タイ製造業事情:タイで制御盤を製造する下平電機製作所 下平康人さん
ものづくり新聞編集部は、かねてよりタイでの製造業事情を取材しています。今回はタイのアマタ・シティ・チョンブリ工業団地にある、株式会社下平電機製作所のタイ拠点「SHIMOHIRA ELECTRIC THAILAND」を取材しました。アマタ・シティ・チョンブリ工業団地について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
「アマタ・シティ・チョンブリ工業団地」はバンコク中心部から車で1時間半程度の場所にあり、4,000ヘクタールもの広大な敷地に770社もの工場が林立する工業団地です。工業団地の西端から東端まで車で移動すると30分はかかるという広さです。おそらく一か所に集積している工業団地としては世界最大規模だと思われます。770社のうちおおよそ60%が日系企業です。
この工業団地には、トヨタ、日野自動車、デンソー、三菱電機、ブリジストン、ソニー、花王、小松製作所、IHI、クボタなど、日本の大手製造業もたくさん工場を設けており、大手企業に部品を供給するサプライヤーも多数進出しています。
SHIMOHIRA ELECTRIC THAILAND
株式会社下平電機製作所(大阪府八尾市)は、FAや制御盤・配電盤などの電気系の設備を中心に手掛ける会社です。タイ拠点では日系大手設備メーカー様向けの制御ボックスを設計製造しています。制御ボックスとは、電気基板やケーブルなどが入ったボックスです。
生産ラインは、製品を右から左に流しながら順次組み立てていく仕組みですが、製造する機種によって細かい調整(変更)が可能になっています。工程の増減にあわせて生産ラインの長さを変えたり、組立装置の組み換えができるようになっています。この写真の生産ラインは生産量が多い製品のためのラインになっています。
下平電機製作所のタイ拠点の特徴
下平電機製作所の代表取締役社長で、タイ拠点SHIMOHIRA ELECTRIC THAILANDのManaging Directorでもある下平康人(しもひら やすと)さんにお話を伺いました。
ーー下平電機製作所さんについて教えて下さい。
FA機器、受配電設備、制御盤や電子機器などを設計製造しています。主にタイでは日系大手設備メーカー様向けの制御ボックスを作っています。
ーー電気回路やケーブルが入っている金属の箱状の装置ですね。
はい、そうです。
ーータイ拠点について教えて下さい。
タイに進出して25年ほどになります。日系メーカー様のタイ進出に併せて私たちも進出しました。タイ工場には170名ほどの社員がいます。日本人は3名駐在しており、工場長、購買・製造、品質担当です。
ーー日本人の駐在員は営業担当ではないのですね。
日々顧客先とやりとりをしながらお仕事していますので、その活動そのものが営業になっています。
ーー顧客先とは頻繁にやりとりされているのですね。
試作、設計、品質、生産、とさまざまな段階ごとに接点を持ち、顧客先のことをよく理解しながら仕事をするようにしています。そのほうがスピードが出ると考えています。
ーーやりとりは日本人どうしが多いのでしょうか?
顧客先がタイ人の担当の方であれば、こちら側もタイ人の担当のほうがやりとりがしやすいと思っています。最近は顧客先の担当者がタイの人の場合が増えています。
ーー新型コロナウイルスによる影響や課題は?
お客様のニーズが変化しています。その変化に私たちもついていかなければなりません。その体制をどうつくっていくかが大きな課題です。
大切なのは、「軸」がブレないこと
ーータイに進出するにあたり留意されていたことはありますか?
顧客に応じて最良のレスポンスを返す会社であること、そしてその軸がブレないことです。顧客の要求に応え続け、それを徹底することです。
ーータイで留意するべきことはありますか?
もちろんいろいろなことがありますが、敢えて挙げるなら、従業員の皆さんの満足度を上げることです。タイの人にわかりやすい言葉で説明や対話を続け、できるだけ不満を溜めないようにしています。相互理解を深めるため、綿密なコミュニケーションは大変重要であると考えます。
ーー下平さんが直接お話されるのですか?
もちろん私も話をしますが、タイ語の通訳を通じての会話となります。通訳してもらうにあたっても、十分わかりやすく伝わるように気をつけています。
ーー下平さんは日本本社の社長でもあり、タイ工場にも目を光らせるのは大変なように思いますが、いかがでしょうか?
たしかにそうなのですが、私は自分が直接話すことが大切だと思っています。みんなと距離感を近くして、同じ空気を共有したいと思っています。
ーータイ人の方でリーダークラスの方がおられるのでしょうか?
はい、20年以上この会社で活躍しているタイ人の女性がいます。この人がリーダーです。彼女は社員をよくまとめてくれています。
ーー20年もおられるのですね。そういえば、タイでも高齢化は進んでいると聞きます。
はい、タイでも今後少子高齢化が次第に問題になると言われています。ベテラン社員が高齢化していく中でどうやって働き続けてもらうか、私たちもかんがえていかなければなりません。
ーー将来的にはタイ拠点をどのようにしていきたいとお考えですか?
タイの会社ですので、タイの人たち自身が運営する、長く続く会社にしたいです。
編集後記
タイではGrab Taxiというスマートフォンアプリでタクシーを呼ぶことができる仕組みがよく使われています。今回、私たちはGrab Taxiのアプリで「アマタ・シティ・チョンブリ工業団地にある下平電機製作所さんまで」と指示してバンコク市街から移動しました。
高速道路を降りるとすぐに「アマタ・シティ・チョンブリ」の看板が見えたので、もう到着したのかなと思っていたのですが、そこからずっと工場が続いておりなかなか下平電機さんに到着しません。さらに30分近く車で移動すると、やっと下平電機さんの建物に到着しました。敷地が広すぎて「同じ工業団地の中」と呼ぶには遠すぎる感じです。
取材後、同じようにGrab Taxiを呼び、バンコク市街まで指示し移動しましたが、帰りは都心付近が大渋滞。行きの2倍の時間をかけて戻りました。バンコク都心の渋滞は慢性的なものだそうで、現地にお住まいの日本人の方々にお聞きすると「渋滞はあたりまえ」という感覚になっておられました。
なお、この広すぎるアマタ・シティ・チョンブリ工業団地にはゴルフ場もあります。この写真の島に一体どうやっていくのか見に行ってみたいです!