MONO新作台本創作ノート1
タイトルを決めた。
「たわごと」
随分とシンプルになった。凝ったところは一つもない。多分、MONOの作品の中で最もシンプルなものになったと思う。シンプルさの度合いを服装で例えれば白いTシャツにジーンズという雰囲気だ。
元々、私は文章のような着飾ったタイトルを好んできた。
「その鉄塔に男たちはいるという」 「橋を渡ったら泣け」「なるべく派手な服を着る」 「少しはみ出て殴られた」などなど……とにかく文章になっているものが多い。
こうしたタイトルはリズムも小気味いいし、作品の雰囲気も確実に伝わる。ただ、問題は皆から正確に覚えてもらえないことだ。お客さんなどからも「あれが好きだったんです、あの、ほら、鉄塔にいるってやつ」などと言われてしまう。
まだこれなら覚えていないということを正直に示してくれているので対処しやすいのだが、最も厄介なのは微妙に違っている場合だ。「見ましたよ、『あの鉄塔に男どもがいるという』などと言われた時には訂正はせず「ありがとうございます」と答えることにしている。勝手に自分でややこしいタイトルをつけておいて覚えてくれなんておこがましい。
「少しはみ出て殴られた」に関してはチラシができた時、ある知り合いから「今回のタイトルいいですよね」と褒めてもらったことがある。タイトルがいいというくらいだからその人は正確に覚えてくれたんだと嬉しくなった。「嬉しいです」と照れる私にその人はこう言ったのだ。「いやいや、本当にいいタイトルだと思いますよ、『殴ったと思ったら殴られていた』って」。
知らない間に、目にも止まらぬ速さで繰り出されるストレートの話になっていた。そしてこれはこれでいいタイトルだね。
こうした文章風タイトルには随分と前から飽きていたのだ。だからここ数年はシンプルなものをつけようと心がけていた。
2019年に上演した「はなにら」はかなりシンプルだ。今回の「たわごと」同様、平仮名で文字数も同じ。けれど実は「はなにら」の方が凝っているんだよね。「はなにら」は花の名前。けれどひまわりやバラのような世の中全員が知っている花ではない。一瞬、なんだろうという疑問を抱かせる狙いがある。Tシャツにジーンズだけれどよく見るとジーンズがヴィンテージだったくらいの変化をつけている。
今回はそれすら嫌だった。
もうとにかくシンプルに。狙っていると思われたくない。飾り気がない言葉に全てをかけたい。
その結果「たわごと」になった。 これが漢字で「戯言」になっていればTシャツにワンポイントくらいの引っ掛かりも出るだろうけど、もうそのワンポイントすら邪魔だった。
もちろん今回だって最初は色々と考えた。
「タショウノエン」
「とにかく黙ってくれ」
「一度黙ってくださいますか」
「12の戯言」
「世迷言」
……三十個ほど候補を出した。「およそ十二の戯言」というのもあったが、これでは「約三十の嘘」の劣化版になってしまう。シンプルを心がけすぎて「12」というタイトルも考えてみた。
四時間ほど格闘した結果「世迷言」と「戯言」ベースにすることに決まったが、ここからさらに四時間費やした。最後に残っていたのは、
「よまいごと」
「よーまいごっと」
「よまいごとごと」
「たわごと」
「たわごとごとごと」
「たわごとのこと」。
ただの言葉で勝負するなら、変な工夫は必要ない。Tシャツは真っ白でいい。こうなったら平仮名で「よまいごと」か「たわごと」しかない。
「たわごと」とつぶやいた時、妙に腑に落ちた感じがした。もちろんそれは考えている内容とのリンクも含めてだけど。「よまいごと」にはまだ少しだけいやらしさが残っているしね。
現在は人物配置を始めている。今回は事情があって少しだけややこしい。メンバー9人にこれをハメていくのは至難のわざだが、これはまた今度書こう。