一度きりの人生
やりたい仕事と今の仕事
いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。
先日、セルジオ・メンデスという偉大なブラジルのミュージシャンが亡くなりました。「マシュケナダ」っていう曲、ご存じですか。セルジオ・メンデスが、ブラジル66というバンドと一緒に1966年にカバーして大ヒットした曲です。実はセルジオ・メンデス、オーディションで決まったこの曲の女性のボーカルに対して、あまり乗り気ではなかったという逸話が残っているんですね。
でも今、残された録音を聞く限り、これ以上ないっていうくらい最高だし、セルジオ・メンデスもこのレコードから大進撃が始まり、世界中で大ヒットしました。68年には地球の裏側の日本でもツアーが行われて、当時の日本のお洒落な人たちは、セルジオ・メンデスに夢中になりました。セルジオ・メンデスは、ブラジル66と録音したこのレコードで、世界のポップミュージックをガラリと塗り替えたんです。
この「乗り気じゃなかった」という話で他に有名なのは、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」でしょう。コナン・ドイルは途中からはもう「シャーロック・ホームズ」の話は書きたくなかったのだけど、仕方なく書いていたという説があります。
ところで、あなたは今やっている仕事、やりたくてやりたくてしょうがない仕事ですか? もしかして、できればこんな仕事はやめたいけど、仕方なく続けている、という状況でしょうか。
待ってください。もしそうだとしたら、いつからそうなったのか、ちょっと考えてみませんか。
例えば、最初に就職したときはどうでしたか? 「よーしがんばるぞ」と気合いを入れて入社して、その後少しずつ嫌になってしまったってところでしょうか。それとも最初から、「みんなが就職するから自分も」という感覚でしたか?
あるいは、学生の頃にしていたアルバイトは楽しかったですか?「まあお金がもらえるから」「今どうしてもお金が必要だから仕方ない」っていう面も大きかったのではないでしょうか。
みんなが望んだ仕事をしていないけど、だからこそ世界は美しい
今、本当に自分の仕事が好きで好きで、お金なんて関係なくて、とにかくずっとこの仕事をやっていたいって思っている人って、全世界でどのくらいの割合なんでしょうね。
仮に、そう思っている人が全体の1割だとしたら、他の9割の人たちはどうしてその仕事をしているのでしょうか。生まれてきた以上は食べないと死んでしまうし、お金がないと生きていけない。仕事はやめられないから続けている、ってだけかもしれないし、その中で楽しみややりがいを見出して働いているのかもしれません。
仮に、「どうしてもしたかった仕事じゃない」という人が世界の9割だとして、それで世界がうまく回っているのなら、それはそれで世界はとても美しいと思います。
誰かが運ばないと荷物は届かないし、誰かが種をまかないと野菜は育たないし、誰かがプログラムしないと機械は動かないし、誰かが歌わないと音楽は響かないし、誰かが書かないと本のページは真っ白のままです。
僕、今年で55歳になります。何度も何度も、「あれ? 僕の人生ってたった1回なのに、これで良かったのかな」って立ち止まって考えるんですね。でも、もう1回人生をやり直しても、同じように渋谷でバーをやってるだろうし、妻と結婚しているだろうし、こんな文章を書いていると思うんです。
そんな1回きりの人生について書いた、『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』という小説が先日出まして、これで僕、もう死んでも大丈夫って思っているところなんです。もし良ければ、お読みください。
ぜひこちらから試し読みしてみてください。
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