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01-4 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

ホルモンの森に消えゆく人たち
01-4 寺田ひろみ(シンガーソングライター)の場合

ユーコは占い師だ。

九星気学と霊感を組み合わせた独自の占い方法で雑誌やメディアに取りあげられ、そこそこ名前が売れるようになっていた。今ではインターネットを利用した営業もしている。

ユーコのスタイルとしてメディアには素顔を晒さないようにしている。

仮面舞踏会で装着するような装飾性のとんだベネチアンマスクを装着し、中世のゴシック様式をモチーフとしたファッションで神秘性をアピールしていた。

普段の彼女はオーストリア製の生成りベースのチロリアンシャツと70年代デニム地のワイドパンツといった、ナチュラルでアンティークなもの好み、ゆったりと着こなしていた。

寺田ひろみと初めて出会ったのは10年前、1996年4月14日。

日曜日の歩行者天国は快晴だった。

ユーコは営業の一環として路上占いをしていた。その頃ベネチアンマスクはまだ使用しておらず、黒を基調とした魔女っぽいイメージを演出していた。色白なユーコは、日に焼けるのが嫌なので、大きな日よけパラソルを広げ固定させた簡易の占い席を路上に設置し、つばの広いハットに薄手の長袖、ロングスカートというスタイルで客待ちをしていた。

そこへ寺田がふらっと右隣にやってきて、
いきなりギター演奏で唄いだしたのだ。

「ちょっと、あんた!」

ユーコは唄を静止させて話しかけた。

「左50メートル向かいの、青いポストの前で唄うと、いいことあるわよ。」

「えっ…どれかしら?」

青いジーンズのオーバーオールに無頓着に肩まで伸ばした黒髪。
化粧っけのない顔。

(カントリーガールだ…)と心で思い、
その方向を指さして丁寧に教えてあげた。

カントリーガールは、ユーコの前を左方向に通り過ぎ、意気揚々とギター片手にスキップして、指定された方向へ遠ざかっていった。

「ふぅ…、隣で唄われちゃ、営業妨害でしょ。」

ユーコはうまく追っ払ったことに満足して、笑いが込み上げてきた。

夕方になりユーコがそろそろ店じまいをはじめた頃、カントリーガールがニコニコしてやって来た。

「いいことあったわよ~!」

得意そうに差し出した手には、大手レコード会社の名刺があった。

それから二人は意気投合し、ユーコの家で飲み明かした。

住むところがないというので、一緒に暮らし始めたのだった。

illustration:holmium

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