なぜ『RENEW福井』は日本トップクラスの産業観光イベントに発展したのか?(運営の「体制」編)
今回は2022年10月に、福井県鯖江市・越前市・越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した産業観光イベントRENEW(リニュー)を運営する「体制」とその中の「人」に迫るインタビューです。
取材のきっかけとなったのは、2022年3月、コロナ禍で延期されながらも開催にこぎつけたRENEWの会場で、ある光景を目にしたからでした。それは、開催前日で準備の真っ只中にある会場の至るところで、20代前半くらいの若い人たちが楽しそうに作業をされている光景です。周囲を延々と続く田畑に囲まれたこの土地に、なぜこんなにも若い人たちがいるのか…失礼ながら第一印象としては不思議でなりませんでした。
そして翌日、イベントが始まったその会場の中には、更にたくさんの若い人たちがいたのです。
これまでも様々な地域の産業観光イベントに伺ったことはありましたが、こんなにたくさんの若い人たちが運営側として参加されている光景は見たことがありません。そして、イベント全体がこんなにも生き生きとしているのはなぜなのか、とても知りたいと思いました。
日本最大級の産業イベント『RENEW(リニュー)』とは
RENEW(リニュー)は、福井県の鯖江市・越前市・越前町という伝統工芸の産地を中心に、年に一度、3日間にわたり開催される持続可能な地域づくりを目指す産業観光イベントです。
鯖江市・越前市・越前町がある越前鯖江エリアは越前5産地として知られており、越前漆器や越前和紙、越前刃物、越前箪笥、越前焼などの伝統工芸品の他、眼鏡や繊維といった7つの産業が半径10km圏内に集積しているエリアです。会期中は100社を超える工房・企業が一斉にものづくり現場を開放し、職人自らが案内する工房見学やワークショップなどで一般の方々と交流しながら、商品の購入を楽しむことができます。
実際のRENEWの詳しい様子は『【ものづくりイベントレポート|前編】RENEW・福井県越前鯖江エリア』を、ぜひご覧ください。
初回の2015年から今回で8回目を迎えるRENEW。2016年は、生活雑貨・工芸品のセレクトショップを全国で展開していることで有名な、奈良県の「中川政七商店」とのコラボで「RENEW X 大日本鯖江博覧会」を開催し、話題を集めました。
その後、RENEWの人気は瞬く間に広がり、今や全国的に知られる産業観光イベントとなっています。
そして、2022年10月のRENEWでは、メイン会場とは別に設けられた特設会場で、「RENEW×大日本市鯖江博覧会 vol.02」が開催されたほか、地元の銀行と新聞社との共同事業として、イベント独自のデジタル商品券型コード決済『RENEW Pay(リニューペイ)』が導入されるなど、ものづくりに興味がある一般の人だけでなく、全国の行政や団体からも注目が集まる一大イベントとなりました。
数々のコラボや新しい取り組みで注目度や認知が高まる中、参加企業も年々増え、2022年10月の開催では、101社もの企業が参加するという大規模な産業観光イベントとなりました。RENEWがここまで大きく発展してきた裏側には、何か秘密があるのでしょうか?まずは基本の運営体制についてお聞きしました。
(※この取材は2022年10月開催前の2022年9月に実施したものです。)
産地に興味があれば誰でも入れる『あかまる隊』
RENEWの運営体制を簡単にご紹介します。
「事務局=あかまる隊=当日ボランティア」の組織に上下関係はなく、一緒に産地を盛り上げる仲間として一体となり活動されているそうです。その組織の中で特に気になったのは、名前が個性的な『あかまる隊』でした。まずは3月の取材の際にもお世話になった事務局の山田 美玖(やまだ みく)さんに、あかまる隊のことを中心に運営について詳しくお聞きしました。
ーーあかまる隊にはどんな方が参加されているのですか?
「産地に関わりたい」「職人さんと仲良くなりたい」「ものづくりが好き」「まちづくりが好き」というような方で、現在は中学生から50代までの方がいらっしゃいます。年齢層としては時間にも余裕がある学生が一番多いです。
ーー具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
RENEWというイベントを中心にしてできた団体なので、イベントに合わせてワークショップや工房ツアーを企画し実施するのがメインではあるのですが、イベント以外でも時期や期間は限定せず、通年で様々な活動をしています。ここ2年のRENEWでの活動ですと、子供に工芸を伝えるための絵本のような紹介冊子を作ったり、音楽を学んでいるメンバーが、工房の音を収録し、それをポストカードにQRコードで載せて読み取ると携帯で聞くことができるものなどを企画しました。他にも、お祭りやものづくりのワークショップを企画しています。
ーーあかまる隊の企画は自由にやってもらっているのですか?
はい。特にこちらが強制するものではないので、やりたい人の意見を聞いてそれをやりたい人たちが集ってやっていくという形で、自由に活動してもらっています。上がってきた企画に対して「こういうところでやってみたら?」と私たちがアドバイスすることはありますが、基本的には各々のメンバーの意思でやってもらいます。
ーーあかまる隊の方は何人くらいいらっしゃるんですか?
グループのLINEに入っているメンバーの数で言うと、全部で80人程います。ただ、活動はせずに情報を見ているだけという人もいるので、コアメンバーは20人くらいです。2週間に1度、ミーティングをオンラインなどで行っています。
ーー活動の度合いに関係なく、興味がある人には情報を共有しているのですか?
そうです。少しでも産地に興味があれば、興味が絶えないように関わり続けてほしいという思いから、そのようにしています。
ーーあかまる隊の人たちはどのようにして集められているのですか?
主にインスタグラムをメインとした広報で募集しています。インスタライブがきっかけで集まった人が多いですね。メンバーが友達を連れてきてくれることもあります。鯖江市内にある大きなシェアハウスの住人が、あかまる隊のことを知って入ってくれるというのも多いです。あとはRENEW発起人の1人でもある、デザイナーTHUGIの新山直広(にいやまなおひろ)さんがデザイン系の学校でされている講演を聞いて入ってくる人も多いですね。
ーー必死で人を集めようとしているような感じではないんですね。
そうですね。いまお話しした程度です。でも、興味がある人には結構グイグイ声をかけています。(笑)
ーー2022年3月の開催時は約26,000人の方が来場されたということですが、当日の運営に関わった人数はどのくらいなのでしょうか。
当日ボランティアの人たちが10名ほどいて、あかまる隊と事務局も合わせると全部で40名くらいでした。
ーー運営の方たちを取りまとめるために、説明会などはどのようなことをされているのですか?
ちゃんとした説明会というようなものは特にしておらず、LINEグループで事前に当日の動きなどを共有しています。そして、当日の朝、全体で集まった時に改めて確認するというくらいですね。
ーーそれだけなんですか!?それはすごいですね!
普段事務局とコミュニケーションを取っているあかまる隊がイベントの要所要所に入っているので、そこまで統率を執るのが大変というのはこれまであまりなかったと思います。
ーーそうなんですね。あかまる隊やボランティアに参加された方からは、どのような感想を聞かれていますか?
あかまる隊は、コロナ禍でオンラインでの活動が多かったので、イベント当日に「やっと直接本人に会えた!」「本当に実在したんだ!(笑)」と盛り上がってすごく仲良くなったという話をたくさん聞きました。当日ボランティアとして参加してくれた人は、「やっと関わることができて、あかまる隊の中にも友達ができ、他にもいろんな人と知り合えてよかった!」と言っている人もいましたね。
ーースタッフとして参加された方たちが、リピートで参加されることは多いですか?
学生最後の時間がある時に参加するという人が多いので、卒業後も継続的に運営側で毎年参加している人は少ないかもしれません。ただ、スタッフとして参加できなくなっても、お客さんとして遊びに来てくれているというのはありますね。
地元の企業には外からの風を、お客様にはRENEWの元気をお土産に
ここからは、2021年より事務局に参加されている深治 遼也(ふかじ りょうや)さんと、事務局長の村上 捺香(むらかみ なつか)さんに、RENEW全体をまとめる事務局のお仕事についてお聞きしました。
ーー事務局として一番大変なのはどんなことですか?
深治さん:RENEWは年々大きくなってきていて、今年は参加企業が101社になりました。地域づくりのイベントとしても益々注目され、様々な団体や行政からも一緒に事業がやりたいという声をいただき、コンテンツも増えてきました。そのような外部との関わりや対応を、事務局のメンバー6人で回しているというのがすごく大変だと感じています。
ーー101社というのはすごい数ですね!参加企業はどのように集められているのですか?
村上さん:開催当初(2015年 参加企業22社)からエリアが増える2017年までは、実行委員の有限会社谷口眼鏡の谷口 康彦(たにぐち やすひこ)さんや、TSUGIの新山さんが、一社一社個別に依頼されていたそうです。ここ3年は過去に参加された企業へのお声がけの他、お問い合わせやご紹介から参加される企業も増えてきています。
ーー参加いただく企業はどのように選ばれているのでしょうか。
参加を希望される企業には、RENEWのマインドやビジョン、ターゲットをしっかりとご説明しています。参加料を支払えば出ていただけるということではなく、「地域を持続可能なものにしていきたい」、「未来のことを考えたい」と、私たちと同じように考えている企業に出ていただくことを大切にしています。
ーーでは、メイン会場のうるしの里会館で同時開催されるショップ型の展示販売『まち/ひと/しごと』に出展する県内外の企業は、どのように集められているのですか?
村上さん:「私たちと相性が良さそうだな」、「こういう取り組みを県内の企業の方々に知っていただきたいな」と思うような県内外の社会的意義の高い活動を行っている企業や団体に参加を依頼しています。『まち/ひと/しごと』は、会場のお客様に楽しんでいただきたいのはもちろんなのですが、RENEWの参加企業に向けた企画でもあります。全国規模で活躍されている県内外の企業や団体の方々とコミュニケーションを取ってもらう中で、「自分たちも何かできるかもしれない」、「他の産地にも行ってみようかな」と思うきっかけになればいいなと思っています。
ーーなるほど。RENEWの参加企業が外からの情報にも触れられるように工夫されているのですね。RENEWの参加企業と県内外からの企業や団体が交流を深めるためにされていることはありますか?
村上さん:コロナ禍になってからはできなくなってしまったんですが、以前はお店を貸し切って交流会をやっていたと聞いています。
今は、『まち/ひと/しごと』とオープンファクトリーの営業時間を少しずらして設定しており、RENEWの参加企業の方々が、オープンファクトリーをやっていない時間に『まち/ひと/しごと』に行き、県内外からの企業や団体と交流できるよう工夫しています。逆に『まち/ひと/しごと』に出展される県内外からの企業や団体の方には、一般のお客様だけでなく、RENEWの参加企業の方ともしっかりと会話していただけるよう事前にお伝えしています。RENEWの参加企業と県内外からお呼びした企業や団体が交流を深め、一緒に仕事を始めたり、繋がりが生まれるようなきっかけになればと考えています。
いかがでしたか?インタビュー前は、これだけの規模に発展してきたRENEWは、きっちりと役割分担された体制で、様々な工夫やノウハウが詰まった運営方法の上に開催されているのだろうと勝手な想像をしていました。でも、実際のところは、県内外だけでなく、年齢や職業も問わず「この地域のものづくりが好き」「地域のものづくりを支えたい」という同じ思いの様々な人たちがゆるやかに集い作り上げる絶妙なバランスの上で成り立ち発展してきたのだと感じました。さて、後編は『運営する「人」編』です。移住とUターンでRENEWに関わるようになったという事務局3名の方へのインタビューで、RENEWが日本トップクラスの産業観光イベントに発展してきた理由を、より深掘りしてみたいと思います。
後編:『なぜ『RENEW福井』は日本トップクラスの産業観光イベントに発展したのか?(運営する「人」編)』へ