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短編小説:『イチロー』

まえがき

誰にでも、人生の中で憧れる存在がいるものです。その人の姿が、言葉が、行動が、自分の未来を照らす光となり、何かを始めるきっかけになることがあります。そして憧れは、ただ眺めるだけのものではなく、自分を成長させる力にもなるのです。

短編小説『イチロー』は、一人の少年が「憧れのヒーロー」を追いかけ、小さな成功を積み重ねていく物語です。この作品は、夢を追う人、努力を続ける人、そして挫折を乗り越えたいと願うすべての人に捧げます。

一歩ずつ、少しずつ――その先に広がる未来を、主人公と一緒に感じていただけたら幸いです。


1. 野球少年の夢

僕の名前はタクヤ。12歳、小学6年生。僕には憧れの選手がいる。そう、日本中が知っているあの「イチロー」だ。

僕が野球を始めたのは8歳のとき。家族でテレビを観ていると、イチローが華麗なヒットを打った。走り出した瞬間のスピード、バットを振り抜いたときの音、そして一塁ベースを踏むあの完璧なフォーム。僕は一瞬で彼の虜になった。

「俺もイチローみたいになりたい!」
その日から、僕は毎日バットを振り、壁当てをし、野球ノートに自分の反省を書き続けた。家にはポスターを貼り、学校の授業中もノートの隅にはイチローの背番号「51」を描いていた。


2. 初めての挫折

でも、夢を抱いた僕を現実がすぐに叩きのめした。

学校の野球チームでは、僕はレギュラーにはなれなかった。バットにボールが当たらない。フライを取ろうとするたびに落球する。「イチローみたいになりたい」という気持ちは、どんどん恥ずかしいものに思えてきた。

「タクヤ、お前、本当に野球向いてるのか?」
監督の言葉が胸に刺さった。家に帰ってポスターを見ても、イチローの笑顔が遠い存在に思えた。


3. イチローの言葉との出会い

そんな僕を変えたのは、ある日の偶然だった。書店で見つけたイチローの本に、こんな言葉が書かれていた。

「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道だ。」

その言葉が、心に深く響いた。イチローも最初からスーパースターだったわけじゃない。彼だって、小さな積み重ねを続けてきたんだ。

僕はその日から、目標を少しだけ変えた。イチローみたいな「天才」になるのではなく、毎日コツコツ積み重ねる「努力の人」になろうと。


4. 再びバットを握る

次の日から、僕の練習は変わった。バットの振り方を一つ一つ確認し、壁当ての回数を記録するようにした。失敗してもいいから、何度でもやる。試合でエラーしても、次の練習で直せばいい。小さなことを積み重ねる。それが僕の野球になった。

練習を続けるうちに、少しずつ結果が出るようになった。監督からも「最近、努力が実ってきたな」と声をかけられるようになった。


5. 最後の大会

小学校最後の大会がやってきた。僕たちのチームは予選を勝ち抜き、決勝戦に進むことになった。僕は6番センターで出場する。数ヶ月前なら信じられないことだった。

決勝戦、相手チームとの点差は1点。僕の打席が回ってきたのは、試合の終盤、ツーアウトランナー二塁という場面だった。心臓が高鳴る。

「ここで打てなかったら……」という恐怖が押し寄せたけれど、僕はイチローの言葉を思い出した。

「目の前の一球に集中する。それ以外、考えない。」

深呼吸をしてバットを構えた。そして、投げられたボールを思い切り振り抜いた。


6. ヒットの先に見えたもの

ボールは鋭いライナーで外野を抜けた。歓声が響く中、僕は一塁へ駆け出し、チームメイトがホームに返ってきた。逆転サヨナラのタイムリーヒット。

ベンチから飛び出してきた仲間たちが僕を抱きしめる。その瞬間、涙が止まらなくなった。努力を重ねた日々が、報われた気がした。


7. イチローの背中を追い続けて

試合が終わり、夕暮れのグラウンドで空を見上げた。あの空の向こうには、今もイチローがいる気がした。僕は彼のようなスーパースターにはなれないかもしれない。でも、僕の中で彼は、これからもずっと光り続ける存在だ。

「イチローみたいに、少しずつ進んでいこう。」
僕はバットを握りしめ、また明日からの練習を決意した。


−完−


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