19.だじゃれ →
ヘッダー画像はkazamatsuri305keimさんより拝借した「布団がふっとんだ」である。
駄洒落というのはこのように「同じ音」あるいは「非常に似通った音」を持つ言葉をかけて遊ぶ、一種の言葉遊びで「洒落」の文化なのだ。決してオヤジギャグと言うなかれ。
私が生まれ育ったのは冗談のかたまりのような環境だった。幼少のみぎりより家庭内や親族中からよってたかってユーモアの英才教育を受けており、中学校に入る頃にはすっかり立派なエキスパート(?)になっていた。なお従姉妹にいたっては噺家になり、ことしで40年のベテラン真打ちである。
私の同級生の中に、テストの結果が毎回上位の成績を誇る天才肌の武田君という男子がいた。
銀縁メガネをかけた見るからにガリ勉タイプで、肌は白く、ひょろ〜っとしているがコミュ障やネクラ(根暗)でもなく、いじめられっ子でもない。「ウラナリ」「青びょうたん」「もやしっ子」など不作の野菜だらけの呼ばれ方をしていたが本人としてはどこ吹く風で、悪口に対してみじんも気にする様子がなかった。
武田君とは部活動も同じで、その休憩時間になぜか「だじゃれ対決」が始まったのだが、いつも私が勝利してしまって正直つまらなかった。
一方、負けず嫌いの武田君は思いついただじゃれをノートにせっせとメモし、昼休みの時間や部活の日に私のところへ持ってきては「これはどうか」「こんなのも作った」などとやたら喋ってくるようになる。ライバルにネタをバラしてどうするのか。
武田君は学校生活の他にも塾に通ったりしていて忙しいらしい。本人曰く、「学区内トップの高校を目指している」ような人間が、だじゃれの考案といったクソくだらないことにまで時間を割くとは恐れ入る。このときほど天才の頭の中を見てみたいと思ったことはない。
いや、感心している場合ではなかった。うかうかしているうちに、だじゃれ名人の王座を奪取されるのも時間の問題か、と背中に冷や汗をかいていたら武田君はだじゃれに飽きたのか、いつの間にか「回文作り」に熱を上げるようになっていた。当時の傑作は今でも忘れない、驚異的なものだった。
中学2年生で、この完成度である。天才はやっぱりどこか違う、と だじゃれ名人もつい唸ってしまう。
ついでに彼の天才エピソードを思い出したので書いておこう。
好奇心旺盛な天才は、標高(気圧)が高くなければ水が約100℃で沸騰することを知っているはずだが、なぜか炊きたてご飯の温度を知りたくなったらしい。しかし、彼の家には体温計(当時は水銀)しかなかった。
体温計で計れるのはせいぜい最高で42℃くらいが精一杯だが、こともあろうにそれを炊けたばかりのつやつやご飯きらめく内釜に突っ込んでしまう。瞬時に体温計は破裂して、中の水銀はあたり一面に四散。天才なのにそれが試算できなかったようだ。悲惨である(せっかくなので、だじゃれを散りばめてみた)。
武田君の家がエベレスト山頂だったとしても、上記の計算でいくと水銀体温計は割れてしまう。さて、沸点が42℃になる標高を求めよ。
仮に赤道あたりから成層圏へ上昇すると標高は17kmになり、エベレスト山頂の約2倍強なので沸点は35℃に届かないくらいか。ざっくりすぎて申し訳ない。しかし だじゃれの話なのに、なにゆえ今になって算数をやらされているのか。武田のやろう!
「せっかく炊いたご飯が食べられなくなったじゃない!」と母ちゃんにこっぴどく怒られたことすら彼にはどこ吹く風で、「ほうぼうに飛び散った水銀を片付けるときは、ケーキにくっついてる銀玉(アラザン)みたいでおいしそうだった」と大笑いしながら語るのだった。
また、ある日突然、「おれ、ういろうの種類全部言えるよ!」「白 黒 抹茶 あずきコーヒー 柚子 サクラ」と得意満面に言い出し、日がな一日 繰り返し唱えていたこともあった。その場にいた全員はおそらく私のようにまだ覚えていて、無駄な脳内メモリを使っていると思われる。武田のやろう!
じゃ、次!「れ」