國譯佛母大孔雀明王經卷上
唐特進試鴻臚卿開府儀同三司肅國公贈司空謚大辯正
號大廣智大興善寺三藏沙門不空 詔を奉じて譯す
*離一、縮閏六、藏十套八。此の經に六本あり今六本の一なり。
讀誦佛母大孔雀明王經前啓請法。
南謨母駄野 南謨達磨野 南謨僧伽野 南謨七佛正徧智者
*讀誦云云 本書の上卷題額に讀誦佛母等とあれども今此の處に置けり、之れ讀誦前の作法の故に、次に又題額あり。
*南謨云云 已下は啓請の法なり
南無慈氏菩薩等一切菩薩摩訶薩、南無獨覺聲聞四果四向、我皆な是の如き等の聖衆を敬禮したてまつる、我今、摩訶摩瑜利佛母明王經を讀誦して、我が救請する所の願みな意の如く、所有ゆる一切の諸天靈祇或は地上に居し或は虚空に處し、或は水に住する異類鬼神、所謂る諸天及び龍・阿蘇羅・摩嚕多・糵嚕拏・彥達嚩・緊那羅・摩護囉誐・薬叉・囉刹娑・畢㘑多・比舎遮・部多・矩畔拏・布單那・羯吒布單那・塞建那・嗢麼那・車耶・阿鉢娑麼囉・塢娑怛囉迦、及餘び所有る一切の鬼神及び諸の蟲魅・人・非人等、諸惡害毒の一切不祥、一切惡病、一切の鬼神、一切の使者、一切の怨敵、一切の恐怖、一切の諸毒及び諸の呪術、一切の厭禱をもて佗命を伺斷し、毒害の心を起し不饒益を行ずる者、みな來りて我が佛母大孔雀明王經を讀誦するを聽かば、暴惡を捨除し咸く慈心を起し、佛・法・僧に於て淸淨の信を生ぜん。我れ今、香華・飮食を施設す、願くは歡喜を生じ咸く我が言を聽け。
怛儞也佗、迦哩迦囉哩、矩畔膩、餉棄𩕳、迦麼攞、囉乞史賀哩底、賀哩計施、室哩麼底、賀哩冰誐黎、攬迷鉢囉攬迷、迦攞播勢、迦攞戌娜哩、㷔摩弩底、麼賀囉乞灑枲、部多蘗囉、薩𩕳、鉢囉底砌𤚥、補澀喯、度喯、㟾犬淡、末隣、左娜瀉弭、囉乞灑佗、麼麼、颯跂哩嚩覽、薩嚩婆喩、鉢捺囉吠毗藥、餌嚩覩、韈囉灑捨躭、鉢設都、捨囉喃捨單、悉鈿覩、滿怛囉鉢娜、娑嚩賀
諸の是の如き等の一切の天神、咸く來りて集會し、此の香華・飮食を受け、歡喜心を發して我某甲(若しは國家のために、或は餘人のために讀誦せば、即ち彼の人の名字を稱説すべし、下みな此に准ぜよ。)幷に諸の眷屬を擁護して、我等の眷屬の所有ゆる厄難、一切の憂惱、一切の疾病、一切の饑饉、獄囚繋縛恐怖の處、悉くみな解脱し、壽命百歳にして、願くは百秋を見、明力成就し所求の願滿せんことを。
(一) 此の經大例を知るべし、若し是れ尋常の字體にして傍に口を加ふれば、即ち舌をし彈して之を呼ぶべし、但し此方に字なき爲めの故に音を借るのみ、自餘は唯だ字にし依て直説すべし、漫りに聲勢の為めに本音を失ふことを致すを得ず、即ち喚べば便ち梵韻に乖き、又た讀誦する時聲に長短を含み字に重輕あり、注の四聲を看て讀んで終に師授方さに能く愜當すべく、又麤字義を識り、呼召すべし、始め情に隨ふべし、若し我れ某甲の處に至らば咸く具さに所求の事を述ぶべし、然るに此の經には大神力あり、求る者みな驗あり、五天の地南海の十洲及び北方の土貨羅等の二十餘國、道俗を問ふことなく大乗・小乗みな共に尊敬し讀誦し求請するに、咸く福利を蒙り、交報虛しからず、但し(ニ) 舊經は文を譯するに闕くることありとなす、(三) 神州をして多く流布せざらしむることを致す、厄難に遭ふと雖、讀む者尚ほ希ふが故に、今綜かに諸部の梵本を尋ね、勘へて委的ならしめ、重ねてさらに審詳かに譯して三卷を成す、並に畫像壇場軌式利益無邊なるをもて之を永代に傳ふるのみ。
佛母大孔雀明王經卷上
是の如く我れ聞きき、一と時薄伽梵、室羅伐城に存りて、逝多林給狐獨園に住する時、一苾芻あり名けて莎底といふ、出家して未だ久しからずして近圓を受具し毗奈耶敎を學び、衆のために薪を破りて澡浴の事を營むに、大黒蛇ありて朽木の孔より出でゝ、彼の苾芻の右足の拇指を螫す、毒氣身に徧して地に悶絶し、口中より沫を吐き兩目上に翻ず、爾の時、具壽阿難陀彼の苾芻の、毒のために中てられて極めて苦痛を受くるを見て疾く佛の所に往き、雙足を禮し已て佛に白して言さく、世尊、莎底苾芻毒の爲に中てられて大苦惱を受くること具さに上の説の如し、如來の大悲云何してか救護したまへと、是の語を作し已るに、爾の時に佛、阿難陀に告げたまふ、我に摩訶摩瑜利佛母明王大陀羅尼あり、大威力ありて能く一切の諸毒・怖畏・災惱を滅し一切の有情を攝受し覆育して安樂を獲得せしむ、汝ぢ我が此の佛母明王陀羅尼を持して、莎底苾芻のために救護を作し、ために地界を結び方隅界を結び安隱を得、所有る苦惱みな消除することを得せしめよ、彼等或は天龍に持せられ、阿蘇羅に持せられ、摩嚕多に持せられ、議嚕拏に持せられ、囉刹娑に持せられ、畢㘑多に持せられ、毗舍遮に魅され、步多に魅され、矩畔拏に魅され、布單那に魅され、羯吒布單那に魅され、塞建那に魅され、嗢麼那に魅され、車耶に魅され、阿鉢娑麼囉に魅され、塢娑跢囉迦に魅さる、是の如き等のために執へられ魅されん時、佛母明王悉く能く加護して憂怖なからしめたまひ、壽命百年ならしむ、或は他人の厭禱・呪術・蠱魅惡法の類を被ふらん、所謂る訖哩底迦・羯摩拏・迦具囉那・枳囉拏・吠哆拏・質者、他の血髓を飲み人と變じて驅役し鬼神を呼召し、諸の惡業・惡食・惡吐・惡影・惡視・惡跳・惡驀を造し、或は厭書を造し、或は惡冐逆にして是の如きの惡事を作し、相ひ惱亂せんと欲はば、此の佛母明王彼の人並に諸の眷屬を擁護して、是の如き諸惡も害を爲す能はず。又復た瘧病一日・二日・三日・四日乃至七日・半月・一月・或は頻日、或は復た須臾に一切の瘧病四百四病、或は常に熱病・偏邪・癭病鬼神壯熱・風黄・痰癊、或は三集病んで飮食消せず、頭痛・半頭痛・眼耳鼻痛・脣口頬痛・牙齒舌痛及び咽喉痛・胷脅背痛・心痛・肚痛・腰痛・腹痛・䏶痛・膝痛・或は四肢痛み・隱密の處痛み、徧身疼痛す、是の如きの過患悉くみな除滅す、願くは我れ、某甲並に諸の眷屬を護り、我れ地界を結し方隅界を結し、此の經を讀誦して悉く安隱ならしめん。即ち伽佗を説いて曰く
我れ夜安く 晝日も亦た安からしめ 一切の時中 諸佛護念したまふ。
即ち陀羅尼を説いて曰く
怛儞也佗、伊膩、尾膩、枳膩、呬膩、弭膩、𩕳膩、頞嬭、伽嬭、努議嬭、賀哩抳、嚩麋膩、牓蘇比舎喞𩕳、阿嚧賀抳汗嚧賀抳曀㘑謎㘑帝㘑帝㘑底哩底哩謎㘑謎㘑底謎底謎努謎努謎伊置弭置尾瑟置睇左跛㘑尾麼㘑尾麼㘑護嚕護嚕阿濕嚩目棄迦哩麼賀迦哩鉢囉枳囉拏計施矩嚕矩嚕嚩普嚕句嚕句嚕護嚕護嚕嚩譜嚕度娑努嚩努弩嚩怒麼努嚩遇攞夜吠羅夜比輸比輸呬哩呬哩弭哩弭哩底哩底哩鼻哩鼻哩祖嚕祖嚕母護母護母護母護母護母嚕母嚕母嚕母嚕母嚕護嚕護嚕護嚕護嚕護嚕護護護護護護護護護護嚩嚩嚩嚩嚩嚩嚩嚩嚩嚩惹攞惹攞惹攞惹攞惹攞惹攞惹攞惹攞惹攞惹攞娜麼娜麼𩕳多跛多跛𩕳入𩕳攞入𩕳攞𩕳鉢左跛左𩕳嬾努鼻惹𩕳韈囉灑坭颯普咜𩕳跢跛𩕳播左𩕳賀哩抳駄哩抳迦哩坭劒跛𩕳沫那𩕳曼膩底計麼迦哩設迦哩羯迦哩爍迦哩餉迦哩入嚩攞𩕳努麼努嚩哩努銘努銘遇攞野鉢哩吠攞野韈囉灑覩禰嚩三滿帝曩伊哩枳枲娑嚩賀
阿難陀、諸の龍王の名字あり、當さに慈心を起して其の名を稱念すべし、諸の毒を攝除す、所謂る
持國龍王我れ慈念す 愛囉嚩拏常に慈を起す
尾嚕博叉亦た慈を起す 黑驕答麼我れ慈念す
麼抳龍王我れ慈愍す 婆蘇枳龍常に慈を起す
杖足龍王にも亦た慈を起す 滿賢龍王我れ慈念す
無熱惱池の嚩嚕拏 曼娜洛迦・德叉迦
難陀・鄔波難陀龍 我れ常に彼に於て慈意を興す
無邊龍王我れ慈念す 嚩蘇目佉にも亦た慈を起す
無能勝龍常に慈を起す 緝嚩龍王我れ慈念す
大麼娜斯我れ慈念す 小麼娜斯にも亦た慈を起す
阿鉢囉迦鉢洛迦 有財・沙彌龍王等
捺地穆佉及び麼抳 白蓮華龍及び方主