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第27橋 福井のかずら橋(福井県)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」
「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!
祖谷のかずら橋へのリスペクト
から生まれた橋
久しぶりのかずら橋である。徳島県にある有名な「祖谷のかずら橋」についてはこの連載でも以前に取り上げた。今回はところ変わって福井のかずら橋の話だ。
えっ、福井にもかずら橋があるんだ! と驚いただろうか。実は筆者もつい最近その存在を知ったばかりだ。
きっかけは、『千歳くんはラムネ瓶のなか』(通称チラムネ)という福井を舞台にした青春小説だった。近年読んだラノベの中でも1、2を争うほどお気に入りなのだが、最近いよいよアニメ化も決まり、福井市とコラボして作品の舞台となる福井の名所をPRしている。
そのコラボイラストのラインナップの中に、かずら橋らしき橋が描かれているのを見つけた。調べてみると、福井にもかずら橋があることがわかり、ならばと行ってみることにしたのだ。橋めぐりと聖地巡礼が同時にできて一石二鳥である。
福井へは、2024年に北陸新幹線が敦賀まで延伸したことにより、東京からはだいぶ行きやすくなった。新幹線に乗れば、金沢の次の停車駅がもう福井だ。
新幹線開通にあわせて福井駅もリニューアルしたそうで、前に来たときよりも綺麗になっていた。駅前も再開発され、おなじみの恐竜のモニュメントもより存在感を増している。福井といえば、やはり恐竜である。
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東尋坊や恐竜という大物に交じって、かずら橋が紹介されていた
賑わいを見せる駅西口とは逆側、東口を出てすぐのところにあるレンタカー屋で車を借りた。橋までは公共交通機関はほぼないので車は必須だ。
では、いざ橋へ——と行きたいところだが、その前にまずは腹ごしらえをしなければ。
東口駅前の大通りを少し南下したところにヨーロッパ軒があるので、そこへ直行する。福井グルメの代表選手「ソースカツ丼」の発祥とされる名店で、県内各地に支店がある。
いつもはオーソドックスなソースカツ丼を頼むが、何度も来ているので通ぶってミックスカツ丼を注文した。カツ2枚に加えてエビフライも乗ってくる。揚げ物最高。福井といえば、やはりヨーロッパ軒である。
すっかり満腹になり、すでに福井へ来た達成感にも満たされたが、肝心の目的をまだ果たしていない。再びハンドルを握り、今度こそいざ橋へ——と思ったら、行く途中にコッペ亭があったので吸い寄せられてしまった。
福井発のコッペパン専門店である。ドライブのお供にと、あんバターコッペサンドをお買い上げ。しっとりふわふわのコッペパンは、サイズもそれなりに大きくて食後のデザートにしては食べ応えがある。福井といえば……しつこいか。
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お目当てのかずら橋はすぐにわかった。道路沿いに看板が出ており、比較的広めの駐車場も設置されていた。車を停めてから橋までは徒歩数分である。
「おぉ、祖谷のかずら橋とまったく同じじゃん!」
それが初見の率直な感想だった。昔話に出てきそうな古めかしい橋が渓谷に架けられた光景は、徳島県で見たあの橋となんら変わりがない。
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さっそく渡ってみる。かずら橋って結構スリリングなんだよなぁ……と、祖谷のかずら橋をおっかなびっくり渡った記憶が頭をもたげる。橋板と橋板の間に大きなスキマがあって、注意深く歩を進めないと足がずぼっといきそうだ。ぐらぐらと揺れるたびにヒヤッとさせられる。
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そういや、祖谷のかずら橋では幼児は渡橋禁止となっていた。本気で危ないからだろう。安全を確保するために足元を見下ろすと、橋板と橋板のスキマから下に流れる足羽川が望める。高さは12メートルもある。
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橋を渡ったところに小屋があって、そこで料金を支払う。大人300円。祖谷のかずら橋は500円だったから少し安い。
現地には橋に関してパンフレットの類はないし、案内板のようなものもない。そこで情報収集のために、受付の人に色々と質問させていただいた。
そうして判明したのが、この橋のユニークな成り立ちだ。そもそも、なぜ福井の山の中にかずら橋があるのか。
福井県池田町にこの橋が架けられたのは平成2年。当時、全国各地の「池田町」のサミットが行われたという。祖谷のかずら橋がある徳島県三好市にも「池田町」があって、同じ町名の人たちが一堂に会するそのイベントで町長どうし交流する機会があった。
徳島の池田町の町長が、福井の池田町の町長に「うちと景色が似ているし、同じように橋を架けてみない?」みたいな感じで勧めてくれた。それが、福井にかずら橋が架けられたきっかけらしい。
要するに、フォロワーなのだ。勝手に真似して作ったわけではなく、公認というわけだ。そりゃあ似ているに決まっている。
さらにいえば、かずら橋の材料となる「シラクチカズラ」と呼ばれる固い蔓のような植物は徳島から取り寄せていて、橋を作る職人さんも徳島から出張してきているのだそうだ。オリジナルとそん色ない出来なのも納得である。
「シラクチカズラは5年に一度、付け替えなくてはいけなくて。500万から600万ぐらいかかるんですよ」
受付の人が困り顔で教えてくれた。ちょうど来年その付け替えを控えているという。祖谷のかずら橋でも似た話を聞いたなぁ。あちらは3年に一度ということだった。
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橋のスペックを比較してみると、祖谷のかずら橋が全長45メートル、幅2メートルなのに対し、福井のかずら橋は全長44メートル、幅1.8メートルとなっている。多少の誤差はあるが、ほぼほぼ同一といっていいだろう。
見た目のビジュアルも、橋を渡って得られる体験も正直いって違いはないと感じた。福井近隣に住んでいる人でかずら橋を見たい場合、わざわざ徳島まで出向かずとも福井のかずら橋で十分満足できるかもしれない。
かずら橋を見に行くなら、道中にある一乗谷へ立ち寄ってみるのもおすすめだ。戦国時代の大名・朝倉氏の城下町があったところで、発掘された当時の遺構が公開されている。
一乗谷は、信長に焼き払われる前、「北陸の小京都」と呼ばれるほど隆盛を誇ったという。その街並みが復元されていたりして、歴史好きにはたまらない。
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福井駅まで戻ってきて車を返したら、西口にある「秋吉」へ急いだ。福井を代表する、超有名なやきとり店だ。開店時間である5時の10分前に着いたら、すでに30人ぐらい行列ができていた。
福井における焼き鳥の消費量は全国でもトップレベルで、福井県民のソウルフードなのだという。中でも人気メニューなのが「純けい」と呼ばれる、卵を産んだ雌の親鳥だ。噛み応えあり、じゅわっとした旨味もあってビールが進む。
開店と同時に秋吉で一杯やりつつ、そのまま駅へ駈け込んだ。18時台に出る新幹線に乗ったら、その日のうちに東京まで帰り着けたのだった。
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吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。
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