モノの図書館とは
初めまして。モノの図書館研究所の佐藤と申します。慶應義塾大学大学院でシェアリングエコノミーの1つの社会システム「モノの図書館」について研究をしています。このサイトは、私が研究している「モノの図書館」について研究の成果を紹介し、「モノの図書館」をやってみたい自治体の方、図書館員の方、地域団体の方、企業、個人の方の一助となることを目的としています。「モノの図書館」の開始を検討したい方に見て頂けると幸甚です。不明点は何なりとご相談ください。
モノの図書館とは、何か
図書館で本を借りるように、モノを地域内で共有する仕組みを指します。
元々図書館は、人間の知的生産物である記憶された知識や情報を収集、組織、保存し、人々の要求に応じて提供することを目的とする社会的機関であり*1、日本の図書館法では「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設」とされています。図書館の歴史は非常に古く、紀元前7世紀にはアッシリアに粘土板の図書館があり、また古代最大の図書館といわれるアレクサンドリアの図書館には、紀元前3世紀にはすでに所蔵資料の目録が備えられていました。人類の文化遺産の記録を集積した図書館は、長い間ごく少数の人たちが研究のために利用するものでした。今日のように、あらゆる人々が自由に資料に接することができるようになったのは、19世紀後半の公共図書館の成立以降のことです。*2
モノの図書館は、どのように始まったのか
モノの図書館は、1943年にアメリカ・ミシガン州グロスポイントのロータリークラブが設置した道具図書館(Tool Library:Tool Lending Library)が始まりとされています。
その後、1976年にはオハイオ州コロンバスにも市によって設置されました。
2009年になると、ワシントン州で、「持続可能な都市生活」を目指し、「地元の地下室やガレージでほこりをかぶっているだけの工具をいくつか集めて、近所の人が簡単に使えるように」と、西シアトル道具図書館が活動を始めた。ポピュラーメカニクス誌が、この活動に注目し、世界を変えることができるトップ10の1つの方法だと高く評価したことをきっかけに、シェア・スターター(share starter)という団体が道具図書館を始める活動を支援するサイトを作り、スターターキットなどのノウハウを掲出しはじめています。
こうした試みは高く評価されて、米国だけではなくカナダ、メキシコ、英国や欧州諸国、イスラエル、ガーナなど、現在世界には少なくとも2,000以上の道具図書館が存在しています。*3*4
モノの図書館は、どのような仕組みか
モノの図書館の基本は、モノを地域内でシェアすることです。モノの貸し手は、公共図書館であったり、地域団体やNPO法人、企業だったりと様々です。また、そのモノの提供者は、地域の住民や企業からの寄付であったり、民間企業からの寄付で成り立っています。借り手は、もちろん地域住民です。ameli(2017)*5は、以下のようにモノの図書館の概念をまとめています。
地域住民は、モノや時間、資金を提供し、それにより様々な道具を借りることができます。
モノの図書館は、どのような価値を提供するのか
モノの図書館は、使われていない道具をシェアすることで、資源効率を向上させ、ゴミの削減につなげることができます。みなさんも、持っているけど使っていない道具が自宅に眠っていませんか?私もそうです。イギリスの慈善団体の調査によれば、我々が使っている家電用品は、製造から廃棄までの期間で平均で2%しか使用されていない、という結果も発表されています。*6また、ドリルのような一般的な工具も、1年間で1時間未満しか使用されないという調査結果*7もあり、いかにモノに溢れ、そのモノが使用されていないかという状況がわかります。
Concito*8は電気ドリルをシェアすることで、1年間に700kgのCO2eqの温室効果ガス(GHG)の生産が抑制されると試算しています。モノのシェアをすることにより、温室効果ガスの削減効果も生み出すことが可能なのです。
また、モノの図書館は地域コミュニティの活性化に寄与します。モノの図書館では、道具の使い方のワークショップや、ものづくりイベント、ボランティアイベントなどのコンテンツが随時開催されています。このようなコンテンツにより、コミュニティが生まれ、活性化に寄与するという報告があります。*9 昨今の社会問題として、孤独死やいじめの問題が深刻化しています。これらはコミュニケーションの希薄化によるものと考えられます。モノの図書館が地域内のコミュニティを生成し、活性化する機能を果たすことができると考えられます。
合わせて、モノの図書館はウェルビーイングに寄与します。モノの図書館の多くは、ボランティアにより運営されています。モノの図書館には、道具のメンテナンスや修理などの業務も伴います。ボランティアに参加する時間が長い高齢者は、幸福度が高いという報告がなされており*10、近所で定期的参加できるコミュニティは、生活者のウェルビーイングに貢献すると考えられます。
また、モノの図書館は体験や経験の機会を提供します。買うほどのこともない、買うほどの余裕はないため、経験してこなかった体験を無料(もしくは安価)に試すことができます。例えば、ヴァイオリンやローラースケート、燻製器などはどうでしょう。試してみたいが、買うまでもない。かといって、借りるのも億劫な道具は、体験の機会を喪失します。モノの図書館では、このような道具が用意され、体験や経験が経済状況にかかわらず平等に提供されるという側面があります。アメリカの公共図書館で多く導入されているのは、このような考えのもと行われています。近所の図書館や公共施設で、気軽に試すことができること。これもモノの図書館の提供価値です。
持続可能な社会システムの一つとして
モノの図書館について、概要を説明しました。まだまだ発展途上な社会システムではありますが、持続可能な社会システムとして機能しそうな予感がしています。導入にもお金がかかりにくいのも優れた点です。
まずはライトにお試しで始めることが重要です。始めると、少し地域の流れが変わるのではないかなと思います。わからないことがあれば、何なりとメッセージをください。では。
*1『図書館情報学用語辞典』第4版(2012)
https://www.nier.go.jp/jissen/training/h31/pdf/20190722-02.pdf
*2 日本図書館協会
https://www.jla.or.jp/library/tabid/69/Default.aspx
*3 未来の図書館研究所
https://www.miraitosyokan.jp/future_lib/lib_compass/no9/
*4 The State of Libraries of Things Report 2024,sharable
*5 Najin Ameli,Libraries of Things as a new form of sharing. Pushing the Sharing Economy.pdf
*6 WRAP(2010),概要報告書:家電製品の環境アセスメント
*7 Skjelvik, J.M.; Erlandsen, A.M.; Haavardsholm, O. Environmental Impacts and Potential of the Sharing Economy; Nordic Council of Ministers:Copenhagen, Denmark, 2017; Volume 2017554.
*8 Deleøkonomiens Klimapotentiale.利用可能なオンライン:https://concito.dk/files/dokumenter/artikler/deleoekonomi_endelig_1006 15_2.pdf (accessed on 29 March 2022).
*9 Lax, B. What Are These Things Doing in the Library? How a Library of Things Can Engage and Delight a Community. OLA Q.2020, 26, 54–61.
*10 Effects of Volunteering on the Well-Being of Older Adults