お悩み:ここではない何処か、行ったことのない何処かへ行きたいです。
「ここではない何処か、行ったことのない何処かへ行きたい」人のための催眠スクリプト
『白い雲が浮かぶ青空』
もしも私が、白い雲が浮かぶ爽やかな青空だったら、何が見えるか、心に思い描いてみたんです。
そうすると、私からは、なんでも見えているようです。
たくさんの樹々が緑の葉をいきいきと繁らせる公園や、波がキラキラと光る海のそばの防波堤や、思い思いの形をした家々の屋根、白く眩しく輝く子供たちの学舎。
そして、私からは、なんでも聴こえています。
かわいい小鳥たちの囀り、繰り返す波の音、生活の中の優しい物音、子どもたちの笑い声。
私は、感じるんです。
樹々の間を吹き抜ける風、潮の香り、暮らしの温もり、喜びに跳ねる子供たちの心。
私は、それらのすべてを見るのが、大好きなんです。
私は、それらのすべてを聴くのが、大好きなんです。
私は、それらのすべてを感じるのが、大好きなんです。
なぜなら、それらのすべても、私にやさしい眼差しをくれるから。
私の腕の中で、喜びの音色を響かせてくれるから。
私の胸を、様々な喜びで満たしてくれるから。
私の夢は、いつもいつも、あるところへと帰っていきます。
そこには、とても美しい光景が広がっています。
耳に、心地よい音楽が流れるような、そんなところ。
心が、ある想いに満たされるような、そんなところです。
私が深い夜の色の衣をまとう時。
星々がキラキラと輝き、深い夜に煌めきの瞬きが散りばめられて、辺りが心休まる静けさに包まれる時。
私は聴くんです。
安らぎのうちにあって、ほのかに流れてくる、あの美しい旋律を。
その旋律にのせて聴こえてくる、あのまろやかな歌声を、私は聴くんです。
そんなとき、懐しい思いが胸に湧いて、私の心の奥の奥の、深いところに、何かがそっと触れるんです。
広い夜空に、まあるく満ちた月が、ぽっかりと浮かんでいます。
白金色に輝き、美しい模様を浮かび上がらせているさまが、私の心の目に、大きく、くっきりと映ります。
すると、どこからか、寄せては返す波の音が聞こえてきます。
私の心は、月の輝きの神々しさに奪われたまま。
けれど、その波のさざめきもまた、私の心を、やさしく撫でていくのを感じています。
月光にキラキラと光る砂浜に、波が打ち寄せ、去ったかと思えばまた打ち寄せて、波打ち際の白い泡が、夜色の海の、レースの縁飾りのように揺れています。
それはまるで、弦楽器が奏でる優雅な音楽に合わせて踊る、貴婦人のドレスの裾のように、砂浜をサラサラと、やわらかく撫でています。
白い泡のレースにやわらかく撫でられると、砂浜の小さな小さな砂粒たちも、弦楽器が奏でる優雅な音楽に身を委ね、貴婦人のドレスのキラキラとした輝きの一部となって、揺れるのでした。
私も、そう、その小さな砂粒のひとつとなって、月夜の舞踏会の音楽に、うっとりと身を委ねる、そんな心地になりました。
月明かりがやわらかく照らす、静かな海の波のまにまに揺らめいて、私はやがて、心地よさの海に溶け、そっと瞼を下ろします。
私の耳には、深い海の中の水の音が響いてきます。
そうすると、なんだか、とても心が落ち着いてきて、不思議と眠くなるんです。
深い夢の中で、私は美しい色の小さな魚たちを目で追っています。
どこからか、あのおとぎ話で聴いたような、それとも聴いたことのないような、不思議な歌が聴こえてきます。
私の心は、この深海の水に揺られるように、ゆらゆら、ゆらゆら、さらなる眠りに誘われながら、揺れています。
あちらに見える美しい海藻たちも、音もなく、深海の底にゆらゆらと揺れていて、私は、その海藻たちと同じに揺れ、そしてまた、別々に揺れ、同じに揺れて、深い海の底に溶けていきます。
私の心は、こうして何かに溶けることを知ってか、知らずか、ただ元々こうであったような気もするし、以前は別の何かであったような気もするし、今、目の前に広がる深海の美しい光景が、美しい魚たちの群舞と不思議な歌が、私の心、そのもののような気もしてくるんです。
一条の光が、山の上に差しました。
紫色の稜線が、濃い緑色に染まりはじめ、山の動物たちの声が重なり合って、静かに動き出す朝の気配を感じます。
そうすると私の目には、一本の樹の、節くれだった太い枝が見えていたんです。
樹々の葉が、動物たちの動きに合わせて揺れて、サワサワと楽しげな音を立てています。
太い枝を見ている私の心は、知らぬ間に、ワクワクと好奇心に満たされていました。
私はゆっくりと片方の腕を伸ばし、目の前のその枝を、ギュッと音がしそうなくらい、手のひらと指で、しっかりと握りしめました。
握ったら、枝と葉が、ユッサと音を立てて揺れました。
握った枝の太さや、木肌の感触を確かめながら、もう一度、枝と葉をユッサと揺らしました。
私はその様子を見ながら、今度はもっと大きな音を立てようと、両手で体ごと、枝にぶら下がってみたんです。
すると見事に弾んだ枝と葉が、ワサワサッと笑うように音を立てます。
枝と葉がワサワサッと笑うのが嬉しくて、私もお腹から笑いました。
それから、両手でぶら下がった自分の体を重く、そして軽くも感じながら、枝を握る手に力を込めました。
そして、少し先に見えている、ちょうどよさそうな枝をしっかりと見据え、ブンブンと両足を前後に大きく揺らしながら、体ごと大きく振って、片方の手でその新しい枝をパシリと掴みました。
私は、右手と左手、それぞれに握った枝の間にぶら下がる格好になりました。
両の手の、2本の枝の緑の葉がユッサユッサと揺れて、ワサワサッ、ワサワサッと笑うので、先ほどよりもにぎやかになりました。
私もまた、お腹から笑いました。
そしてまた次の枝、そのまた次の枝を、ワサワサッ、ワサワサッという笑い声を聴きながら、しっかりとこの手に掴んでいきます。
私は、その手触りを、自分の体の重さや軽さを、確かめるんです。
その度に、私の視界は、上へ、下へ、また上へ、また下へ、面白く揺れるのでした。
私は、楽しげに笑う枝々を、心のままに、掴んでは放し、掴んでは放し、そして体が大きく面白く揺れるままに、広く遠い、緑の葉の下を渡っていくんです。
美しい鳥たちが一斉に羽ばたく音が響いて、私は、青い空を見上げます。
そこに私はいるんです。
そしてまた、枝を掴んでぶら下がり、大きく喜びに満ちた呼吸を繰り返す音が聴こえる、そこにも私がいるんです。
さあ、ひとーつ! 爽やかな空気が頭に流れていきます!
ふたーつ! 体がだんだんと軽〜くなっていきます!
みっつで! 大きく深呼吸をして〜! 頭がすっきりと目覚めます!
©️2023 Monogatari Garden