見出し画像

夜中、私の部屋に生まれたズレ

多分、星野源さんのラジオを聞いていた夜、その時からだった。普段のオープニングトークも、スタフの方々とのやり取りの話も、なぜか少し違って聞こえた。昔ラジカセで聞いてた番組みたいに、古い記憶みたいに、いまだに分からないが、アナログのような匂いが私の小さな部屋に流れ出てるような感覚がした。いつも通りベッドに潜り込み、布団に顔を半分ぐらい隠し、寝るつもりで聞いてるのだが、携帯からの小さな音に(一人暮らしではないため、いつも最低限の音量で聞いてる)に耳を傾けると、’今日は自宅で放送をやってます’と、話が聞こえた。いわゆるリモート放送。その言葉は随分たくさん聞いているのが、その時初めてその意味を実感した。同じ時に同じ話に触れているけれど、別のところでの共存。他人との距離がその夜、私の部屋に訪れた。

画像1

今年春頃。個人的にはランプ以来一番好きで聞いてるバンドミツメのライブ知らせを確認して、どうにもならない気持ちになった。3月ならまだコロナだろうし、いまみたいだと普通のライブは出来ないだろうし、その以前日本に渡ることすら分からない状況だし。モヤモヤと訳がわからない怒り。時が流れにつれ気持ちは半分諦めになってけれど、ライブは9月へと延期になった。私はまた9月を待った。春が過ぎたら、夏が終わったら、秋がきたら。今年は、なぜかずっと待ち伏せみたいな状況になっている。終わってないけど、まだわからない。それぐらいの微かな希望で延命する1日みたいな。今の状況から見て別にいうこともないだけれど、ミツメのライブには行けなかった。私はまた夜中にベットに潜り込み布団で顔を半分ぐらい隠し、音楽を聞いた。

画像3

ミツメのみんなは、ありがたくyoutubeで二曲の映像をアップしてくれた。今年発表されたトニック・ラブと停滞夜。彼らの歌はただ爽やかで滑らかな気持ち優しいメロディに聞こえてくるけれど、どこか別の世界にいるような感覚を与えてくらる。男女二人の間ではみ出る終わりと始まり、すれ違いから生まれる時間。よく聞いてみると、彼らの音楽はすごく緻密な音の積み重ねで出来ているのだが、それがただシンプルで優しい音になっているのが、いまだに不思議。

『早春』は博物館で男が女を待っていて、結局その女は来なかったという、ただそれだけの話なんですけど。待っているあいだの女が永遠に来ない感じとか、最後の数行に書いてある後日談に、なんていうか、時間の流れの本質を見たような感じがしたんです。渦中にいるときの時間の流れ方と、過ぎ去った時間の流れ方。 川辺元 インタビュー中 Text : 渡辺裕也

今回ライブで、彼らはトニック・ラブを終盤で終えることなく、フリーズを兼ね、また演奏をやり続けたのだが、今の時代、見れなかったライブを夜中一人で見ている私からだと、それは鳥肌がたってしまうことだった。向こうで過ぎ去った時間が流れる海越しの小さな部屋、あなたの過去を現在形で過ごすという不思議な感覚。リモートから生まれる時間だと、私は少し思った。川辺元さんは、3rdアルバムghostを語りながら、芥川龍之介の初春をイメージしたと言いましたが、そういう時間とのズレ。韓国と日本に時差はないものだが、その夜が私はただ好きだった。出会いというのは、多分他人との時差から始まるものだと、後から気づいたような気がした。目をつぶって少しばかりそう思っていた。

©️eikimori, 「intimacy」lamp, mitsume

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?