雨あがる』
重伝建:焼津市花沢

【愛知】
佐久島/野間/常滑/津島本町
コラム:豊浜鯛祭り/市場食堂/名画名作の舞台『ノイズ』/半田運河・蔵の街/新美南吉生家/円頓寺商店街
重伝建:名古屋市有松ありまつ/豊田市足助あすけ

【岐阜】
飛騨古川/馬瀬まぜ/明智/大湫おおくて
コラム:高山本町商店街/美濃白川茶発祥の地/島崎藤村旧宅/名画名作の舞台『銀河鉄道の父』/手力の火祭
重伝建:白川荻町おぎまち/高山町三町さんまち/高山市下ニ之町大新町しもにのまちおおじんまち/美濃市美濃町みのまち/恵那市岩村町本通り/郡上市郡上八幡北町ぐじょうはちまんきたまち

【福井】
遠敷おにゅう/越前河野/今立町五箇いまだてちょうごか/越前町陶芸の町/三国湊みくにみなと
コラム:上根来かみねごり集落/名画名作の舞台『夜叉』/いわさきちひろ生家/新庄の八朔祭り/ガレリア元町街商店街/たにや食堂
重伝建:小浜市小浜西組おばまにしぐみ/南越前町今庄宿いまじょうじゅく/若狭町熊川宿くまがわしゅく

【石川】
上大沢かみおおざわ蛸島たこじま/長町/鶴来つるぎ
コラム:名画名作の舞台『ゼロの焦点』/近江町おうみちょう食堂/新竪町しんたてまち商店街/ほうらい祭り/深田久弥生家
重伝建:金沢市東山ひがし/金沢市主計町かずえまち/金沢市卯辰山麓うたつさんろく/金沢市寺町台/輪島市黒島地区/加賀市加賀橋立/加賀市加賀東谷/白山市白峰

【富山】
生地いくじ滑川なめりかわ/岩瀬/福光
コラム:藤子不二雄Ⓐ生家/魚市場食堂/名画名作の舞台『散り椿』/総曲輪そうがわ通り商店街/南砺のねつおくり
重伝建:高岡市山町筋/高岡市金屋町/高岡市吉久/南砺市相倉あいのくら/南砺市菅沼


著者紹介

清永 安雄(Yasuo Kiyonaga)/撮影
1948年、香川県生まれ。写真家。京都写真美術館代表。公益社団法人日本写真家協会会員(JPS)。 写真集に 『日本人の道具』、 『パリスケッチ』、 『樹々変化』、『古鎮残照』、 ノスタルジック・ジャパンシリーズ、 『美しい日本のふるさと』シリーズなどがある。

ふるさと再発見の旅 東海北陸
【判型】A5変型判(200mm×148mm)
【ページ数】304ページ
【定価】3,080円(税込)
【ISBN】978-4-86311-419-7


本書を購入する