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【日本全国写真紀行】40 宮城県気仙沼市唐桑町鮪立
取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。
宮城県気仙沼市唐桑町鮪立
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南三陸の景勝地にある小さな漁村
宮城県の地図を見ると、北東端に太平洋に少し突き出た小さな半島を見つけることができる。古くから南三陸地方の絶景の地として知られる唐桑半島である。
三方が海に臨む半島は、周囲約50km、リアス式海岸特有の複雑な入江と豪壮な岩壁が多くの観光客を魅了してきた。中でも半島の東側、巨釜や半造といった地域には連続する奇岩があり、唐桑を代表する奇勝として知られている。
これら観光客に人気の東側に対して、半島の西側には島の人々の暮らしが息づく小さな港がひっそりと点在する。その中のひとつ、鮪立漁港に立ち寄ってみた。鮪立と書いて「しびたち」と読む。文字通り、かつてマグロの遠洋漁業で栄えたところで、その盛況ぶりを「沖から鮪が立ってやってくるようだ」と例えたのが地名の由来といわれている。往時、遠洋マグロで財を成した漁師たちが競って家を建て、それらの家は「唐桑御殿」や「マグロ御殿」と呼ばれたそうだ。
現在の鮪立漁港は、先の震災の傷跡はだいぶ癒えたとはいえ、防潮堤工事はいまだ続いており、港に面した山の斜面も崩れたままのところがかなり残っている。しかし、震災を免れた入母屋造りの家が、港を見下ろすように並んでいる。たしかに、かつてマグロ御殿と呼ばれていた頃の面影が残る豪奢な家屋もいくつかあった。
家々の間を縫うように上に伸びる坂道を登ってみる。眼下に広がる海には白い波が踊り、浮かぶ養殖の棚が時折揺れている。同じように揺れる係留船とともに、おだやかな海のリズムを刻んでいる。このリズムを乱し、集落ごと飲み込むような凄まじい海の姿は、目の前の静かな海からはとうてい想像できない。
だが、この地は、明治29年の三陸大津波でも大きな被害を受けた。その際に、高波で先端が折れた岩が、いま唐桑の観光名所となっている数々の奇岩であるのは、不思議な巡り合わせである。
気仙沼市街から車で約30分。小さな半島の小さな漁港には、南三陸ならではの自然と歴史がぎっしりとつまっている。
『ふるさと再発見の旅 東北』産業編集センター/編より抜粋
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