忘れ花~最終章~前編

ある山に、毎年同じ場所に決まった時期に咲く花があるという。


私の村に伝わるそんな「花」の存在を信じている者はいなかった、
大抵の者は。

ある日、男がその花を探しに村にやって来た。

村の者なら「花の話」は知っているが皆、噂話としか思っていない。
そしてその「話」を一番詳しく知っているのは私だ、ということになっている。

案の定、その男も私の元へやって来た。

これまでも、ほんのたまにこういう者がどこから聞いたのかこの村に訪れ、
山へ登る。

そのほとんどが興味本位で来るような者ばかりで、
適当に少し話をしてやれば、勝手に山を登り、早々に諦め去って行く。


しかしその男は、何か事情があるのか
懇願するように私に情報を求めた。

その真剣な目に、冷やかしに来たのではないことはわかった、が
なら尚更、あの人の二の舞になるようなことになれば・・・
そう思うと適当に話すこともためらい、話すこと事態拒むしかなかった。

それでも、男は「花を実際に見た人の話を聞いた人」という
こんな信憑性のない繋がりにも、必死に食らいつくわけを話始めた。

男がその花、「忘れ花」を必要とする理由を。


私は、彼に本当のことを話すことにした。
彼には、必要なのかもしれない、あの人のように・・・
そう思ったからだ。

話終えると彼は私に
「あなた自身はその花を見に行かなかったのですか?」
と聞いてきた。

私は「私にはその花は必要ないので」と答えた。

彼にとって、私の情報が頼りの綱だ。
でも真剣だからこそ、どこかで不安があるのだろう。
当然だ。

でも、この花の存在する意味は彼自身が無事、花を見つけることができたなら、きっと理解するだろう。
そして、私が言った言葉の意味もわかってもらえるだろう。

どうか彼が、「忘れ花」によって救われることを心で祈りながら
村を去るのを見送った。

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