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「渋谷の星」 放送後記 #6
番組で話せなかったことを書こう。
あれは・・・いつの頃だろう。弟が大学生の頃・・・だとすれば、私は既に東京暮らし、25歳前後か。。。
父と弟が北海道の山道をドライブ中、一匹の黒い子犬を発見した。小さくて、やせ細り、迷い犬であること明白。見捨てれば、ヒグマに食われてしまう危険性がある。二人は車を止めて「おいで!」と呼んだ。子犬は口角を上げて尻尾を振り、喜んで車に乗り込んだと言う。
「シメシメ、これで帰れるぞ」と思ったか否か、子犬は家に着くなり「違う!ここは自分の家じゃない!」とばかりに不機嫌に吠えまくったそうだ。しかし、飼い主の手がかりは全くない。山中で何日も彷徨っていたのか、子犬は泥だらけで、匂いもキツかったらしい。父と弟はホームセンターで犬用シャンプーを買い、ホースで洗って上げた。すると、真っ黒だった犬が真っ白に大変身。「わー!白い犬だぁ!」と、二人は声を上げて驚いたと言う。
羊のようなフワフワの白い癖っ毛。女の子。名を「メリー」と名付けた。もちろん「メリーさんの羊」から取って(笑)。しかも耳だけが金髪ストレート。いわゆるMIX犬である。性格は、お淑やかと思いきや、雄犬にも飛びかかるほどの聞かん坊。最初の頃は父も弟も噛まれ、母も手から血が出るほど噛まれた。メリーにしてみれば、本当の飼い主ではないのだから他人も同然。相当気に入らなかったに違いない。が、結局、飼い主は見付からなかった・・・メリーは多分、山中に捨てられたのだろう・・・
実家で犬を飼うのは初めてだった。飼い方も解らず、皆で四苦八苦しながら躾した。本来は室内犬だが、母が家の中で動物を飼うことに大反対。結局、玄関の内側に檻を作って、その中で飼っていた。
私がその姿を見た時、メリーは檻の中でショボくれていた。姿は可愛いのに、白目を出して唸る。手を出そうものなら噛まれそうな勢いだった。・・・あらあら、檻に入れられて可哀相にねぇ・・・
ある時、両親が買い物に出掛け、弟の姿もなく、私は「しめた!」とばかりに檻からメリーを出し、リビングに招き入れた。メリーは大喜び。母が見たら多分、卒倒しただろう(笑)。私はメリーと遊びたかった。だが「お手!」と言っても知らん振り。「お座り!」と言っても立ったまま。ボールを投げても見向きもされなかった・・・な〜んだぁ、お手もお座りも出来ないのかぁ・・・
メリーは、部屋の角から角まで走り回っていた。その様子が必死に何かを探していて「メリー?何を探しているの?ひょっとして飼い主を探しているの?あんたの飼い主は、もういないのよ。あんたは捨てられたのよ」と、声に出して話し掛けた。メリーは目に涙を浮かべ突っ立っていた。可哀相に・・・飼い主に会いたいだろう・・・出来るなら会わせて上げたい・・・でも、本当に捨てられたのなら、何て酷い飼い主だろう・・・
檻で飼っていたのも束の間、次に帰省した時、メリーはソファを我が物顔で陣取っていた。母のお許しが出たのだ。「良かったね〜メリー!!」顔の毛がグチャグチャになるほど撫でたら、頬をベロベロ舐められた。「もういいよ」と言っても夢中で舐められ、止まらなかった・・・嬉しかったんだね・・・よっぽど部屋に入れてもらいたかったんだね・・・
メリーは当時、推定8歳だった。既に乳癌を患っていた。癌は転移していた。10歳の頃だったか、脳梗塞で倒れた。動物病院に入院させたら、フラフラになって戻って来た。首が曲がって、舌も使えず、水すら飲めなかった。それを懸命に看病したのは誰でもない、母だった。いつの間にか母は「我が子より犬の方が何倍も可愛い」とまで言うようになった。母の看病の甲斐あって、メリーは元通り元気になった。既に家族の一員だった。
それから4~5年は穏やかに暮らしたが、やがて白内障になり、癌が進行し、最後は膀胱癌になった。犬も人間と同じ病を患うのだ。おしっこが出なくて苦しむ。痛みで意識が朦朧とする。メリーは、あんなに嫌いだった病院に行こうと自ら立ち上がった。病院に行けば元気になれると信じていた証拠だ。私は見るに耐え切れず、胸が苦しくなった・・・代われるものなら、代わって上げたい・・・
最期の日。
獣医が往診に来てくれた。インターフェロン(抗がん剤)の点滴を打って3日目。病状は良くならなかった。私は車に乗り込む獣医を追い掛けて「先生!メリーを助けて下さい!お願いします!」と泣きじゃくりながら訴えた。先生は険しい表情で「ごめんね、残念だけど、これ以上、どうする事も出来ないんだ、ごめんね。あとは、最期までそばにいて上げて、ね」と言った・・・
しばらく苦しんでいたメリーが、外に行きたいと、おねだりした。母が抱き上げて風に当てて上げた。白内障のメリーに外の景色は見えないはず。気持ち良さそうに鼻をクンクンさせて、草木の香をいっぱい吸い込んでいた。・・・そのうち満足したのか、今度は家に入りたい仕草をした。布団に寝かせて上げた。仰向けになったメリーは背中で這いずって、前足を私の方へ伸ばした。「どうしたの?メリー?」そう言って両手で前足を握ったら、真ん丸い目をして、口角を上げてニコッと笑った。「あー!メリーが笑ったー!痛くないの?良かった・・・ありがとう!」
次の瞬間、
メリーは、一瞬硬直し・・・そのまま目を閉じた・・・
何度呼びかけても、二度と目を開ける事はなかった・・・
と同時に、
母がショックで倒れた。メリーと私を残し、母は父と病院へ直行。危うく、メリーと一緒に天国へ行き掛けたのだった。いや、笑い事ではない。
今でこそ、豪華なペット葬儀が行える時代だが、20年前の棺は薄いダンボールで、火葬場では粗末な鉄板の上に乗せて焼くだけだった。それが余りにも不憫で、両腕いっぱい抱えて持ち込んだ菊の花を、丁寧に丁寧に鉄板の上に並べて別れを惜しんだ。祖母が亡くなっても、母が亡くなった時でさえ流さなかった涙なのに、メリーの時は鉄板にすがり付いて、母と一緒に声を上げて泣いた。泣いて泣いて、一生分の涙を流すほど泣いた。
以来、私はペットロスだ。
もう2度とペットは飼うまいと誓った。そりゃ、ペットショップを見れば可愛くて、連れて帰りたくなる。でも、失った時の悲しさよりも、病で苦しむあの姿を2度と見たくない。本当に耐え難い辛さだった・・・
このような心の背景を持ちながら番組をお送りした10月6日・13日。特集は、渋谷で動物看護師を育成する「ヤマザキ学園」。動物看護師は現在、国家資格ではない。山﨑さんの願いが叶い、昨年「愛玩動物看護師法」が成立、2023年に動物看護師の国家試験がスタートする予定。
10月6日は「ヤマザキ学園」の歴史、「愛玩動物看護師法」制定までの道のり、学生参加座談会など。
10月13日は「37分30秒」からメリーの話を少しだけ・・・本当は全部話したかったな・・・でも話し出したら1時間は掛かりそうなので(笑)
愛犬メリー号(享年15歳、推定)
まさかラジオでメリーの話をする日が来るとは・・・
ビックリだよね、メリー・・・(笑)