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【町工場が挑むB2C】まずはやってみる 何度も挑戦を繰り返しながら、いつか誰かに刺さるものを

町工場が挑むB2Cとは、これまでB2B中心だった町工場(中小製造業)が、自社製品を作り、一般消費者に向けて販売すること。様々な理由からB2Cに注目し、製品開発や販売方法、ブランディングなど新たに挑戦している方々を取材しました。これからB2Cに取り組もうとしている製造業の方や、行き詰まり感や課題を感じている方々のヒントになれば幸いです。詳しくは以下の記事をご覧ください。(ものづくり新聞 記者 中野涼奈)

有限会社泉和鉄工所 鳥取隆さん

大阪府貝塚市の有限会社泉和鉄工所は、従業員数7名(2022年1月時点)で、汎用フライス盤、マシニングなどによる切削加工や、工作機械の組み立てなどを事業としています。

代表である鳥取さんは、29歳の時に家業に入社し、46歳の時に代表取締役に就任しました。家業に入る以前は、8年ほど自動車ディーラーで整備士、検査員として勤務されていました。

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自分たちが使うものを作りたい

泉和鉄工所がB2C商品の開発に着手したのは、新型コロナウイルスの影響を受けたことがきっかけでした。

「コロナの影響で売上が減り、苦しいこともありましたが、時間的な余裕ができました。その時間で何かできないかと考え、2020年1月に製品開発に取り組むことを決めました。ビジネスなので販売することはもちろん考えていましたが、当初のモチベーションとしては、自分たちが使うものを作りたいという想いが強かったです。」

マーケティングやリサーチも大事ですが、自分たちが欲しいという強い動機は、はじめてB2Cに挑戦する町工場にとって、大きな原動力になると感じます。鉄の扱いに慣れている泉和鉄工所が挑戦しようと考えたのは、調理用の鉄板でした。

「コロナ以前は、社内のアウトドアが好きなメンバー同士でキャンプを楽しんでいました。自社製品開発もそのメンバーが中心となっていたので、自分たちが欲しいもの=キャンプで使えるものと考え、鉄板を作ることにしました。
鉄板を選んだ理由は、私たち自身が外で肉を焼いて食べた時に、市販の鉄板で焼く肉がそれほど美味しくないと感じたことがきっかけです。鉄製なので自分たちでも作れそうでしたし、肉を美味しく焼くという点にこだわった製品を作って、自分たちで使いたいと思ったのです。それに、世の中には鉄板にこだわる人が多く、よく売れていることを知っていたという理由もあります。」

厚みがこだわりの“ごくあつ鉄板”

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「製品の一番のこだわりは、厚みです。薄いと温度が下がるのが早いので、分厚いほど肉に均一に火が通ります。しかし、分厚すぎても重くなってしまうので持ち運びに向きません。肉を美味しく焼くことができる厚さと、持ち運びやすさのバランスにはこだわりました。」

自分たちが使いたい鉄板を考えると、扱いやすい素材やこだわりたい部分が見えてきたといいます。

「キャンプ仲間にも試してもらいながら試作を繰り返し、素材、厚み、鉄板のフチの深さ、大きさ(A5サイズ)にこだわって作りました。肉が美味しく焼けるというこだわりたいポイントと、使いやすさの両立が難しかったです。」

お客様の声を聞き、改良を重ねた

2020年の1月に開発を始め、4月には最初のモデルとなる製品が完成しました。製品を販売するため、インターネットショップを開設しましたが、当初は現在のような形の鉄板ではありませんでした。

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「販売当初は、削り出しただけの平な鉄板でした。2020年4月にネットショップをいくつか利用して販売を始め、InstagramやTwitterなどで宣伝していくうちに、キャンプ好きの方からコメントをいただけるようになりました。

ある時『フチがないと肉を焼いた時の油が落ちて、周りが汚れてしまう』というコメントをいただきました。確かに油が落ちないようにフチを付けた鉄板は世の中にあって便利なのですが、鉄板にフチを付ける加工はほとんどがプレス加工で曲げているんです。でも弊社にはプレス加工機がないため、フチを付けるとしたら、フライス盤で切削するしかありませんでした。
コストがかかるので反対意見も出ましたが、逆に考えると切削加工でフチありの鉄板を作っているのはウチしかない!と思い、挑戦することにしました。やったことのないことは挑戦してみたくなる質なんです。それに、プレス加工だと、曲げるのでどうしても厚みの差が出てしまいますが、切削だと厚みを均一に保つことができます。」

さらに製品のもうひとつの特徴である、『いいねマーク』について尋ねると、こだわりを語ってくれました。

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「改良を重ねている時に、焼いた肉に何か文字が浮かんだら面白いなとふと思ったんです。最初は『肉』という字にしようと思ったのですが、結構加工が難しくコスト面を考えると難しいことがわかりました。そんな時目に止まったのがSNSのいいねマーク👍です。よく見かけるマークですし、肉をひっくり返していいねマークがあったらちょっと笑えませんか?
大阪で生きている者として、人を笑わせたい、笑いを生み出したいという思いは昔からあるんです。製品名はごくあつ鉄板ですが、通称『いいね鉄板』として覚えていただけたら嬉しいですね。」

クラウドファンディングで192万円達成

その後、泉和鉄工所は株式会社主婦と生活社が運営するクラウドファンディングサイト『Fannova(ファンノバ)』でクラウドファンディングに取り組みました。

「社員の知人の繋がりで、Fannova運営会社の元社員で記者をやられていた方から、クラウドファンディングに挑戦してみてはどうかと話がありました。私自身やったことがないことにはチャレンジしてみたい性格ですし、まずはやってみることにしました。」

はじめてのクラウドファンディングで、約190万円の支援を集め、目標を達成することができました。しかし、鳥取さん個人的としては、更に高い目標を持っていました。

私個人としての目標金額は300万円でした。元々、届きそうにない高い目標を立てるタイプではありますが、やはり達成したかったです。その要因は、宣伝不足と期間が短かかったことだと自己分析しています。クラウドファンディングを始めた時期が夏で、弊社の決算である8月をまたがないようにすることを考えると、実質支援を募る期間は1ヶ月ほどしかありませんでした。宣伝は、Fannova上のブログ、Twitter、Instagramなどを使っていましたが、もう少し期間が長ければ、他の手段ももっと考えられたのではないかと思います。」

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*社内にあるNUTSコーナー

現在は、オリジナルブランド『NUTS』の製品として、オンラインコマースサービスBASEを利用してネットショップを開設し、販売しています。

「ECサイトに関しては、最初の頃はオンラインコマースサービスを3つほど利用していましたが、使ってみて集客や使いやすさの面から、現在はBASEのみを利用しています。使いやすいのですが、時間のかかる更新作業などを仕事の合間にしなければならないので、結構大変です。本業とのバランスは今後の課題でもあります。」

自社製品開発への思い

実は鳥取さんは、15年ほど前に既にB2C向けの事業に挑戦したことがあるのです。

「自分の趣味の延長ということもあり、受注があればバイクや車の部品を、オーダーメイドで作っていました。作ること自体は面白いし、空き時間を使って作業することができたので、それ自体は楽しかったです。しかし、こういったオーダーメイドの製品は、どうしても高値になってしまいます。当たり前のことですが、なかなかお客様にわかってもらえず、高すぎると言われてしまいました。そこがネックで販売を止めてしまいました。」

作ること自体にハードルはなくとも、価格の面で折り合いが付かず、B2C向けの事業を辞めた鳥取さん。しかし、その後もB2Cに挑戦する他の町工場を見て、自社製品への憧れはあったといいます。

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「個人向け製品を諦めたわけではありませんでした。その後も、本業の合間に何か作れないかと模索し、キャンプ用ランタンのハードケース製作をオーダーで作っていました。
ランタンは、キャンプでよく使われるのですが、衝撃に耐えられるようなハードケースはほとんどなく、ソフトケースばかりでした。私自身が車で山道を走行する際や、手で持って移動する際に、壊れない頑丈なものが欲しいと思っていたので、お客様のランタンに合わせてハードケースを作ってみてはどうかと思ったのです。
頑丈な分、正直重くて不便なところもあるのですが、私自身がキャンプを楽しむ者として欲しいと思っていたので、ニーズはあると確信していました。」

また、自社製品開発への想いの背景には、『泉和鉄工所の顔』になる製品が欲しいと思った経験があります。

「昔、社員が会社に子供を連れてきたことがありました。その時にふと、子供に『お父さんってどんな仕事しているの?』と聞かれたら、この人は何と答えるのだろうと思ったんです。どうしても一般の人からはわかりにくいものを作っているので、答えづらいだろうなと。そんな時に、『父さんはこの鉄板を作っている!』と言えたら良いよなと思いました。自社製品への憧れにはそんな思いもあります。」

自分たちが作りたいものと世の中が欲しいものは違う

鳥取さんは、自分たちが欲しいものを作りたいという思いがある一方で、自分たちが欲しいものと世の中が求めているものは違う、と冷静に分析しています。

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かつて、社員からベンチが作りたいという声が上がりました。座面の部分は木製で、脚が鉄製のベンチです。鉄は専門ですが、木に関しては全くわかりません。でも本人たちが売れると思うから作りたいというので、社長としてその社員に開発を任せることにしました。わからないなりに調べて、材料を買ったり、試行錯誤して作りましたが、結果は1セットしか売れませんでした。」

鳥取さんは、自分たちと世間とのギャップが生じ、仮に商品として売れないものになったとしても、社員が自ら考え開発したその取り組み自体の価値は高いと感じています。

「売れなかったことを良しとする気持ちはありませんが、その社員は、自分たちが作りたいと思ったものと、世間が求めているものは違うということを学ぶきっかけになりました。それを知るためにも、勉強のためにも、作りたいものはまず作れと話をしています。その後の開発も、やりたいならやれというスタンスです。もし何かあったら俺が土下座して責任を取るから、と伝えています。常に言っているので、社員からはやりたいという声が出てきますね。
それに、商品としては物にならなかっただけで、その社員の意欲や技術は向上しています。無駄ではないんです。」

上に立つ者として

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鳥取さんの『もし何かあったら俺が土下座して責任を取る』という言葉の背景には、どのような思いがあるのでしょうか。

「自動車ディーラーで働いていた時、とても先輩に恵まれていたんです。入社して間もない頃、大きなミスをしてしまった時に、いきなり怒鳴ったりせず、すぐに一緒に謝りに行くと言ってくれたフロントマネージャーがいて、その方の懐の大きさに救われました。その方に限らず、上に立つものとして部下の責任を取るのは当たり前と考えている先輩が身近にいました
そんな先輩方を見ていたので、今も社長として社員の責任を取るのは当たり前だと思っています。だから、何でも挑戦して欲しいんです。」

鳥取さんは、社長業が面白い、楽しいと感じることの一つに、社員の成長があるといいます。

「製造業の良くないところではあるのですが、仮に無理な納期に何とか対応して納品しても、ありがとうの一言もなく、『その辺に置いといて』と言われることがあります。そんな雰囲気の中で働いていると、製造業に入ってきたばかりの若い世代も、とりあえず作って持っていけばいいやという気になります。それでは楽しくないですよね。でも、本業でそこを変えていくのはなかなか難しいです。自社製品を販売する際は、展示会などに出展するとお客様と直接触れ合う機会があるので、『ありがとう』と言っていただけます。売ることよりも、お客様との交流を深めて、社員が意欲を持ち成長していけるようにサポートするのが、社長としての喜びです。」

展示会で『いいね鉄板見たことある!』

鳥取さんは、2021年10月の「東京インターナショナル・ギフトショー(以下ギフトショー)」への出展をご経験されています。

ギフトショーへは、町工場プロダクツの一員として共同出展しました。町工場プロダクツとは、町工場の自社製品開発・発表・販売を通じ、町工場を活性させることを目的としたチームです。鳥取さんはその中で、「アウトドア×町工場」をテーマに、アウトドア製品を開発した複数企業と合同で展示コーナーを設けました。

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有限会社小沢製作所の小沢さんから声を掛けていただき、出展することにしました。大きな展示会への出展ははじめてでしたが、バイヤーさんやお客様から『いいね鉄板、ネットで見たことある!』と言っていただき、驚きました。あと、自社ブランドのオリジナルマスクを付けていたら、知らない方が『ごくあつさんじゃない?』と言っている声が聞こえたこともありました。笑 名前はごくあつではないけど・・・と思いながらも、これまでの宣伝活動やクラウドファンディングが、認知につながっていたと思うと嬉しく感じました。
実際、ギフトショーがきっかけでバイヤーさんと繋がることができて、卸し売りの話が進んでいる案件もいくつかあります。」

本当に好きな人に届けたい

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「将来的には売上の柱にしたいという考えはありますが、当面はこの製品を本当に良いと思ってくださるお客様を、コツコツ増やしていきたいと思っています。お客様の数を増やすことばかりを考えず、まずは本当に好きだと言ってくださる方に届けたいんです。それが1人でも10人でも、今は良いと思っています。そういう方が少しずつでも増えていった方が、長く愛される製品になると思っています。」

自分たちが欲しいものを作ろうと始めた製品開発。そこから、モチベーションは変わってきたといいます。

「SNSでコメントをもらったり、展示会でお客様と直接コミュニケーションを取るうちに、困っている人や必要としている人に、製品を届けたいと思うようになりました。特に今販売しているごくあつ鉄板に関しては、キャンプで肉を焼くならこれがいい!と言ってもらえる製品にしていきたいです。」

有限会社泉和鉄工所
所在地 大阪府貝塚市二色南町3-13
代表 鳥取 隆
会社HP 有限会社泉和鉄工所
Twitter  @senwaco


編集後記

製品を開発し販売することは、仮に失敗したとしてもその一連の取り組みによって、学び、得ることが必ずある。だから無駄なことなんてない。と熱く語る鳥取さんが印象的な取材でした。
自分たちが作りたいと思ったものと、世間が求めているものが違うということは必ずしも悪いことではないと考えます。明確に世間から求められているとわかるものは、既に世の中にあるという見方をすることもできます。鳥取さんのように、時には失敗も経験しながら、試行錯誤の繰り返しで自分たちが欲しいものを追求し続けることで、新しいものが生まれるのかもしれません。