「渋谷の星」 放送後記 #9
「どうして愛してくれないの!?同じ人間なのよ!」
20年程前、ある女性から「愛」を告白された。私も女性である。それは人生初の出来事だった。。。
当時、近所の英会話スクールに通っていた私は、バイリンガルな彼女を羨望の眼差しで見詰めていた。明るくポジティブで、外見はちょっぴり友近さんにも似ていて、とにかく姉御肌な気質の彼女。思うように英語が話せない私にいつも寄り添い、女性らしい猫のような可愛らしい声で、手取り足取り教えてくれた。
「ひとみ〜大丈夫よ〜あなたは上手く話せるわ〜」
ある夜、彼女から飲みに誘われた。憧れの女性、憧れの先生から誘われて、飛び上がるほど喜んだ。しかし、二人でタクシーに乗り込み、バタン!とドアが閉まった瞬間、彼女は豹変した。
「行き先はオレに任せろ!今夜はおまえを帰さない」
授業では聞いた事のないドスの利いた低い声。到着先は新宿2丁目だった。腕をつかまれたままビルの階段を上ると、彼女が慣れた手つきでドアを引いた。
「Hello〜everyone!」
派手なゲイバー。常連らしい彼女は「久しぶりね!」と大歓迎され、女装したスタッフが私に「いらっしゃ〜い!」と言った。恥ずかし気に微笑むと「まぁ!なんて可愛らしい彼女かしらン♪」と笑った。
二人でソファに腰掛けた。カラオケ好きの彼女はマイクを握って離さなかった。偶然なのか他に客もなく、彼女は私の肩に腕を回し、ラブソングばかり歌っていた。特に、Stevie Wonderの「Lately 」が素晴らしく、心底聴き惚れる歌声だった。すると、不意に耳元で掠れた声がした・・・
「もう気付いてると思うけど、実はアタシ【バイ】なの」
(バ・・・イ・・・??)
彼女と顔を見合わせた。
でも私はその意味が解らず、ポカン。。。
「バイって・・・なぁに??」
女装スタッフが、けたたましく笑った。
「バイ!・・・Bisexual!」
「Bisexual・・・って・・・なに??」
彼女がテーブルに突っ伏した。
彼女「おまえ…まさか…知らないの!?」
スタッフ「知らないわよねぇ。この人、特別だもの」
彼女「あのな、男もOK!女もOK!ってこと!」
私「それって…?私も?OK…ってこと?」
彼女「あったりまえ!!じゃなきゃ誘わねぇよ!」
女装スタッフが腹を抱えて大笑い。きっと私は、頬が赤くなったのだと思う。「おまえのそう言う所が堪らなく好きだ!」と言われて彼女に抱き着かれた。その後はもう口説かれて口説かれて口説かれて、、、今から行く所へ行こう!なんて言われる始末。つまり、ホテルに誘われたのだ。
でも、私は彼女を受け入れられなかった。恋愛対象は異性以外、考えられなかったからだ。みるみるうちに彼女は涙目になり、
「どうして私を愛してくれないの・・・!?」
と、か弱い声で訴えた。
「ねぇ!男も、女も、おんなじ人間なのよ!!」
(同じ人間・・・)
私は何も言えなかった。
あ!このエピソード知ってる!と思ったあなたはヘビーリスナーさんかな?(笑)
あの日の想い出を握り締めて臨んだ放送回(11月17日・24日)。渋谷のラジオ「渋谷の星」はLGBTQ特集だった。区報しぶや区ニュース11月15日号の表紙を飾ったのは同性カップル。有名写真家のレスリー・キーさん(シンガポール出身)、パートナーでファッションモデルのジョシュア・オッグさん(アメリカ出身)。お二人は、9月23日に渋谷区パートナーシップ証明を取得された。
いや〜本当はね、お二人のchu写真が表紙になるんじゃないかと思っていたのだが・・・残念ね、たださん(笑)※たださんはカメラマン
【収録秘話①】お二人の衣裳ブランドは「THOM BROWNE」。区報取材の前日に購入されたそう。実は、ジョシュアさんのご先祖様がアイリッシュで・・・だからこのスタイルを選ばれたのかと思いきや「単に二人で気に入ったから」と。
【収録秘話 ②】実は当初、レスリーさんは日本語で話す予定だった。しかし現場で「ジョシュアにも伝わるように、ボクも英語で話したい。いい?」と聞かれた。私は「永田さんが宜しければ、どうぞ!」と答えた。「えー!?レスリーも英語!?うわ〜!僕、大変!!」と焦る永田さん。「大丈夫!大丈夫!彼はとっても優秀だから!全く問題ない」と笑ったレスリーさん。通訳は渋谷区職員の永田龍太郎さんが担当された。永田さんのプロフィールもまた多様。人生の厚みを感じる。
【収録秘話 ③】実は、あのインタビュー音声はノーカット。つまり、お二人の話が終わった直後、間髪入れずに永田さんが通訳している。翻訳を考える「間」が全くないのだ。素晴らしい!そして、超羨ましい!!
LGBTQ特集 第1回目。アーカイブはこちら↓(試聴可)。お二人の出会いは、レスリーさんの一目惚れから始まった!?「もっと知りたい」と思う気持ちは男も女も関係なく、やはり恋の始まりなのね。。。
LGBTQ特集 第2回目。アーカイブはこちら↓(試聴可)。パートナーシップ証明取得への思い、「発信」する事の大切さを問う。同性婚が日本の法律で認められる日を、今か今かと待ち望むお二人が見える。他、パートナーシップ証明交付、表紙撮影会の模様もお届け。
【撮影秘話】写真家のレスリーさんは撮影中、カメラマン・たださんに「僕のライバルだ!」と言った。たださんの撮影時間は短い。いつも、あっと言う間に終わってしまう。だから「僕も早いけど、彼も相当早いよ。僕のライバルだ!」とレスリーさんが言ったのだ。「2枚じゃ僕、緊張するから!いっぱい写して!」この声が収録され放送。音声だけでは解らないだろうが、たださんは相当照れている(笑)
【スタジオ秘話】24日。アシスタントが急遽欠席となり、それを知らずにスタジオIN。あれ?もう直ぐ本番なのに、来ない?・・・えっ!?休み!?わー!コロナ情報どうするの!?天気予報は!?あれ?原稿がない!桃ちゃーん!Help Me!!と、もう間際にバッタバタ(大汗)動揺を隠せず、進行手順を間違える始末。次のBGを出そうにも、今流れているBGと同じCD盤じゃん!?C.I.(カットイン)出来ないじゃないかー!!
いやはや、もう自分の未熟さに参りました・・・トホホ・・・激励して下さったリスナーのあなた様、本当にありがとうございました(感謝)。
マスキングテープ・ハート(渋谷区役所1F・受付ロビー壁面)は、北海道出身のアーティスト、西村公一さんの作品。黒い犬は、もちろん「ハチ公」。西村さんの詳しいプロフィールはこちら↓
最後にスタジオ写真を・・・あら!絶壁やん(苦笑)
photographer 桃ちゃん(渋谷のラジオ事務局スタッフ)
今回のテーマはナイーブな面があり、構成段階で言葉に迷ったり、慎重に言葉選びをした。しかし、それ自体が差別ではなかろうか?必要以上に気を遣わず、いつも通りに語りかければいい。事実をそのままお伝えすればいい。広く知って頂く事を第一に。あとは、リスナーのあなたがお考えになるはず。私はそれを尊重する。それでいい。
「同じ人間なのよ」
あの日の彼女の言葉は、20年以上経った今も、私の心に生き続ける。