〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号9. 《ギター誕生》(9)
少年は 夜も昼も練習し、
目にし耳にする あらゆる物に触発されて 音を紡ぎ、
それは 新しい曲とも 奏法ともなり、
自分だけの音楽を ただ無心に
泉のごとく編み出し続けた。
弟子たちや 訪ねて来る人々の口から評判が広まり、
ぜひとも 町の音楽堂で 演奏会をひらいてほしいという声が上がるほどだった。
そんなある日、親方が 昼食後の休憩をとっていると、2番弟子がそばに来て
「親方、お話があるんですが」
声を低め、あらたまった口調で言った。
「おう、どうした」
2番弟子は 日頃うるさいほどに陽気で 工房の盛り上げ役なのだが、今は 顔も上げられないでいる。
「…後でゆっくり話そうか。今日は仕事終わりに残れるか?」
「はい」
戻ってゆく 後ろ姿がこわばっている。
このところ、少し元気がないような気はしていた。
何があったのだろうか?
思いを巡らせながらも 親方は忙しく午後を過ごした。
