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『母を亡くして』…ようやく母のこと

2023年7月に母を亡くした。
「どんなに些細なことも、一生覚えておきたい」と思い、
文章に残すことを考えた。それが、この連載の始まりだった。
      
しかし、いざ書こうとすると書けなかった。
「なんで、あんなにキツい言い方したんだろう」
「あのとき話を聞き流してしまった」
母への後悔が無数に記憶の底から湧いてきて、書き進められなかったのだ。
  
    *    *    *

母の死後、わりと早い段階で、直近の日記を読んだ。
亡くなる2,3か月前。きっかけはわからないが、父に猛烈に怒っていた。
母とは毎日、電話でいろんなことを話題にしたが、
そういえば「お父さんがうるさくて嫌。家を出たいが行く場所がない」
と私に言ったことがあった。
「それなら私のマンションに泊まりにくればいいじゃないの」
私の提案を、母は想像もしなかったようで
「行っていいの?」と嬉しそうだった。
母と一緒にいるのは私も楽しいから大歓迎!
しかし、その計画は実行できないまま、母は旅立ってしまった。

一周忌から2か月ほど経った9月。
なぜか、この母の家出計画が私のなかで何回も浮上していた。
数日の宿泊ではなく、月単位で一緒に暮らしたかもしれない。
一泊なら絨毯敷の部屋に布団を敷いて寝てもらうけれど、
長く滞在するなら私のセミダブルのベッドを母に譲ろう。
そしたら私はどこに寝ようか。絨毯敷の部屋? リビング?
ベッドの横に布団を敷いて母と隣り合って寝るのもいい。

母に対する甘えのせいで、
つい強い口調で言い負かしてしまうことが多かったけど、
もし二人暮らしだったら、ずっと優しくてあげられていたかな。

(了)