勇者よ目覚めなさい、冒険の前夜にて
明日、新しい仕事が始まる。
まだ目にしたことのない新天地に赴くはずの足は、案の定フライングして地についていない様子。
日本に完全に移住してからの私は、かつて抱いていた夢をもすっかり忘却してしまっていた。
パッシブで、近視眼的で、閉鎖的な環境の中、正体不明の苦痛に耐えながら働いていたのはきっとそのせいだろう。
いつの時代にも「好きを仕事にする」ことをめぐっての議論は絶えないが、
誰しもが自分の世界において勇者たる資格と、冒険の機会が常に存在する気がする。
もちろん各々が所望する果実を手にするには、それなりの努力とチャレンジが要るはずだけど。
私はいずれ「あらゆるものづくりが自由に交流する場」を作りたい。
その第一歩は日本の伝統工芸に携わることで、やっと腹をくくることができた。
遠方はるばるからの御人が三度も訪ねるほど、遠大で緻密な計画を隠し持っている訳でもないけど、このごにおよんで気おじしても始まらない。
だてと酔狂の発露だろうが、とにかく自分らしくやってみたいと思っている。
気づけば飛ばず鳴かずの鳥が耳元で囁いている。
「勇者よ、目覚めなさい」と。