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新型コロナで変化した世界

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新型コロナウイルスが日本で拡大し始めてから3度目の年末。緊急事態宣言が出て、街から人がいなくなり、我々の生活様式も大きく変わりました。そんな中で大打撃を受けたのが、林伸次が経営するbar bossaのような都市部の飲食業。今、林さんのお店はどうなっているのでしょうか? 2022年最後に、コロナで変化した世界について考えます。

取り除かれたアクリル板

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

色んな方から、「コロナはどうですか? もう街にお店にお客さんは戻ってきていますか?」という言葉を毎日のように聞かれるので、今日はそんな話を書こうと思います。

カウンターのお客さまとの間のアクリル板を外したのが、この夏頃だったでしょうか。お客さまの中には、「子どもが小学校で感染してきて、濃厚接触者になっちゃったから、しばらく家を出られなくて」なんて声がよく聞かれる時期でした。

僕の周りの個人経営の飲食店では、もうスタッフはマスクを外し始めたのもこの時期でした。一部上場のある大手企業はこの2年間、一切会食禁止という戒厳令が出ていたそうです。そういう会社の経費で飲める人たちが、本当にこの2年間完全にいなくなっていたのですが、やっと戻ってきたのもこの夏頃からでした。

しかし、今はどこも経費削減のようで、「営業で会食なんてしなくても数字は変わらなかった」というデータが出てしまったからなのか、そんなに簡単に経費を使うわけにはいかなくなった、という声をたくさん聞きます。

そして、多くの企業が都心のオフィスを減らしているようなんですね。週に1、2回出勤すればいいというリモートワークが完全に定着してしまったから、経費削減でオフィスがどんどん少なくなっているようなんです。

そういうわけで、bar bossaのような夜の都心の大人が通うお酒のお店は、コロナ前のような状態には全く戻っていません。経費で飲んだり、会社帰りに「ちょっと今日飲みに行こうよ」みたいなことが激減しています。

逆に、三茶や町田や大宮のような、かつては都心に毎日通っていたサラリーマンが住んでいる街の飲食店は賑わっているという話をよく聞きます。もう都心までの電車の定期券も持っていなくて、近所の飲食店で飲むというのが多いのでしょう。

渋谷に訪れた大きな変化

bar bossaのある渋谷は、新しいビルができたのに空き店舗ばかり、というのが目立ちます。不動産屋さんに聞いたのですが、渋谷は家賃が高すぎて店が入らず、渋谷の景気は戻ってきてないと判断されて新規の店舗が入らないという負のスパイラルを起こしているとのことでした。

渋谷のランドマーク的存在だった東急本店が、来年の1月で閉店してしまうのが、残念なニュースです。Bunkamuraは継続するようなのですが、大人の街にしようと渋谷を引っぱっていた東急本店がなくなるのはすごく大きいです。その周辺も空き店舗が目立っています。

東急ハンズが買収されたというのも大きなニュースでした。bar bossaは1997年の開店時、東急ハンズの「木の売り場」で、お店の方に「机の作り方」を教えてもらって、木をちょうどいい大きさに切ってもらって、隣の階でペンキとニスを買って、別の階で机の脚を買って、自分たちで安く手作りの机を作ったっていう思い出があります。

「看板を作ろう」と思ったら、東急ハンズのスタッフの方に相談して、色々と教えてもらって、手作りするというのが僕のお店の決まったパターンでした。今のところ渋谷店は継続するようですが、そういう部分は変わらないで欲しいなと思っています。

コロナ前は、日本の種類豊富で便利な「モノ」が好きな外国人たちで、東急ハンズはいっぱいになってたこともあったのですが、そういうことも減ってしまったのでしょう。

そんな外国人観光客も、渋谷には戻りつつあります。bar bossaにも少しづつ、外国からのお客さま、増えだしてはいます。でも、まだまだかなあという気もします。コロナ前と大きく違ったのは、外国の方がbar bossaの日本語のメニューをスマホで撮影して、アプリで自国語に翻訳して、注文してくれるようになったことでしょうか。そういうスマホのアプリはどんどん進化していきますね。

若者は渋谷に戻ってきています。ハロウィンはコロナ前のあの危険な雰囲気ではないですが、大勢の若者で賑わっていましたし、ワールドカップで日本が勝ったら、真夜中でも若者たちがスクランブル交差点に集まって、大騒ぎしていたようです。「青の洞窟」という渋谷の公園通りからのイルミネーションも今年は再開されて、クリスマスのカップルたちが長蛇の列で楽しんでいたようです。

変わったことといえば、コロナの間に、マッチングアプリで出会うというのがすごく一般化したようで、知人友人の飲食店でも、bar bossaでも、アプリで知り合って1店舗目として利用していただけるパターンがすごく増えました。「あれ? 仕事関係でもなさそうなのに、おふたりともずっと敬語のまま」なんてカップルは、アプリで知り合って初日なのだそうです。

そういう意味では、インターネットで知り合っても結局リアルで会わなきゃいけなくて、そういうときは都心の飲食店が指定されるので、まだまだ僕たちの出番はあるんだなあ、むしろリアルな店舗は「デート需要」が生き残るところだなあと感じている年末です。

あなたは年末、誰とどんなお店でお食事していますか? それでは良いお年をお迎えください。また来年もこちらのお店でお会いしましょう。


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林伸次(はやし しんじ) 1969年生まれ。徳島県出身。1997年創業の渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主。本連載の書籍化『ワイングラスのむこう側』『大人の条件』はじめ書籍多数。また『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』など、小説も執筆。

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