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「手話」を使って生きる「ろう者」について学べる4冊をご紹介

2021年8月8日、NHK Eテレでは手話通訳が閉会式の様子を伝えていました。

手話について興味を持った方もおられると思います。
そこで今回はニューヨークのカレッジで履修していたろう者学専攻時代の課題図書たちをご紹介します。


私の専攻では、必修クラスとして101から104レベルのアメリカ手話クラスがありました。

101が初心者向けで、数字が増えるごとにレベルが上がります。

私は102、103、104を履修していました。

全クラスを通して文法や単語がたくさん載っている教科書を利用していましたが、それとは別に課題図書がありました。学期末ごとに読書レポートを提出するためです。語学のクラスとはいえ、文化や歴史も合わせて学ぶ必要があります。


今回は、この手話クラスたち+アメリカにおけるろう社会学のクラスで読んだ本たちを紹介したいと思います。
(ネタバレなしです!)

日本で手に入れるのは難しいのですが、手話を勉強する上で大いに学びがありました。


もちろん、異文化コミュニケーションに興味がある方にとっても面白い本です!!

102クラス
Nora Ellen Groce著 
Everyone Here Spoke Sign Language: Hereditary Deafness on Martha’s Vineyard


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この本の舞台は、アメリカのマサチューセッツ州にあるマーサズヴィニヤード島。この島はお金持ちの避暑地のイメージが強いですが、”ある理由”により、つい100年少し前まで島民の多くが(ろう者、聴者に関わらず)手話を使ってコミュニケーションをとっていた場所としてろう者学の中では有名です。この島ではなぜ手話がスタンダードだったのか、またそのような社会はどのようにして維持されたのか等、とても興味深いことが色々と書いてありました。

この本は「みんなが手話で話した島」というタイトルで1991年に日本語翻訳版が出版されていましたが現在は絶版のようです。地域の図書館に所蔵されている場合もありますので、日本語で読んでみたいという方はお近くの図書館へお問い合わせください。


103クラス
Mark Drolsbaugh著 
Deaf Again


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著者の実体験を記したものです。聴児として誕生した後、難聴→ろう→を経て文化的ろう者として成人した過程における著者の経験や考えが書いてあります。自分がどう思ったか、また聴力を失っていく自分をみる周りの眼差しなどについても書いてあります。ろう者が自分をろう者として認識していくプロセスに関する記述は、アイデンティティ獲得の点から学びが多いです。

この本の和訳は確認できませんでした。


104クラス
Richard Winefield著 
Never the Twain Shall Meet: Bell, Gallaudet and the Communications Debate


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これはろう教育を巡って、二人の対立する意見を記録したものです。この二人というのは、電話を発明した人として有名なAlexander Graham Bell氏とアメリカろう教育の草創期に活躍したEdward Miner Gallaudet氏。ろう教育に手話を用いることの是非など、それぞれの立場からの意見が出ています。ベルといえば大発明家しての印象を持っている方が多いかと思いますが、ろう者学ではまた違った印象を持たれています。

この本の和訳も未出版だと思います。


アメリカろう社会学クラス
Ph.D. Leigh, Irene W. , Ph.D. Andrews, Jean F. , Ph.D. Harris, Raychelle L. 編
Deaf Culture: Exploring Communities in the United States


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これは、教育、心理、歴史、技術等、10の章に渡ってDeafに関する記述がてんこ盛りです!あくまで「アメリカにおける」が前提なので全てを日本の状況に置き換えることはできませんが、通じるところもあります。この本も和訳はありませんが、手話を勉強する人にとっては必携といっても過言ではないくらいの情報の多さです。翻訳版、出ないかな・・・


そして何より、この本の凄さは引用文献の量!!!章の終わりに引用文献一覧があるのですが、それを見るたびに自分がなぜアメリカに渡るのか、というのを思い出します。

日本にいたらこの情報量にはアクセスできません。「アメリカ」「英語」というのはそれだけでアドバンテージなんです。だから、日本では限界がある分野で研究するとなると、やはり日本国外にいく必要が出てきます。

今回は4冊紹介しました。どれも本当に面白い本です。日本国内で入手するのが少し難しいのが本当に残念です。また、ほとんどが英語版のみなので、語学的なハードルも存在しますが、もし手に入れられるようであれば読んでいただければと思います。


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