東京を代表する繁華街のひとつ、池袋。
昭和の頃のこの街の暮らしを、私は高さ一メートルにも満たない視点で覚えています。巨大ターミナル駅の喧噪からはわずかに離れた裏町の、しかしやはりごた混ぜの、人間図鑑をひも解くような暮らしです。
たとえばその場は、銭湯でしょうか。
うちは風呂のないアパート住まいでしたので、私は祖母とともに、「平和湯」という名の銭湯に通いました。脱衣場に置かれた白黒テレビでは、少年のように若い布施明が『霧の摩周湖』を歌っていました。番台横の冷蔵庫には飲み物が並んでいて、たまに祖母がフルーツ牛乳なんてものを買ってくれました。口に心地よく甘く、南国風の香りにうっとりしてしまう飲み物です。私はその瓶を大事に抱え、半裸の大人たちに交じってテレビを眺めていたのです。本当は歌番組ではなくて、『ウルトラQ』を観たいのにと思いながら。
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