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ウンザリナオンナ

「・・・―だって、もういい加減”うんざり”だよね」

「えっ!?」

「エ!?なに、どうしたの?」
横にいた友人が驚いて私を見る。
「あ、ごめん、違うの、気にしないで」

・・・ああ、びっくりした。
自分に言われたのかと思った。

「うんざり」

この言葉に過敏になってしまって、友人の何気ない会話に反応してしまった自分に驚いた。

この前の彼の一言が、相当堪えている。

「お前のそういうとこ、うんざりなんだよ」
こちらを見ることもなく、溜息混じりに冷たく言い放たれた言葉は、私の心に深く深く突き刺さった。

もうその後の記憶はほとんどない。
気が付いたらベッドにうつ伏せになっていて、日曜の朝を迎えた。
そして何も手につかないまま平日をやり過ごし、週末の今日、友人と過ごしていても上の空だった自分が、聞き流せなかった言葉。

うんざり。

人から言われてこんなにキツイ一言もないなぁ・・・なんて思っちゃった私は、いつも何かにうんざりしていた。

毎日毎日同じことを繰り返す生活に”うんざり”していた。

職場では上司は動かないし、後輩が仕事をしないし、誰か仕事しに来てる人いますかー?って、思いながら一人黙々と仕事をしていることに、うんざり。

既婚者の友人はこぞって旦那や家庭の不満、子供のことしか話題にしない。大変だ、最悪だと言いながら「結婚はいつするのか」って聞かれるのに、うんざり。

彼氏は将来の話なんてしようともしないし、いつも私の話には無反応。会っている間もスマホばかり見て、つまらない。…私の連絡は返してもこないくせに。デートはもうどこかへ行くこともない。いつも金曜の夜、私の家に来て夕ご飯食べ、土曜の夕方には帰る。

そんな付き合いにうんざりしていたは私なのに、まさか彼から言われるなんて・・・。


そんな自分のことも、うんざり、してた。

職場で何も言えず、ハッキリ断ることも出来ない自分に、うんざり。
友人に嫉妬したり、劣等感を抱いている自分に、うんざり。
嫌だと思っていることを我慢して彼と別れられないでいる自分に、うんざり。

そう、私が私自身に一番、うんざり、してる。

だけど、彼とは離れられても、自分とは一生付き合っていかなきゃなんない。・・・たとえどんなに”うんざり”したって。


「ねえ、私が面倒くさくてうんざりさせてるかもしれないけど、友達でいてね」
私は横にいる、せっかくの週末にどんよりして面白くもない自分に付き合ってくれている友人に脈略もなく伝えた。

「いきなりどうしたの笑、今日おかしいよ?なんかあった?」
唐突な私の顔を覗き込んで心配してくれる友人に、
「ううん、なんでもない」
と笑ってみせたけど、その顔できっと友人は何かを察してくれたんだろう、

「おし!今日は奮発して美味しいもの食べよ!友達でいてあげるから、おごってよね!」
そう言って私の腕を取って歩き出す。

うんざり、な生活の中にも、うんざり、ではないことがある。
うんざり、な自分にも、うんざり、と思わず付き合ってくれる人がいる。

なら、自分も自分が、うんざり、だからって自分を見放すわけにはいかない。


食事の時、友人に”うんざり”の話をした。「おかしかった原因はそれか」って、私の話を嫌がらず聞いてくれた。

その日の夜に友人からメールが来て、そこには

《 ”うんざり”って”運”を置き”去り”にするってことなのかも。
これからは、その”うんざり”で置いてきた運を拾いにいこ!》

私は一体これまでどれだけ運を置いて来てしまったんだろう。

メールの最後には
《 とりあえず手始めにパワースポット巡ろ!調べとく 》
だって。

「そこ?!なんか違う笑笑」
ワザとなのか、ちょっと的外れな提案をしてくる友人に
≪ 了解 ≫と送った。

そしてその後すぐに
《次の休みも友人と約束があるから会わない》
と彼に送ってスマホを充電器に置いた。

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