『進撃の巨人』における、「好きな子」理論の応用的実践について
妄想は楽しい。それゆえに小説化や創作物のクリエイターは、脳内で妄想が爆発して世界を創造(創造)しすぎるあまり、膨大な設定を作ることがありますよね?
ところが
と叫んだところで、うんざりされるどころか見向きもされない(小説なら設定の説明に入ったところで離脱される)経験が、あったのではないでしょうか。
しかしこの問題を、実に鮮やかな方法で解決している作品があります。それがタイトルで示した『進撃の巨人』。諫山創氏原作の漫画で、発行部数は全世界&電子版も含めると1億部を超えているとか。
独特の世界観で読者を魅了する『進撃の巨人』は、この問題をどのような方法で解決しているのでしょうか。
そこでこの記事では『進撃の巨人』を分析して、私なりに解明した秘密を披露したいと思います。
ただし前回の記事アニメ『約束のネバーランド(第一期)』のストーリー構造を分解すると同じく、壮大なネタバレを含んでいるので、予備知識を入れずに作品を楽しみたい方は、回れ右をしてそっとブラウザを閉じてくださいね。
それでは心の準備を済ませた方は、スクロールしてください。
・
・
・
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
・
・
・
心の準備はできましたか?では秘密を解き明かしていきましょう。
進撃の巨人とはどんな作品か
秘密を解き明かす前に、『進撃の巨人』とはどんな作品なのかを、まず見ていきましょう※。
※前提条件として、私はアニメ第4期2シーズン目途中までしか履修してないことを告白いたします(2,022年1月現在)
もちろん『進撃の巨人』の魅力すべてを、この記事内で語り尽くせるはずがないので、他の魅力は割愛します。それを踏まえ、あえて一つを挙げるなら、リアリティを感じさせる奥深い世界設定だと考えます。
私が思いつくだけでも、下記のような設定が練り込まれています。
世界を支配(?)する巨人が何者でなぜ生まれたのか
その巨人から人間を守るために作られた三重の壁の意義と正体
壁によって守られた地区間でのヒエラルキー
巨人を戦うための兵器と軍隊
3つの軍隊組織の構造
軍隊が持つ立体機動装置
壁成立の歴史
壁の外にある世界の存在
上記リスト以外にも、私以上に詳しいあなたならピックアップできる設定があるでしょう。全34巻のなかで語られる膨大な世界の秘密。これらは作品を読めば読むほど知りたい欲求が増していったはずです(少なくとも私は秘密を知りたくなりました)。
しかし冒頭で書いたように、こんな膨大な設定の山を見せれば、(マンガと小説などの違いこそあれ)読者は回れ右をしてしまうはず。あなたの作品ではそうでしたよね?
ところが『進撃の巨人』では、大半の読者が作品を読み続けたのです。それはなぜか。ここに私は「好きな子理論」が潜んでいると考えます。
「好きな子理論」とは?
「好きな子理論」。聞き慣れない言葉ですよね。当然です、この記事のために私が作った言葉なのですから。では「好きな子理論」とは、一体どんな理論なのでしょうか。
一言で表すなら、
ということ。ここでいう好意とは、「好き」という感情だけでなく、「わかるぅ~」という共感や、「かわいそう」「がんばって!」という応援や同情まで含めた感情を指します。
さらに「好きな子理論」は裏を返せば、好意のない人(やモノ)には、全く興味を抱かないとも言えるのです。
よくオタクくん(と敢えて表現します)が、自分の関心事を一気にまくし立てるように喋ってしまい、相手にキョトンとされて引かれる失敗を耳にします。
この行為が失敗に終わる理由は、相手が好意を持つ前に、受容できる範囲以上の情報量を与えてしまうからです。ちなみに「ただしイケメンに限る」という言葉は、相手が外見だけですでに好意を持っているため、あなたのことをもっと知りたいという受け入れ体制ができている、という意味ですね。
では外見的に普通のオタクくんに勝機がないかといえば、そんなことはありません。とはいえ人間の印象は外見が八割だと、私は確信しています。
「おいおい、言ってることと思っていることが真逆じゃね-か!」
そんなツッコミが聞こえてきそうです。そうです、悲しいことに「ほぼ」外見で決まってしまうのです。ところがこの外見での印象は不確かなことも多い。そして少しでも(外見以外の)「好意」を持てば、面白いことに人は「外見補正」がかかるのです!!
というわけで、「外見補正」をかけるために、受容範囲内での情報で興味を引かせることが、「好きな子理論」における攻略のキモになってきます。
『進撃の巨人』は徹底した倒置技法によるストーリー展開を使っている
なんだか安っぽい恋愛論みたくなってしまいましたが、膨大な設定を知ってもらうための方法として、『進撃の巨人』が「好きな子理論」を徹底的に応用している、ということ。
「ストーリーとは因果関係がある話」とエライ誰かが表現しているとおり、物語には必ず「原因」があって「結果」が存在する、つまり「因果関係」があります。(ない話は、単なる事実の羅列だと私は考えます)
普通の手順に従えば、「◯◯のせい(原因)」で「◯◯が起こった(結果)」と表現するでしょう。例えば、「地球に重力がある」から「りんごが地面に落っこちた」というように。
ところがこの手順には、「好きな子理論」に当てはめると重大な弱点があることに気づきます。つまり原因が受容可能な情報量を超えると、結果を知る前に人は興味を失う、ということです。特に『進撃の巨人』のような、膨大な設定がある話では。
では『進撃の巨人』は、この弱点をどのように克服しているのでしょうか。その答えは、原因と結果を入れ替えて読者に見せる、倒置技法の徹底利用で解決しているのです。
結果を先に見せる(物語なら、主人公に何が起こったのかを最初に見せる)と(同情や共感を含む)好意を持ってもらうことができます。このことで(主人公に対する)興味が湧き、主人公(を含めた世界)のことがもっと知りたくなる、受容許容量が大きくなります。
【具体例1】冒頭
具体例を上げてみましょう。
物語冒頭、読者に与えられる舞台の情報は、次の3つです。
人間の住む世界は、高い壁に守られている
どうやらその外には、人間がまともに戦っても勝てない巨人がいる(らしい)
壁に守られた街は100年間平和を享受しており、巨人から人々を守る軍隊はいるものの、ほぼ機能していない
たったこれだけの情報で、主人公になにが起こったのかを描きます。
第一話では、壁を超える巨大な巨人により門に穴を開けられ、外にいた巨人の侵入を許してしまい、最終的に主人公の母親が巨人に食べられてしまう、衝撃的な展開。
この結果を描くことにより、読者は主人公に同情を寄せ、
「このあとどうなるのだろう、どうしてこんなことが起こったのだろう」
と興味を抱くことに成功しているのですね。
さらに物語の中で、主人公の父親が残した「世界の秘密」を解き明かすことが、巨人たちを駆逐することに繋がると読者に提示することで、物語の目的を設定し、秘密を知りたい心理と、ゴールに向かってほしい心理を一致させるテクニックも使っています。
【具体例2】女型の巨人出現
冒頭の例は物語全体に対する「好きな子理論」の応用でしたが、もちろん使用例は冒頭だけではありません。
アニメで言えばシーズン1の中盤、女型の巨人が出現するシーンがあります。このシーンの前になんの前触れもなく、調査兵団の右翼前方が壊滅状態に陥るのですが、そこも結果が先に読者(視聴者)へと示され、原因は不明のまま物語が進みます。
さらに今まで知性がないと考えられていた巨人たちのなかに、知性がある巨人が出現します。それが女型の巨人です。この女型の巨人との戦いで、主人公エレンが心を通わせたリヴァイ隊のメンバーたちが、次々と巨人に命を奪われてしまいます。
残虐な巨人の行いを見た読者(視聴者)は、さぞかしリヴァイ隊のメンバーと、それに関わったエレンに同情心(好意)を抱いたことでしょう。このような結果を見せることで、ストーリーを追う私達は次のことを知りたくなるのです。
女型の巨人の正体はなにか。
なぜ右翼前方が壊滅状態に陥ったのか。
もちろんこのシーンは設定というよりも、ミステリー(謎解き)要素の強い部分にはなりますが、より原因を知りたくなるよう、読者は誘導されているのです。
【具体例3】コニーの故郷の村人
もう一つ例をあげましょう。
アニメシーズン2の序盤、登場人物の一人コニーが久しぶりに村へ帰るシーンがあります。奇妙なことにその村には人影がないのですが、巨人がこの村を荒らした跡があります。
また村の家の一つには、身動きできない女型の巨人が横たわっており、この村を訪れた調査兵団を悩ませる結果となるのです。そしてこの女型の巨人が、後にコニーの母親に似ていることが判明します。
この村の謎は物語の終盤、世界の謎が確信に触れるまで解明することはありません。
この例も結果を先に示すことで、コニーの立場に立って同情させ、なぜこれが起こったのかを知りたくなる「好きな子理論」の応用ということができるでしょう。
以上、具体例を3つ挙げてみました。
もちろん『進撃の巨人』では、上記以外の箇所でも様々なシーンで「好きな子理論」の応用(因果関係の倒置手法)が使われているので、気になるあなたも探してみてはいかがでしょうか。
『進撃の巨人』のストーリーを再度確認したい方向け
▼アマゾン Prime Video
▼原作1巻(Kindle)
▼原作一気読み用(Kindle)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?