極小監査法人の体験談&怖い話

こんにちは、公認会計士・税理士のyamakenです。
11月15日に公認会計士試験の合格発表がありましたね。
合格者の皆さん、おめでとうございます。

合格者の方は大部分が監査法人に就職されるかと思いますが、大手監査法人か中小監査法人で悩まれる方もいるのではないでしょうか。
中小監査法人といっても太陽みたいな準大手からパートナー5名の極小監査法人までいろいろありますよね。
ちょうど就活の時期でもあるので、私の体験談をお伝えしようと思います。
n=1の話なのであくまでこんな法人もあるんだね、というレベル感で読んでいただけますと幸いです。

入社の経緯

私が論文式試験に合格した時は会計士の就職氷河期のため大手に入れず、
一般の事業会社も含めて就職活動をして、翌年の夏頃に小規模監査法人に入社しました。
社員5名に職員が6名程度の零細事務所でした。
代表社員と出身大学が同じだったのと、試験合格順位がそこそこ良かったので入れてもらえた感じでした。
当時はまだ大学4年生でしたので、学生非常勤という形でしたが週4で勤務することになりました。

監査調書が紙

もう十数年前の話なので今は事情が違うかもしれませんが、監査調書を電子上でアーカイブするシステムは特に導入されていなかったので、基本は全部紙調書でした。
同時期の大手監査法人では電子調書システムが普通に使われていたと思いますが、小さい法人なのでインフラ面でも劣後していたわけです。
監査調書自体はエクセルやワードで作るのですが、それを後で全部印刷してファイリングしていました。
四半期レビュー調書でも結構な分量になり、まとめてパンチで穴を開けて、厚さ5~10cmのパイプ式ファイルに綴じこんだものです。
監査計画、内部統制、第1四半期、第2四半期、第3四半期、期末調書…などカテゴリ別にファイリングしていました。
往査の時は旅行用キャリーケース(デカめ)に調書ファイル数冊を詰められるだけ詰めて現場に運ぶので結構大変でした。
新人スタッフなので運搬役は当然私です。
月曜から往査開始だと金曜に調書を家に持って帰らないといけないので嫌でしたね。
なんで紙に綴じ込むかというと監査が終わった後から改竄できないようにするためなんですが、普通に後からいろいろ書き込んだり差し替えたりしてたので特に改竄防止の意味は無かったですね。

監査業務の品質・独立性とか

監査業務のレベルは今なので言えますが非常に低かったです。
その法人の社員と職員には大手出身者がいなかったので(1人だけ中央青山の人がいましたが)
最新の監査アプローチへのキャッチアップは全然できていない状態でした。
統計的サンプリングって何?適当に選んどいて、みたいな。
監査調書の手続や結論のドキュメンテーションもちゃんとしていなくて、監査調書なのか会社から入手した資料なのかよく分からないまま全部ファイルに綴じ込んでたり。

監査のノリ自体もいわゆる昭和の監査で、独立監査人としてクライアントに厳しく指摘するなんてとんでもないって感じで。
意見に影響がほぼないレベルの細かいエラーや開示の間違いとかは指摘しても良かったんですけど、この処理アウトじゃない?って思うようなものでも影響が大きい(かつ昔から続いている)問題については見て見ぬフリでしたね。
まあ監査クライアントが限られてるので、揉めてご機嫌を損ねたら契約切られて潰れてしまいますからね。
中小の監査法人だと税務やアドバイザリーなんかもやってて他に収益源があるっていうパターンも多いかと思うんですが、その法人については監査100%だったので、それも良くなかったんでしょうね。

監査クライアントへの接待もバリバリやってた気がします(接待受ける&接待するの両方)。
私はペーペーだったので出張の時くらいでしたが、結構高いお店に連れて行ってもらえて、今まで食べたことないような料理をご馳走になりまして
「こんな美味いもの奢ってもらえるなんて会計士って凄いんだな~」とか無邪気に思っていました(笑)
冷静に考えたらアウトですよね。
外観的にも精神的にも独立性は保持されてなかったよな~と思います。

あと、その法人は先代所長からの縁みたいな感じで東証一部上場グローバル企業の国内子会社の会社法監査や任意監査をいくつか持ってたんですが、
その上場企業自体は某大手監査法人が監査を担当していまして。
我々は子会社監査人としてグループ監査の指示書(インストラクション)をもらっていたのですが、
報告用連結パッケージのチェックについては「チェックマークだけつけとけばいいよ」と上位者から指示されたので空チェックした内容をまとめて郵送していました(汗)。
某大手監査法人さんその節は本当に申し訳ございませんでした。
あの内容でOKだったのか、親会社チームの方でフォローしてたのかは謎。

四半期レビューや監査の審査も形式上はあったのですが、5人の社員で回している監査法人なので、形式以上のものではなく、審査社員のサインをもらうだけで内容に関する質疑応答なんかは特にしていなかったです。
社員が横に座ってる別の社員に「お願いします」って言って5秒後に審査サイン完了みたいな…。
審査が機能していない監査ってここまで適当になるんだな、って実感しますよね。

教育研修など

教育研修制度に関しては特に無くて、会計士協会とかがやっている監査実務の研修に行ってきてね、という感じでした。大手以外のスタッフ向けに監査調書の作り方を学ぶ研修みたいなのがありまして、それに参加したのですがなんだかうちの調書と全然違うな!と思ったのを記憶しています。
なんと大手では各調書間で検討数値のリファレンスというのを取っているんですよね。
それまでリファレンスという概念がありませんでしたのでこれはカルチャーショックでした(笑)。
(その研修で学んだリファレンスと調書番号の記載などを所長に報告したところ、うちでもやった方がいいよね、という話にはなったんですが結局面倒くさがって誰もやらなくなり有耶無耶になりました。)

あとは普通に現場でのOJTって感じで、極小法人なのでパートナーと2年上の先輩と私の3人の監査チームでいくつかのクライアントを担当してたんですが、その2名は事務所内では例外的に(?)ちゃんとしてる人達だったので
学生あがりで右も左もわからなかった私にいろいろ指導していただきました。

待遇面

それから気になる待遇面ですが、これはリーマンショック以降の就職氷河期の頃の話ですので大手その他各法人も渋い時期だったかと思いますが、月給20万円×12ヶ月の年棒240万円でした。年棒制なので残業代は無いと言われていました。シンプルに労働基準法違反ですね(笑)。
当時は世間知らず過ぎてそんなものかと受け入れていた(情報弱者)のと、学生非常勤だから安いのかなと思ってたんですが、その次の4月に卒業しても特に昇給は無かったので所長に確認すると青二才のくせに生意気だと叱られました!
大学の同級生が一般事業会社に就職してもらってる給料より低いのはなかなか辛いものがありました。

その後

まあそんな感じで1年強やっていたんですが、上記のような業務自体に段々違和感と危機感を覚えてきており、かつ待遇の低さにモヤモヤしていたところ、折よく会計士の就職状況も改善してきていたので、定期採用に過年度合格者枠で応募して、無事大手監査法人に転職することができました。
大手に移ってからはグローバルスタンダード(かつ真面目な)監査やアドバイザリーの業務を経験できて本当によかったと思っております。

ちなみに私のいた監査法人はその数年後に金融庁から業務停止処分を受け、解散しました(粉飾決算を数年にわたって見逃していたそうです。)
当時いた人達は法人が解散した後どうなったのかわかりません。

今は上場会社等監査人登録制度もありますし、あまりにクオリティが低い監査法人は(上場会社の監査をしている限りは)少なくなっているのかなと思いますが、何かよほど切迫した事情や固い意志があるのでなければ大手監査法人、もしくは大手と遜色のない業務品質が担保された監査法人で会計士としてのキャリアをスタートすることをお勧めします。

以上、参考になれば幸いです。

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