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NHK-FM「FMフォークライブ」坂本龍一&B-2 Unitsスタジオライヴ(1982年5月5日放送)

NHK-FM「FMフォークライブ」坂本龍一&B-2 Unitsスタジオライヴ(1982年4月26日、東京・渋谷「NHK」509スタジオでの公開録音)

放送曲目:
1. Foto Musik
2. Demo #4 (Replica)
3. The Arrangement (Demo #1)
4. Happy End
5. Thatness and Thereness
6. Demo #6
7. H (Theme From Clubfoot)
8. Robin's Eye View Of Conversation
9. Piano Pillows
10. サルとユキとゴミのこども
11. Dance
12. Epilogue
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13. In E

演奏者:
坂本龍一: Piano, Synthesiser, Vocal
立花ハジメ: Saxophone, Guitar
沢村満: Sopranino & Alto Saxophone
永田どんべい: Bass Guitar
Robin Thompson: Saxophone, Bass Clarinet
鈴木さえ子: Drums


 YMO関連の情報は、個人ブログ、ウィキ、動画投稿サイトなどで多く発表されていますので、「屋根屋を架す」ことにしかならないのですが、この番組については、自分の勘違い、記憶違いが甚だしく、可笑しく思えたので、記憶を正し、補正し、定着させるために、書き残しておこうと考えました。そんな訳で、以下、新しい情報はありませんが、ご容赦ください。

 この番組についてのわたしの勘違い、記憶違いは、(1)「B-2 Units スタジオライヴ」とは別に「"H" Band スタジオライヴ」という放送があったと、40年の間に、いつの間にか思い込んでいたことです。(2) 立花ハジメバンドである「"H" Band」のライヴは、NHK-FMの祝日恒例の特別番組(18時00分~19時00分)で放送され、坂本龍一バンドである「B-2 Units」のライヴは、氏がパーソナリティを務めていた番組「サウンドストリート」で放送された、とも思い込んでいました。
 その結果、自分のウェブサイトに掲載していた日記で、こんなことを書いていました。

B-2 Unitsバンドの演奏は好きだった。同じメンバーで、立花ハジメ主体の演奏も別の日にスタジオライヴがあり、それは[『Year Book 1980-1984』に]収録されていないけれど、リリースされていないものだろうか。

「モノノフォン」ぐりぐらメモ/2022年11月13日

立花ハジメ『H』、『Hm』、『TAIYO-SUN』など。このあたりをNHK-FMで放送されたライヴ録音も発掘して、ボックスセットにまとめてくれたらと思うのだけど。

「モノノフォン」ぐりぐらメモ/2023年2月23日

 そんな訳で、「立花ハジメ主体の演奏」を収めたエアチェックテープを探していたのですが、2023年4月7日、ようやく見つけました。聞きました。そのときの日記。

「立花ハジメのバンド」のテープを探していて…愕然。そこには、「坂本龍一&B-2 Units」と書かれていた。放送は、1982年5月5日(水)、かつて祝日の18時からNHK-FMで放送されていたライヴ特番であって、「サウンドストリート」ではなかった。立花ハジメバンドだと思い込んでいたのは、これだったのだ。

「モノノフォン」ぐりぐらメモ/2023年4月7日

 この日の録音からの「The Arrangement (Demo #1)」、「Happy End」、「Demo #6」、「Piano Pillows」の4曲を、『Year Book 1980-1984』(2017年3月発売)で聞いていながら、探していた録音だと気付かなかった訳です。恥ずかしい…。

坂本龍一『Year Book 1980-1984』

 B-2 Units は、『Year Book 1980-1984』に添付された吉村栄一氏のテキストによると、1981年秋に結成されています。坂本氏のアルバム『左うでの夢』(1981年10月発売)で出会ったロビン・トンプソン氏や、プラスティックス解散後、サックスを始めた立花ハジメ氏と意気投合したことがきっかけのようです。ペンギン・カフェ・オーケストラ Penguin Cafe Orchestra を参考にしたとのことですが、サキソフォン奏者が3人いるアンサンブルは即興の要素が強く、ヨーロッパのジャズロックを感じさせるものでした。
 他の参加メンバーは、インテリア Interior の沢村満氏、チャクラ Chakra の永田どんべい氏、当時はフィルムス Films に在籍していた、ソロデビュー前の鈴木さえ子氏。番組では、制作中のフィルムスのセカンドアルバムが話題に出ていましたが、それは結局リリースされず、ほどなくしてバンドも解散しています。

 ロビン・トンプソン氏は、60年代後半から現代音楽畑、即興音楽畑で活動していたミュージシャンで、結成当時のヘンリー・カウ Henry Cow と交流があった現代音楽演奏集団、インターモジュレーション Intermodulation に参加したのち、カム・トゥ・ジ・エッジ Come To The Edge、その発展形であるサン・トレッダー Sun Treader などのジャズロックグループに参加し、ツトム・ヤマシタ Stomu Yamash'ta と共演しています。その後、ロンドン大学で日本語と古代中国語を習得。来日し、東京藝大で雅楽など日本の伝承音楽の研究を行い、雅楽の演奏家として活動するようになります。『左うでの夢』への参加はこの時期で、『サウンド&レコーディング・マガジン』1981年11月号(創刊号)に掲載されたインタビューによれば、スタッフだったピーター・バラカン Peter Barakan 氏の友人だった縁での参加となったようです。

Intermodulation "CONNECTIONS (1970-1974)"
Stomu Yamash'ta with Come To The Edge "FLOATING MUSIC"

 B-2 Units のレパートリーは、当初は「Demo」と呼ばれているバンドのための新曲(5曲)を中心に、即興演奏をしていたようですが、やがて、YMO曲や坂本氏ソロ曲が加わり、バンドのまとめ役となった立花氏の曲を演奏するようになります。NHKでの公開録音は、そうした姿をとらえたものになっています。

 1、4、5、10~12曲目は、坂本氏曰くのファンサービスとしてレパートリーに加えられた坂本作品。「Foto Musik」は、NHK-FMの夏休み特別番組『坂本龍一の電気的音楽講座』(1981年8月10日~14日)で制作された曲。「Happy End」は、ソロシングル『Front Line』(1981年4月発売)のB面曲で、YMO『BGM』(1981年3月発売)にも別テイクが収録されています。「Thatness and Thereness」は、バンド名の由来となったソロアルバム『B-2 UNIT』(1980年9月発売)収録曲。「サルとユキとゴミのこども」はソロアルバム『左うでの夢』収録曲。「Dance」は、坂本龍一+ダンスリーによるアルバム『The End Of Asia』(1982年2月発売)収録曲で、ダンスリー(ダンスリールネサンス合奏団)のための坂本氏の書き下ろし曲です。「Epilogue」は、YMO『TECHNODELIC』(1981年11月発売)に収録されています。

坂本龍一 featuring Robin Scott『左うでの夢』
Ryuichi Sakamoto & Robin Scott "THE ARRANGEMENT"
坂本龍一+ダンスリー『the End of Asia』

 2、3、6曲目は、B-2 Units のための「Demo」シリーズで、「Demo #6」はスタート時の5曲に加えて、バンド活動中に追加された曲とのこと。「The Arrangement」は、1979年に西武百貨店のCM曲として作られた曲を「Demo #1」としてバンドのレパートリーにしたものの、『左うでの夢』参加メンバーのロビン・スコット Robin Scott がこの曲を気に入り、タイトルを付け、坂本氏との共作ミニアルバムとしてリリースすることになったそう(1982年6月発売)。「Demo #4」は、のちに「Replica」と題されて、アルバム『音楽図鑑』(1984年10月発売)の付録シングルとしてリリースされています。なお、『Year Book 1980-1984』には、1981年11月9日、「京都会館」別館ホールでライヴ録音された「Demo #3」が収録されています。

 7~9曲目は、収録・放送時点では発売前だった立花ハジメ『H』(1982年5月発売)でリリースされる曲。番組中でも、このアルバムの発売が告知されています。立花氏は、続く『Hm』(1983年4月発売)で前述の「The Arrangement (Demo #1)」もカバーしており、「B-2 Units」ではなく、「"H" Band」としての放送があったのだという思い込みの原因になっていたと思われます(責任転嫁)。ところで、「Robin's Eye View Of Conversation」の Robin は、ロビン・トンプソンさんのことでしょうか。
 先に引用した勘違い日記では、『H』、『Hm』、『TAIYO-SUN』とともに、このNHK-FM用録音を発掘することを唱えていますが、『Year Book 1980-1984』に収録されたのはわずか4曲であり、希望としてはいまだ消えていません。と言いながら、2025年4月16日に、『H』、『Hm』が復刻されることを知り、ライヴ録音の発掘を期して見送っていたCDを手にするいい機会かもしれないと思い始めています。

立花ハジメ『H』『Hm』

 最後の「In E」は、アンコールとして演奏されたのか、別に録音されていたものか不明です。もしかしたら、「Demo #2」か、「Demo #5」ではないかとも思うのですが、手がかりを持ち合わせていません。

[参考]
・吉村栄一『Ryuichi Sakamoto | Year Book 1980-1984』付属ブックレット
※冒頭の画像は、ブックレットの表4掲載のB2-Unitsスタジオライヴを収めたカセットテープの写真を借りました。
※余談ですが、『Year Book 1980-1984』ブックレットでは、立花ハジメさん作曲の「Piano Pillows」が、坂本龍一さん作曲と誤記されています。
・Intermodulation "CONNECTIONS (1970-1974)" 付属ブックレット (Paradigm Discs、2024年10月発売)
・『サウンド&レコーディング・マガジン』1981年11月号(創刊号)
https://www.snrec.jp/entry/2020/04/30/120000


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