【日本全国写真紀行】38 岩手県二戸市浄法寺町
岩手県二戸市浄法寺町
世界へ日本の漆文化を発信する漆の里
日本の代表的な工芸品として世界にも知られている漆器。磨かれた木地に漆を何度も塗り重ねることで完成する。漆は、傷をつけた漆の木から滲み出た樹液を集めたものだが、いまの日本では98%が輸入で、国産は全体のわずか2%にすぎない。その国産漆の約6割を生産しているのが、二戸市の浄法寺地区である。
漆が生産できれば、当然のことながら漆器生産も可能となる。幸い二戸には木地となる木材も豊富にあり、漆器生産に携わる木地師、塗り師といった職人も数多くいた。豊かな自然と人間の協業によって生まれたのが「浄法寺塗」と呼ばれる漆器だ。
浄法寺には、開山約1200年の歴史をもつ天台寺という古刹がある。この寺の僧侶が寺の什器をつくったのが浄法寺塗のはじまりといわれている。江戸時代には、この地を代表する産物となり、浄法寺へつながる道は、漆器を買い求める商人や漆職人などが頻繁に行き来するため浄法寺街道と呼ばれていた。
明治、大正、昭和と盛況だった浄法寺塗だが、戦後、生活様式の変化や価格の安い輸入漆の増加にともない、厳しい時代を迎える。だが、浄法寺塗は途絶えなかった。職人たちはもとより、行政や地元の人々も協力しあって浄法寺塗を復活させ、平成7年には浄法寺漆の殿堂ともいえる「滴正舎」をオープンさせ、浄法寺塗と漆文化を世界へ発信している。
浄法寺のほぼ中心にある浄法寺小学校あたりから安比川を渡り、東西に伸びる旧道を歩いてみる。坂道に沿って何の変哲もない普通の家々が軒を連ねている。その家並みの中に、姉帯菓子店という店があった。らくがんやまんじゅう、くりまんじゅうなどが売られている棚の横に、「浄法寺名物・天台寺駄菓子」というせんべいのようなものがあった。通りを歩きながら、そのせんべいを頰張る。ほんのりとした甘さが口の中にひろがり、パリッと小気味よい音が耳もとに響く。古くは天台寺の門前町として、あるいは漆器の一大生産地として隆盛を誇った浄法寺だが、いまは、その面影もなく、静かな時間がゆっくりと流れている。
『ふるさと再発見の旅 東北』産業編集センター/編より抜粋
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