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Pianoschlacht 4R終演!&浜渦正志寄稿「様々な要素を抱擁しつつ司る」

Pianoschlacht 4R 終演!

去る1月29日(水)、公開収録コンサート「Pianoschlacht 4R 〜浜渦正志作品集〜」(於:Hakuju Hall)が終演致しました。

この企画は、昨年9月に兵庫・帯広・東京の三都市で開催しご好評いただいた「Pianoschlacht IV」の同じ演奏家による同じプログラムの再演で、あの素晴らしい演奏と演目をもう一度、いい環境といい音でしっかり録音・録画し世に残したいという思いから企画しました。

昨年の公演で最初に演奏したピアノソロ「Etude Opus 4」は、すでに2枚のCDにスタジオ収録版(Opus 4 Piano & Chamber Music Works)とライブ演奏版(Pianoschlacht Live)が収録されているので、その部分だけソニー「α CLOCK」から初披露するピアノ楽曲に変更しましたが、それ以外は昨年と全く同じプログラムで行いました。

当日配布した公開収録立会証明書(制作:浜渦正志)
当日のプログラム

公開収録コンサートということで、演奏会ではあるものの、途中編成が変わる度にマイクの再セッティングがあったり、また終演後の30分間、もう一度録りたい曲があったら再度演奏する「リテイク・タイム」を設けました。また、いつも本番中は舞台裏で聴くことが多い浜渦が、最前列中央の「ディレクション席」に座りました。

開演前に公開収録の説明をする浜渦

実は主催者として、「あの演奏を絶対もう一度聴きたい!」「素晴らしいものが録れるはず!」と企画しましたが、再演ではあるので、お客様に初演ほどの感動をしていただけるだろうか…という一抹の不安がないと言ったら嘘になりました。しかしその心配は全くの杞憂に終わり、本番は、前回から円熟味を増したひと味もふた味も違う、予想を遙かに超える素晴らしいパフォーマンスをしていただきました!
同じ演目でも、回を重ねることでこんなに違うものなのか、同じ演奏は二度とないんだということを改めて実感しました。

最強トリオ
(Vl:室屋光一郎 Pf:ベンヤミン・ヌス Vc:結城貴弘)

公開収録ということで、お客様も音を立てないようにシン・・・と静まりかえり空気が張り詰めてた会場で、収録の場を一緒に作ってくださっている一体感がすごかったです。「こんな緊張感のあるステージで、この難易度のコンサートは初体験でした笑」と後に奏者の方がおっしゃっていました。
ただでさえ緊張する本番に、公開収録&高難易度の楽曲群というトリプルパンチで、どこまで演奏者に負担を強いるのかという"ドS企画"でしたが、それを乗り越えるプロの意地と技術の高さ、さらにそこに魂のこもった、情熱と愛が溢れ出る最高のステージを作り上げてくださいました。

終演後のリテイクは、後述にある浜渦の寄稿の通り、浜渦自身は全曲に満足していて特に希望はなかったのですが、奏者の方の希望により「台風のノルダ」No.2と、「ポレットのイス」より”10年の歳月”と”お引っ越し”、FFXIII「閃光」の後半部分を再度演奏しました。同じ曲の演奏をコンサートで二度聴く機会は通常なく、また浜渦と演奏者のやりとりも含め、少しだけレコーディングの雰囲気を感じていただける貴重な機会になったのではないかと思います。

そして最後の最後に、浜渦が今回のためにトリオ編成にアレンジしたIMERUATの「LIFE CM」を演奏し、公演は幕を閉じました。

音も素晴らしかったHakuju Hall
熱い握手…!
終演後の一枚

改めまして、このコンサートを大成功に導いて下さいましたベンヤミン・ヌスさん、室屋光一郎さん、結城貴弘さんに、最大限の賛辞と大きな拍手を!
そして、この公開収録に立ち会い、一期一会の場を共有していただいたお客様に、心より感謝申し上げます。平日のお忙しいところ駆けつけて下さり、そして収録へのご協力と割れんばかりの熱い拍手を、ありがとうございました!
ご来場された方々も、ご来場が叶わなかった方々も、本コンサートの音源化・映像化を楽しみにお待ちいただければと思います。

開演前の緊張した面持ちの浜渦

Photo by Manuel Chillagano


浜渦正志寄稿:「様々な要素を抱擁しつつ司る」

Pianoschlacht 4Rについて思うところがだんだんまとまってきたのでざーっと書きました。

今回は「リテイクの可能性のある公開収録」という非常に稀であろう企画だったのですが、これが新機軸過ぎたのか、全く予想しなかった結果に繋がったことで、しばらく自分でも言葉にできなかったように思います。

リテイクする条件ははっきりは決まってませんでした。
演奏会には演奏会でしか生まれない勢いや情感があり、リテイクの可能性を設定することでスタジオ収録的なまとまった方向になってしまわないか、そうならないように間をとるのか…みたいなところもテーマの一つだったと思います。
しかし「そこから先」の到達点を三名の勇士が見いだし、達成してしまったわけです。その衝撃を言語化するのに少々時間がかかってしまいました。

いい方を変えてみます。「たった一回きりの演奏会」でもあり、しかし「一発で永久に遺していく機会」でもある、(簡単な言葉で言い表すのは憚られるのですが)そういった「勢いと正確性の狭間」でどうパフォーマンスするか?という問題に対し、三人からその「またとない強烈な一期一会の機会で爆発してやろう」という意気込みと勝算が見て取れたわけです。彼らは狭間に居たのではなく、その全体像を抱きかかえて立ち向かっていったんですね。自分の作品をそこまでに…!これはもう感激するしかありませんでした。

たとえば最初のベニーの演奏なんかはわかりやすいかもしれません。聞いたことないくらい繊細、丁寧に弾き始め、「公開収録の効果?」と感じさせたかと思うや否や、聞いたことないくらいの勢いや情感を披露していました。最後のミスゲシュタルトでは、繊細で丁寧で、パワフルで情熱的で、緩急を駆使し、表情豊かで、やはり音の粒は常に立っていて、当日の空間や楽器の特性を理解しきって、過去の演奏へ遡って超えていく意気込みがあって…などなど、名詞から形容詞から動詞から何もかも取り揃えてしまい、そして何より「それら全ての要素を抱擁しつつ司る」というパフォーマンスを完成させていたと感じました。この殻の破れ具合に度肝を抜かれた方も多かったのではないでしょうか。

さらに極めつけは、それをトリオでやってしまったということです。長らくお世話になっているフランスのプロモーターさんも来客していたのですが、昨年秋にパリで会ったときにこのトリオの話をしたときは「もしいつかヨーロッパでやることがあったとしたら、弦奏者はこちらで探すのもありですか?(ベンヤミンは現地にいるので)」と言っていたのですが、本公演終演後「この三人でなければならない意味がわかりました」ととても感心していました。打ち上げの席でも「リテイクありの公開収録」という強烈なプロジェクトの、勢いと正確性の狭間という強烈な壁を越えての演奏の強烈な醍醐味…みたいなところが話題になり、それを室屋さんがいち早く劇的且つ論理的に総括されていて、「早っ!」と驚いたものでした。

そんな次元での演奏が次々と披露されていくうちに、演奏者と作曲者それぞれの中で「致命傷や事故があった場合にリテイクする」という考えが固まっていったように思います。そして後半にかけて私は「その対象となる曲が未だ見当たらない…」と感じるばかりで…。

具体的なリテイクについて一つ紹介したいと思います。「閃光」のリテイクは、結城さんからご提案いただいたのですが、私的にはそのときは全然問題ナシでした。ただ「演奏者の方に納得してもらいたい」「そこで提案してもらうことでさらなる発見がある」という二つの要素が非常に常に自分の中に大きく存在しているので、「作曲者がOKだからやらなくていい」という選択肢はあり得ませんでした。普段のレコーディングはそこで自分が思っていることを伝え、プレイバックしてリスニングして…一緒に「あーなるほど!」と会話をして深めていき、それまでの自分の中になかったものが生まれる…なんて感じでやっているのですが、しかしこの日はそのための時間とシステムがない…!果たして終演後「閃光リテイク」の話になったのですが、「私的に全然問題ナシ」だったのは、結城さんが仰った箇所がまさに「様々な要素を抱擁しつつ司る」そのものだと感じたからだったのではないかと。確かにスコア通りでない演奏でしたが、それはスコアを書いた私とスコアを見ている結城さんの二人だけの視点とも言え、他の二人は「ライブとしての演奏だったし、展開部で壮絶な状況だったし、全然分からなかった!」らしいです。そこからリカバリーしにいって完璧に着地した結城さんの演奏は、まさに「抱擁しつつ司る」が最高の状態で味わえる瞬間だったと思ったのです。これこそ「リテイクつき公開収録」でないと得られないシーンだったと思います。

それとアンコールのLIFE CM(IMERUAT 3rdアルバム「Far Saa Far」に収録)についても少し。これはトリオ用に完全に書き直したスコアで、本番一週間前のリハで初めて渡したこともあって、練習量が圧倒的に少ない曲でした。何なら「今日それもやっぱりやりますか?」と聞かれたくらいでした。閃光リテイクのあと時計を見ると、予定時間では残り5分。演奏時間はほぼ1分。マイクセッティング的にもこれをやるのがちょうどよかったのでお願いしました。二度目の演奏で一度目から数段階も上り詰めて完成したのことで、このトリオの凄さの正体が最後にわかりやすく見えた瞬間だったようにも思います。レコーディングでもこの三名はいつも私の難解な楽曲でも、一度目でスコアへの理解のゲージをマックスに持って行けているので、二度目では存分に魂を吹き込むことが出来るわけです。それを三人で連携して出来るということを考えると、やはり「この三人でなければならない意味」というのが分かっていただけると思います。

思いついたことをただ並べたような文章になりましたが、少しでも冷める前にと思ったので急ぎ寄稿しました。

追記
「α CLOCK 5曲組」:いきなり丁寧で粒がキラキラする演奏を始めたので、緊張してる!?と思ったら(あとで聞いたらめちゃくちゃしてたらしいが)、即興部分が自由自在且つパワフルで驚いた。
「アトモスファーレ(ン)Op.1」:室屋さんもかなり緊張したらしく、出だしがノンビブラートすなわち右手一本で弾くので震えがモロに伝わるので、そうならないようにまた非常に緊張したとのことだが、それこそ、それこそ!の環境下での一期一会の素晴らしい演奏でやはり驚いた(室屋さんはよく同じ単語を復唱される)。
「台風のノルダ」:トリオ一発目で、今回本文で書いたようなことを具現化できてて、しかし持続可能なのか?と聞きながら自分も緊張していて、あまり覚えていないが、ますます出来ていっていた。
「Giant」:転んでくれ、ズレてくれと言わんばかりの凶悪なスコアのAパートを、全員がライブ感もダイナミクス(お客さんのポストから得た的確な語彙)も限界突破するような演奏をしてビビったので、打ち上げで伝えようと思って手元のメモに二重丸をつけたが、話すことが多すぎて忘れた。
「緒〈てがかり〉」:長女の作曲で、ゲームにもアニメにも紐付いてない上、私のカラーとも違って演奏者も理解に時間がかかるだろうし、9月に初演したばかりだし、と色々難しいはずだったのに、他と変わらず熟成して限界を超えてきて、特筆してくださるお客さんもかなり多かった。
「クラシカロイド 3曲組」:こちらも3人にとっては昨年9月が初めてだったが、やはり熟成して限界を超えて、「何度でもやるもんだなぁ」と4→4Rのほとんど同じ曲目&曲順の採用を喜ばしく思った。
「ポレットのイス」:これこそが「10年の歳月」を経ての、当トリオの「熟成した邂逅」の証で、熟成とか限界とかの先の世界がなんというか輝いていたし、ベニーの中ではポレットと同じ境遇の女の子を思い出しつつなこともあったらしく、何度再演したって先はあるんだなぁと思わされた。
「ゲー音 3連発」:「致命傷や事故があった場合に…」が発生してもおかしくないスコアであったにもかかわらず、そんなこと歯牙にもかけないくらいに悠然と弾いていた。
「極北の民」:リハからの連携の発展のドラマが愛おしい。
「不滅のあなたへメドレー」:これも9月初演組で、極度にグレードアップしたという感じの声を多数いただき、また打ち上げで「緒〈てがかり〉」の作曲者に「近年では最高のアレンジで好き」と賞してもらったことで、「もう少し書くの続けられそう」と思えてとてもよかった。
「閃光」:上で書いた他、3人がブーストがかかったようになっていたが、それはそれまでの「抱擁しつつ司る」的なことへの確信と、伊丹・帯広・東京それぞれで得られた「攻め方の選択肢」もあってのことだったようで、それはもう。
「ミスゲシュタルト」:上で全部書いてしまったかも。
「ルフルール」:今後も〆はずっとこれでないと嫌だってなるかもしれない。


素敵な祝い花もありがとうございました💐

最後までお読みいただきありがとうございました!
MONOMUSIK