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醜悪

茹るような夏の暑さが部屋に差し込み、音という音全てをぼやかしている中、真っ直ぐに届いた音を聞き分けていた。

「続いてニュースの時間です。速報が入りました。」

圭吾はリビングのテレビを見つめながら、コンビニ弁当を食べていた。一方圭吾の左前にすわる姉の恵美は、箸を右手に持ったまま肘をテーブルについて、スマホを左手で操作して画面を見続けていた。テーブルの上には配達で注文したのだろうか、少し高級感のあるサラダボウルが置いてあり、圭吾のことは気にも留めない様子であった。

「先日〇〇県〇〇市に住む園児を含む家族3人を殺害したとして、同市に住む60代で自営業の市原泰造が殺人の容疑で逮捕されました。…」

圭吾は食事を一旦やめ、テレビを食い入る様に覗き込んだ。そして姉に向かって「姉さん!泰造おじさんだよ!!昔良くしてくれた!」と勢いよく言い放った。恵美はひどく憤慨しチッと大きく舌打ちして、「んだよ、るっせぇなァ!!!」とスマホをいじったまま返事をした。そのあと箸をテーブルの上に勢いよく叩きつけて、「そんなジジイ知らねぇわ」と小さく言い残して、部屋を出た。サラダボウルの中身はそこそこ残されたまま、リビングは一時的にテレビの音声のみが響いていた。


圭吾の母は彼が5歳の時に亡くなった。それからは父が男手一つで2人を育てた。生活費を稼ぐため、基本的に父は家におらず、家事は圭吾が行なっていた。恵美はというと、いつも自室に篭ってスマホを弄り、とある配信者の生配信を決まった時間に視聴していた。今日は本来その配信者が生配信する予定だったのだが、機材トラブルか何かで明日に変更となっていたようで、機嫌を損ねていたのだ。
恵美は、たまには圭吾のように家事をしろと父に叱咤されていたが、まともに取り合わない。舌打ちをしたり物を蹴り飛ばしたり口論になるだけだったためか、父も最近だと何も言わなくなっていた。「圭吾、色々と辛くないか、大変じゃないか」と父は心配したが、
「ううん、大丈夫、気にしてないよ」と静かに姉を眺めやりながら呟く様子を見て、申し訳なく思いつつも、どこか頼りにしている風であった。
「昔の恵美はこんなんじゃなかったんだけどなぁ、いつからこうなってしまったか…」父がそう言って、朝玄関から出ていく姿を見つめる圭吾は、自らが小学生の頃のことを頭の中でふとよぎらせていた。


シリーズものです!続きそのうち書きます!



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