〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号11. 《ギター誕生》(11)
今の惣領弟子は、在工房期間もかなり長くなり、
以前、独立の打診をした際には
「ここで、親方の元で働きたいんです」
近在の出身でもあることから、いずれ引退した後に 工房を継いでもらうことを考えている。
彼も遠慮して 継ぎたい、とは口にしないが、
経営面についての話をしたり、外部との打ち合わせに同伴し、
これまた大切な人々に 紹介する機会を設ければ、喜んで臨んでいるのが伝わって来る。
また そんな折の仕事振りでも 期待を裏切られたことはない。
顧客との こまごました折衝や 煩雑な事務仕事、
やんちゃな弟弟子たちのまとめ役としても、
この頃では 親方はすっかり頼りにさせてもらっている。
瑣末な仕事もおろそかにせず、
重要な件は 独り合点などしないで、必ず親方の判断を仰ぐのも
まことに賢く 心得た惣領である。