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第17橋 月見橋(岡山県) |吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


岡山城へとつながる
存在感バツグンの橋

 「月見橋」という名の橋は全国各地にあるが、岡山県岡山市の「月見橋」の話だ。岡山城と岡山後楽園を結ぶ、岡山市民にとってはたぶん、お馴染みの橋。

 橋の存在を知ったのは、岡山後楽園を訪れたときのことだった。日本三名園に数えられる、だだっ広い大名庭園をぐるりと散策していると、メインの入園口とはほぼ逆側に裏口のようなゲートを見つけた。

岡山後楽園は、岡山藩2代目藩主・池田綱政が築いた。
園内では鯉に餌やりができたりして、子連れでも意外と楽しめたという感想。


 再入場可というので、そのゲートから園の外へ出てみると、すぐ目の前に岡山城がそびえ立っているのが見えた。黒塗りの壮麗な天守は、「令和の大改修」を終え、2022年11月にリニューアルされたばかりだ。

 後楽園と岡山城の間には、旭川が流れている。川がお堀のような役割を果たしているわけだが、これがまた風情があっていい。スワンボートに紛れて、大きな桃の形をしたユニークなボートが川を行き交う様も、いかにも桃太郎の町、岡山という感じで絵になる。

天守は戦後再建されたものだが、外壁が黒塗りで写真映えする。周囲の景観も美しい。


 もともと城好きであることに加えて、生粋の西軍贔屓なので、初代城主があの宇喜多秀家だったと想像するだけで胸に込み上げてくるものがある。豊臣家五大老の一人で、関ヶ原では奮戦虚しく敗れ、八丈島へ流された戦国大名だ。秀家について語り始めると話が大きく脱線しそうなので、今回は割愛。

 川の向こう岸にある岡山城へ渡るために、橋が架かっていた。それが、月見橋だった。

 強い橋だな——パッと見て、まずそう思った。お城にも負けないぐらいの存在感がある。ランドマークとしての個性といってもいい。

 大名庭園とお城を結ぶ橋と聞いたら、きっと歴史的な建造物を想像するだろう。たとえば木造だったり、朱塗りだったり。

 ところが、月見橋はちょっと違う。というより、むしろ正反対だ。鉄橋だし、色も地味な白系。僕は、だからこそ「強い」と感じた。ミスマッチなのが逆にいいのだ。

 好みの問題なのだろうが、デザインがシンプルなのも好印象である。三角形に鋼材を組み合わせる形で橋桁が構成されている。「ゲルバートラス式」というらしい。どちらかというと洋風な雰囲気。

架けられたのは70年近く前。これまでに三度、外装の塗り替えが行われている。


 とはいえ、そんな無責任な発言ができるのは、僕が単なる旅人だからなのかもしれない。実は、月見橋のデザインをめぐって、地元では長年議論の的になっているのだという。

 岡山城と後楽園という和風建築のはざまに洋風鉄橋があることが、「景観にそぐわない」「殺風景」とする批判がたびたび寄せられている。市議会でも恒例の質問となっている。実際に、デザイン変更の公募なども行われている。

 ともあれ、いまのところ再建に関する正式決定はない。デザイン変更について繰り返し取り沙汰されながらも、結局は立ち消えになっているのが現状のようだ。

 月見橋が建築されたのは1954年。岡山城周辺で「産業観光博覧会」が開催されることになったのがきっかけだ。当初は吊り橋にする案も出たが、予算の問題などもあり、いまの形に落ち着いたというから、その頃からすでにデザインに関して賛否両論あったであろうことが伺える。

 このときは家族旅行で岡山へ来ていた。後楽園側の橋の袂に、テラス席で岡山城を眺めながらお茶ができる「碧水園」という小洒落たカフェがあった。妻や子どもたちがジェラートを食べたいというのでそこに置いて、単身橋を見学することにした。ジェラートよりも橋なのだ。

「Cafe & Restaurant」「BOAT FOR RENT」看板の文字が英語だけなので、
まるで外国の風景のようだ。


 実際に歩いて渡ってみると、不思議な感覚があった。狭いのに、なぜか開放感はある。そして、それは欄干の高さが妙に低いせいだと気がついた。身長約180センチの筆者だと、腰の位置より低いぐらい。

 柵として考えると物足りなさを覚える人もいるだろう。体を乗り出したら、川にドボンと落ちてしまいそうな怖さはある。風の強い日などは腰が引けそうだ。しかし鉄橋なので安定感はあるし、それほど怖い感じはしなかった。こういうのは渡る人の気持ち次第か。

 訪れたのは休日だったが、市内屈指の観光地だけあって、橋は大勢の人々が行き交っていた。幅3メートル、全長115.2メートル。普通に渡るだけなら、1分もかからない。

 これまでの橋旅と比べて、極端に短い滞在時間である。一通り写真を撮って踵を返し、家族がジェラートを食べ終わる頃を見計らって店へ戻った。

せっかく来たのでボートにも乗った。川から眺める月見橋もまたいい。




吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。


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