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短編小説『どんどん心魅かれてく』

まえがき
人は時に予期しないものに心を奪われることがあります。それが人であれ、景色であれ、何かの出来事であれ、その瞬間は静かに、けれど確実に私たちを変えていくものです。この物語は、そんな「心が魅かれる瞬間」を描いた一編です。


どんどん心魅かれてく

雨上がりの駅前、アスファルトの濡れた匂いが鼻をかすめる。傘を閉じた人々が忙しなく行き交う中、颯太はベンチに座りながら何気なくその様子を眺めていた。彼の手には一冊の小さなノート。ページの隅には、書きかけの詩がいくつも並んでいる。

「今日も書けなかったな…」

ため息をついたその時だった。視界の端に鮮やかな黄色が映り込む。視線をそちらに向けると、目を引く黄色い傘を差した女性がいた。彼女は駅の改札から出てきたばかりのようで、少し迷うように足を止めている。その表情はどこか不安げだが、どこか心惹かれるものがあった。

颯太は思わず立ち上がり、彼女を目で追ってしまう。彼女はやがて駅前のカフェに足を向けると、ガラス窓越しの席に座った。黄色い傘をテーブルに置き、窓の外をぼんやり眺めている。

「どんな人なんだろう?」

颯太は考えた。そして気づけば、彼もそのカフェの中にいた。彼女の座るテーブルの少し離れた席に腰掛け、こっそり様子をうかがう。そんな自分の行動に驚きながらも、彼はなぜか目が離せなかった。

カフェの柔らかな明かりに照らされた彼女の横顔は、雨のしずくのように儚げだった。手元のノートを開いた彼女は、ペンを握りしめ、何かを書いているようだった。颯太の胸が少しざわつく。

「同じだ…俺と同じだ。」

彼女もまた、言葉を綴っているのだ。その瞬間、颯太は何かを感じた。それは言葉にするのが難しい感情だったが、強く心を引きつけられるものだった。

ふと、彼女がこちらを振り向いた。目が合うと、彼女は少し驚いたようだったが、すぐに微笑んだ。その笑顔に、颯太は完全に心を奪われた。

「……何を書いているんですか?」

気づけば、声をかけていた。彼女は一瞬戸惑ったが、優しく答えた。

「詩を書いています。雨の日にしか浮かばない言葉があって。」

その言葉に、颯太はさらに魅了された。


エピローグ

その日を境に、二人は雨の日にだけ会うようになった。それぞれの詩を交換し、互いの言葉に心を通わせる時間が続いた。そしていつしか、雨の日が待ち遠しくなる自分に気づいた。

心がどんどん魅かれていく感覚。それは彼の人生に新しい光をもたらしていた。


−完−


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物語の綴り手
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