カシコラ『Time to renew-パソコン音楽クラブ』

カシコラ第三弾です。
夜にエモーショナルな感情を
掻き立てられることってありますよね。
街灯が灯る道を歩いて向かうコンビニだったり
潮の音だけが聞こえる夜の海辺だったり、
散々擦られたシチュエーションかもしれないけど
全ての人が少しは同じような気持ちに
なったことがあるんじゃないでしょうか。

『Time to renew』はパソコン音楽クラブ
2枚目のアルバム「NIGHT FLOW」の一曲。
スマッシュヒットした"reiji no machi"も同アルバムに収録。夜の住宅街を写したジャケ写が好きなんだよなぁ…。

僕は1枚目のアルバムに収録されている
『Inner Blue』という曲がずっと大好きです。
パソコン音楽クラブが書く"地続きの詩"と
"諸行無常の中に潜む変わらない心情風景"は
上を向きたいときにいつも心を支えてくれる。
わかりづらい比喩ではなく、あくまで
訥々と事象を羅列していることも
初めて見た時に衝撃的だった。

Time to renewはInner Blueとの繋がりを
感じさせつつ、前に進む明確な意思を感じる作品。

そしてまた僕らは 長い夜を溶かしてゆく
ひとつひとつその手で なぞってまた切なくなる
そしていま僕らを 長い夜が飲み込んでく
柔らかなその手を なぞってまた切なくなるだろう

彼らのアイデンティティと夜が密接に
結びついていることがわかる一節。
夜を媒介して同じ気持ちを共有する
相手はリスナーとも捉えられる。

手をかざす朝陽 夜が明けてゆく
眩しい光で 全てが煌めく
優しい時間は 終わってしまうけど
僕はもう一度 君を振り返る

ここのミソは夜と対比した朝を
否定的に書かないところ。
あくまで朝の訪れは新天地への旅立ち、
安寧の地から離れる寂しさを噛み締めながら
前に進む勇気が垣間見えますね。

今日が終わって 日をまたぐとき
僕ら今また 新しくなる
通り過ぎてく 流されてゆく
追いつかないけど それもまたいい

これ以上も以下もない、意識の在り方を
正確に描いた描写。変わることは寂しいけど
いいことだと、リスナーの背中を強く押してくれる。そんなメッセージをイノウエワラビさんが歌い上げる。そして、そのトラックが1990年代の音源モジュールを中心に作られていることもまた感慨深い。

僕自身が若い頃に感じていた、夜に対する特別な感情は今はもう薄れている。憧れたものが纏う影ではなく、実体にばかり目を向けるようになった。そんな時にこの曲を聴くと、昔の感覚が甦ると同時に、今の自分をも肯定できる。とてつもないパワーを持った作品だ。

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