技術の進化と拡がりを見極めることの大事さ
出典:技術戦略マップ2008(経産省)
2008年経産省が発表した技術戦略マップから、2025年頃の将来像図として描かれているイラストを見つけました。
(技術戦略マップ自体は、情報通信、ナノテクノロジー、エネルギーなど、広範にわたる技術ロードマップを精緻にまとめたもののようです(かなりの大作))
初代iPhoneが発売されたのが2007年ですから、それと同時期に10年以上先の未来として描かれたイラストです。
どの製品もまだ一般的に広まってはいないように思えます。
というよりも、技術的には実現できる(もしくはすでにできている)ものが多いですが、(まだ)広く普及しているものではないというところでしょうか。
(掃除機ロボットはある程度広がっている?と思ったら初代ルンバって2002年にはもう発売されてたんですね...)
これを見て、
・シーズオリエンテッド、プロダクトアウトじゃダメでニーズオリエンテッド、マーケットドリブンで考えるべきだ、とか
・テクノロジーや流行の進化/変化は速いからロードマップや青写真を描くことに意味なんてない
とか言いたいわけでは全くなく、
技術に対する正しい理解と市場の正しい理解をベースにした発想の飛躍
を大事にしていきたいな、と思った話です。
技術に対する正しい理解
AI、5G、AR/VR、ブロックチェーン、量子コンピュータ
いずれもここ数年よく目にするワードです。
新しい技術が話題を集めると一時的なブームのようになりますが、どんな技術もどこからともなく突如現れものではなく、それまでの取組みの積み上げでしかないと思っています。
AIであれば1960年代の第1次AIブーム(推論と探索)からはじまり、機械学習、そしてディープラーニングの登場により広く使われ始めましたし、5Gに関しては高い周波数帯の利用や既存技術の組み合わせによりできることが増えてはいますが、4G(LTE)をベースとした技術です。
その他も同様に技術進化の積み重ねにより現在に至っています。
(ブロックチェーンは少し特殊な例かもしれませんが)
それにもかかわらず、AIで何でもできる、5Gになると劇的に世界が変わる、と考えている人がとても多いような気がします。
一方で、新しい技術を過少評価し、後塵を拝してしまう企業も多い。
そうした技術の本質を見誤らないために、その技術がどのような段階にあり、何ができるのかを正しく理解することが必要だと思います。
技術の進化は半導体の微細化やモバイル通信の進化のように漸進的なものか、AIでいうディープラーニング、量子コンピュータでいえば量子アニーリングの登場のような既存の議論をベースにした段階的進化(部分的飛躍)、既存技術の組み合わせ(新しい組み合わせ or 補完技術の利用)のいずれかだと考えています。
後者の2パターンは推察しにくいところではありますが、ある程度の技術進化の方向性は予測可能で、それらの技術をどのように使えば、何ができるようになるのかを理解することはさほど難しいことではないと思います。
技術に対する正しい理解を常に意識することは、それが市場に受け入れられるレベルなのか、それはどのような市場なのかを考えるベースになるのではないでしょうか。
・技術の進化は漸進的、段階的、あるいは既存技術の組合せ的なもので、ある程度までは予測可能
・その技術でできること、できないことを正しく理解することが大事
(専門的な部分まで詳細を理解する必要はない。どのように使えば何ができるかを知ること)
ちなみに蛇足ですが、第33回 2008年に注目すべき10の技術トレンド(日経XTECH)(ガートナー発表情報から作成)によると、冒頭のイラストが作成された2008年時点で注目技術として挙げられているのは以下のようなものでした。
・グリーンIT:省電力・低炭素排出なITシステム等
・ユニファイド・コミュニケーション:ビジネスチャット・Web会議・ビデオ会議などのコミュニケーション手段を統合し、状況に応じて最適な手段で利用できる
・ビジネス・プロセス・モデリング:業務プロセスのモデル化(見える化)による効率化およびプロセス改善
・メタデータ管理:顧客や製品データの統合および情報管理の実現。メタデータの最適化や抽象化により内容分析を可能にする
・仮想化2.0:VMWareなどを利用したサーバー仮想化をベースに管理の自動化や効率化を行うとともに、より広範な仮想化を実現する
・マッシュアップと統合アプリケーション:Webサービスのマッシュアップの加速(さまざまなWebサービスやコンテンツを組み合わせ、新しいサービスを提供する)
・WebプラットフォームとWebオリエンテッド・アーキテクチャ:SaaSの普及とWebプラットフォームの台頭
・コンピューティング・ファブリック:ブレード・サーバーの進化形。複数ブレードを運用上統合する技術
・リアル・ワールドWeb:Webからの情報を割り当てた特定の場所や行動、環境などを指す。現実の置き換えではなく、現実を “増幅”させるもの
・ソーシャル・ソフトウエア:ソーシャルネットワーキングや組織内外でのコラボレーションを促進するソリューション
市場の正しい理解
魔の川、死の谷、ダーウィンの海とよく言われるように、どんな技術であれ使われなければ意味がなく、市場・ニーズの大きさが大事になってきます。
有名なイノベータ理論的な観点から少し考えてみました。
既存技術(市場)の進化、既存市場の置き換え、市場の発見・開拓の大きく3パターンがあると考えています。
既存技術(市場)の進化
ディスプレイがブラウン管、液晶、有機ELと変わっていったように、既存技術が使われる市場でそのまま普及し、品質や価格やその他の性能の進化に貢献する技術がこれに該当します。
すでにアーリーマジョリティ、レイトマジョリティ以降まで普及しており、性能さえよければすぐに市場に受け入れられるものです。
(言い方を変えると、これが持続的イノベーションに、次の「既存市場の置き換え」が破壊的イノベーションに相当するものだと思いますが、ローエンド型の破壊的イノベーションと呼ばれるものは、どちらかというと既存技術(市場)の進化として捉えるべきかと思い、こういう書き方をしてます)
既存市場の置き換え
フィルムカメラに対するデジタルカメラ、ガラケー(あるいはデジタルカメラ)に対するスマートフォンのように、市場の競争原理を置き換えてしまうもの。
もともとアーリーマジョリティ、レイトマジョリティ以降まで普及している市場だが、新しい競争原理に基づきユーザーの獲得を行う必要があるため、既存技術(市場)の進化のように、何らかの性能が優れていることだけでは市場を広げられず、キャズムを超えて普及させるだけの優位性(ユーザーの新たな課題解決、新しい価値の提供 etc.)が必要になってきます。
一方で、もともと市場としては存在していたものなので、一度拡大期に入ると急速に広がる可能性が高い。
市場の発見・開拓
これは言葉の通り、それまではなかった、あるいは実現できていなかった市場の開拓・新しい市場の普及につながるものです。
ウォークマンによる携帯音楽市場、携帯電話によるモバイルインターネット市場(やインターネットによるIT市場)などが挙げられるでしょうか。
技術に対する正しい理解と市場の正しい理解をベースにした発想の飛躍
技術が先か、ニーズ(市場)が先かは答えのない問いで、結局のところハサミの両刃のようにどちらも欠かせないもの、2つで1つだとは思います。
ただ、どちらを起点に考えるにしろ、
・既存の技術と市場を正しく理解し、少し先の技術の進化と市場の拡がりを見極めること
が重要な観点だと思います。
既存の技術、あるいは既存技術の少し先にあるものに対し、その技術をどのように使えば何ができるかを正しく理解する。また、どのような市場があり、その技術をどこに適用すれば市場がどのように拡がりそうかを見極めること。
それが変化の激しいこれからのビジネスを考える上で、より重要になってくるのではないかと思います。
また、日本からイノベーションがなかなか生まれないと言われて久しいですが、技術と市場を正しく理解した上で、
・技術と市場の新しい組み合わせが無いか、発想を飛躍させ模索すること
も必要になってくるのではないでしょうか。
時には発想を飛躍させ、市場の競争原理を変えるには?新しい市場を作るには?と考えてみることが、イノベーションと呼ばれるものに繋がっていくのではないかと思います。
時間軸で考えてみる
最後に、ここまで書いてきたことを技術起点で、『テクノロジーが今後どのように発展し、ビジネスがどう変化をしていくか?』という時間軸を意識して考えてみると、商用化の壁と普及の壁の2つの側面があると思います。
前者の”商用化の壁”は「技術に対する正しい理解」の部分で書いたように、技術の進化がどのレベルにあるのかをしっかり見極め、何らかの市場で受け入れられるだけの最低限の性能水準を超えているか、(ハード・材料系の分野であれば)量産化・均質化など、商用拡大に耐えられるのかを考えておく必要があるでしょう。
まだそのレベルに達していない技術は一時的なブームを迎えるかもしれませんが、スケールさせるために十分な土台がないので広がりを見せず、結果バズワードで終わってしまう。
商用化の壁の次は普及の壁を越えられるかが大事になってくる。こちらは「市場の正しい理解」で書いたように、キャズムを超えて広く普及させるための市場の見極めが大事になってくると思います。
既存技術(市場)の進化の場合など、性能が一定水準を超えれば(商用化の壁を越えれば)一気に広がる技術もあれば、新しい市場を見つけていかなければ広がらないケースもあるでしょうが、いずれにせよ、どのような市場が適切かを見極めることが重要だと思います。
その市場に対し、キャズムを超えるのに十分な優位性がなければ、普及には至らず同じくバズワードで終わってしまう技術になってしまう可能性が高いと思います。
おわりに
技術ロードマップや未来絵図は探せばいろいろありますが、それらを作る場合にも見る場合にも、技術と市場の両輪を意識しておかないといけないんじゃないかなと思います。
その技術でできることを正しく理解していなければ、まったく的外れな将来像になるでしょうし、市場の広がりを正しく見極めなければ、可能性のある市場やユースケースを見落としたり、本当に広がる可能性のある技術を見誤ることになってしまう。
技術を正しく理解し、市場を正しく理解し、それをベースにして時には発想の飛躍をすることで、新たな価値を生み出していきたい、そう思ったという話でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?