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短編小説『体育館裏の物語』

まえがき

高校生活の中で誰もが一度は耳にする場所——体育館裏。その静寂と秘密を宿した場所には、青春の光と影が隠されています。この短編小説は、体育館裏で交錯する2人の高校生の物語です。


体育館裏の物語

高校生の青春が交差する場所
薄曇りの午後、体育館裏には静かな風が吹いていた。午後の授業をさぼり、煙草を吸う男子生徒や、何かしらの密談をする生徒たちの姿が普段は見られるその場所。しかし今日は、そこには一人の少女と一人の少年だけがいた。
「こんなところで何してるの?」
少女の声は、想像以上に柔らかかった。彼女は黒い髪を肩に下ろし、手には小さなノートを抱えている。文学部の片桐綾子だった。
少年は顔をあげ、手の中のボールペンを回すのを止めた。長身でスポーツ刈りの彼は、バスケットボール部のエースである坂本悠斗。
「ちょっと、考え事してた。」
「ふーん。」
綾子は悠斗の隣に腰を下ろし、ノートを開いた。

青春の悩みと夢

「何を考えてたの?」
「試合のこととか、進路のこととか…。いろいろ。」
「進路、決まってないの?」
悠斗は苦笑いを浮かべた。「まぁね。綾子は?」
「私は…作家になりたいって思ってる。でも、どうやったらなれるのか分からなくて。」
綾子の指先がノートをめくる。そこにはびっしりと書き込まれた文字と、小さなイラストがあった。
「これ、何?」
悠斗が興味を示して覗き込む。
「物語だよ。今書いてる小説。」
「へぇ。どんな話?」
「高校生の女の子が、体育館裏で…大事なことを見つける話。」
綾子の視線が悠斗に向けられる。その瞳の奥には、どこか寂しさと期待が混じっていた。

物語を通じてつながる心

「大事なことって、例えば?」
悠斗の問いに、綾子は少し考え込んだ後、答えた。
「うーん、秘密かな。誰にも言えないけど、胸の中にずっとあるもの。」
悠斗はしばらく黙り込んでから、ボールペンをノートに向けた。
「これ、俺も書いていい?」
「え?」
「大事なこと、俺も考えてみる。」
綾子は驚いた表情を浮かべたが、やがて微笑んだ。「いいよ。一緒に書こう。」
2人は体育館裏の静けさの中で、一冊のノートに自分たちの物語を書き始めた。それは、たった数分前まではお互いにとってただの空間だった場所が、特別な意味を持つ瞬間だった。
その日を境に、体育館裏は2人だけの秘密の場所になった。毎日のようにノートを広げ、物語を書き続けた。友情の中に芽生える微かな想いと、未来への不安が交差する。ノートは、2人の心を繋ぐ架け橋になっていった。

完成への道

ある日、綾子がふと口にした。
「この物語が完成したら…、何か変わるかな。」
悠斗は少し考えてから、笑顔を見せた。
「変わるさ。俺たちも、この体育館裏も、全部。」
ノートの最後のページに、2人の手で書き込まれた結末。それはまだ見ぬ未来への扉だった。


あとがき

この物語を通じて描きたかったのは、何気ない日常の中にある特別な瞬間です。体育館裏という場所が象徴するのは、青春の中で誰もが抱える秘密や夢、そして不安です。片桐綾子と坂本悠斗の出会いが、読者の皆様の心にも少しの温かさを届けられたなら幸いです。

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