通訳を使うことは「選択肢の1つ」?
最近のオリパラ放送に関連して「通訳」にスポットが当たることが以前より少し多くなった気がします。良いことです!
「通訳」はどんな仕事で誰のためにやるのか、多くの人がイメージできる職業の1つだと思います。
でも、そのイメージは実は特権的な意識によって作られていませんか?
日本で生活する人の全てが日本語話者とは限りませんが、日本社会は日本語で溢れていますし、大部分は日本語で営まれています。
そんな社会の中で、私は日本語母語話者として言語的には何不自由なく暮らしてきました。そして、それがどれだけ恵まれていて、特権的なことだったのか、2年前にニューヨークに留学して気がついたのです。
孤独感
ニューヨークで暮らし始め、自分が自由に操れない言語に囲まれる生活の辛さはいろいろありますが
1番大変だったのは…
情報が入ってこないこと!!
孤独感がすごい。
自分が不自由なく使える言語が浸透していない街での暮らしは、情報を得るためにたくさんのエネルギーを必要としました。
また、相手が言っていることをどれだけ自分が理解できているのか、常に不安を抱くようになったのです。
必死な”外国人”の姿をみて、相手も親切に「言っていることわかりますか?」と聞いてくれます。
「言っていることわかりますか?」は分かるんです。でも何を言っているのか、自分が理解したことと相手が理解させたいことが完全に一致しているのか、という点では自信が持てませんでした。
逆も然りで、私が伝えたいことを相手はどれだけ理解しているのか、という点も不安になりました。
私が話した後、「ちゃんと理解しているよ」と声をかけてくれます。でも、相手が本当に100%理解しているか、50%程度理解しているのか、もしくは誤解した状態かもしれない。でも相手が「理解している」と言った時点でそれを信じるしかありません。
以上の例は、「留学あるある」みたいなカテゴリーでも語られますし、「語学の勉強を頑張ればいいんじゃない?」というところに帰結しがちですが、情報が入ってこないことが生活や生命の維持に直結する場面があります。
銀行や病院です。
通訳を「利用する」経験
この経験は私のニューヨーク生活の中で実りあるものでした。
銀行で口座を作ったり手続きをする時や体調を崩し病院へかかった際には必ず通訳を利用していました。
通訳って「見かけるもの」か「するもの」だと思いがちですが、「利用する」側面もあります。日本語を第一言語として不自由なく使える日本在住の人にはピンとこないかもしれません。私も以前はそうでした。
ニューヨークは基本的には病院では通訳が事前予約なしで利用できました。
通訳者とつながるタブレットがあり、それを介して医療者とコミュニケーションが図れます。
体調が悪い時は英語を使う脳のキャパシティがゼロなのでありがたかったです。
また、銀行は事前の予約が必要でした。
日本語対応してくれる支店を探し、担当者と日程をすり合わせます。
銀行へ行く+担当者と約束している
というプレッシャーで、予定時間よりだいぶ早く銀行に到着したのを覚えています。
通訳はインフラ
第一言語以外でのコミュニケーションは常に緊張感が伴いますし、ストレスがかかるものです。
ニューヨークでの経験を通じて学んだのは、「通訳はインフラである」ということです。
通訳は「使ってもいいよ〜」というような選択の自由の中の一つではなく、確実な情報保障の観点からすると、蛇口ひねれば綺麗な水が出てくることと同レベルで重要なインフラです。(このインフラを維持するのはとても大変です。いつも綺麗な水をありがとうございます)
アメリカと比べると、日本における通訳利用のハードルは高いと思います。
そもそも通訳を依頼することに慣れていない人が多い。
また、会議通訳ではなくコミュニティ通訳は、よりインフラ的側面が強くなります。
通訳はみんなのため
東京オリパラで観た手話通訳はきこえないひと(ろう者)のためのものだからどうせ縁がない、と思わないでください。
ろう者の教員が手話を使う授業に参加したら?
ろう者の医者が手話で話すクリニックへ行ったら?
手話通訳は手話→日本語の通訳もあります。(これは読み取り通訳といいます)
通訳を使わずに生きることができていたのなら、それは偶然です。
日常社会で当たり前に使われている言語が自分の第一言語とたまたま一致しているだけです。
そういった人が「通訳を利用して”も”いいですよ」というスタンスでいるのは、言語的にマイノリティグループに所属する人たちに対してとても乱暴なことです。
通訳を選択肢の一つではなく社会参加のためのインフラとして認識すること、そして誰もが利用する可能性のあるものというのを踏まえると、最初に質問した通訳という仕事のイメージが変わってきませんか?
変わっていたらいいな、と思います!
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