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第9橋 新湊大橋 前編 (富山県)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


東京からひとっ飛び
日本海側最大の斜張橋へ

 富山に橋を見に行くと妻に言ったら、「富山に橋なんてあったっけ?」と突っ込まれた。橋がまったくないなんてことはあり得ないから、この場合に彼女が言っているのは、「わざわざ見に行くような観光地的な橋」があるのか? という意味だろう。同じような疑問を持つ人がいたなら、ぜひ今回の記事を読んでいただきたい。

 空路、富山へ向かった。羽田からびゅんと飛んだら、わずか1時間で富山に到着。いやはや、あっという間だ。体感的には実際の距離よりも近く感じる。

 前回の加賀に続き、またしても北陸の橋を取り上げる形となった。原稿にするタイミングがたまたま続いたわけではなく、実際の旅でも連続で訪れていた。別に深い理由はなく、ただ単にそういう気分だっただけだ。なんとなく、北陸モード。

 例によって空港からはレンタカーで出発する。お目当ての橋までは空港から約30分と、これまた拍子抜けするほど近い。日本海側とはいえ、東京からでも手軽に行ける橋のひとつと言えそうだ。

 走行中はスマホの地図アプリをカーナビとして活用している。行き先に設定していたのは「海王丸パーク」だった。「海王丸」といえば我が国を代表する帆船だが、現在航行しているのは二代目。すでに退役した先代の船体が富山新港に係留され、周辺が公園として整備されている。

 59年間で地球約50周分を旅したというその歴史ある帆船のバックに、目指す「新湊大橋」が架かっていた。

天気にも恵まれ最高の橋旅日和だった。青い空に白い帆船&橋がよく映える。


 青い空に屹立する、アルファベットのAの形をした真っ白な主塔。そこから弦楽器のように張られた無数のケーブル。壮大で、美しいシルエットの橋を一目見た瞬間、心が跳ねた。同じ風景の中において主役級の輝きを放つ帆船にも決して引けを取らない強い存在感。帆船と橋のコラボ絶景とでも言えばいいか。

 現地の案内板に「日本海側最大の斜張橋」と書いてあった。ミーハーな人間なので最大などと言われると途端にありがたいものに思えてくるのだが、果たして何をもってして最大なのだろうか。調べてみると、橋の両端に立つ2つの主塔部間の距離(中央径間という)が新湊大橋は360メートルあって、それが最長なのだと分かった。

 ちなみに「日本海側」に限定しなければ、もっと長い斜張橋はたくさん存在する。国内で一番長いのは本連載でも取り上げた多々羅大橋(愛媛県/広島県)で、そちらは890メートル。新湊大橋より倍以上の距離がある。

 斜張橋というのは塔から斜めに張ったケーブルで橋桁を支えるタイプの橋のこと。新湊大橋では、高さ127メートルの主塔から計72本のケーブルが伸びている。見た目はいわゆる吊橋と似ているものの、実は決定的な違いがある。吊橋では塔と塔の間にメインケーブルを通し、そこからハンガーロープを垂らして橋を吊っているのに対し、斜張橋では塔と橋桁がケーブルで直接繋がっているのだ。

 一通り写真を撮り終えたところで、港の堤防をぐるりと回って橋の方へと歩を進めた。新湊大橋のもう一つの特徴が、車道だけでなく自転車歩行者道もあること。そう、歩いて渡ることができるのだ。

 海面から桁下までの高さは47メートルもあって、歩道へは橋の下からエレベーターでアクセスする。東京のレインボーブリッジと同じ方式だなぁと思った。レインボーブリッジは真ん中を走る車道を挟む形で歩道が設けられているが、新湊大橋では歩道部分は車道の下に配置されている。

橋目がけてガシガシ歩いた。
車は海王丸パークに停めたままだが、来てみたらエレベーターの下にも駐車場があった。


「あいの風プロムナード」と名づけられたその歩道部分は、これまでに渡ってきたどの橋とも違った雰囲気だった。かなり高い位置から海の上を渡っている手応えが得られる。その一方で、空間的には建物内となり、外気とは隔てられている。喩えるなら、天空のトンネルのような感じ。
 
 車道と空間が完全に分かれているお陰で、静かに、ペースを乱されることなく歩いていける。すぐ横をトラックが走り抜けていってヒヤリとさせられることもない。道幅は約3メートル。両サイドはフェンスで覆われ、さらにその外側に透明なアクリル板が斜めに設置されている。雨の日でも濡れずに済むし、強風にも耐えられる。「全天候型」なのだという。

自転車歩行者道「あいの風プロムナード」。
こうして写真だけ見ると、橋の上だとは想像できないかも?


 地面が水平ではなく、中央部へ向かってゆるやかに弧を描くように湾曲していて、そのせいで歩き始めてからしばらくは先の方が見通せない。人気も少なく、このまま先へ進んで大丈夫なのだろうかといささか不安を覚えるほどだ。
 
 中央径間は360メートルと書いたが、橋の総延長は約600メートル。そのうち、プロムナード部分は約500メートルある。橋を渡りきった先の対岸にもエレベーターがあって、そこから地上へ降りられるが、車を海王丸パークに停めているから戻らざるを得ない。引き返して、往復で約1キロ。短すぎず、長すぎずで、橋の上と思えばなかなか歩き甲斐のある距離だと感じた。

エレベーター乗り場付近は空間が少し広く、展望台のようになっている。


(後編へつづく)



吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。

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