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短編小説『白い一輪の花』

まえがき

人生の中で、私たちは時に何気ないものに目を奪われることがあります。それがたった一輪の花であっても、その存在が心に何かを呼び起こすことがあります。この短編では、一輪の花を通して描かれる出会いと変化の物語をお楽しみください。


白い一輪の花

小さな駅前の花壇に、その花は咲いていた。白い一輪の花。名も知らぬその花が、こんなにも目を引くのはなぜだろう。

真希は電車を待ちながらぼんやりとその花を眺めていた。どこか寂しげに揺れる花びら。都会の喧騒に呑み込まれそうで、それでもそこに存在し続けるその姿に、彼女は自分を重ねていた。

「綺麗だね、この花。」
不意に声がした。振り向くと、一人の男性が隣に立っていた。髪は少し乱れ、スーツもどこか皺が目立つ。仕事帰りなのだろうか。
「あ…ええ、そうですね。」
突然の言葉に戸惑いながらも、真希は答えた。

「白い花って、純粋さとか希望を象徴するって言うけど、それだけじゃない気がする。」
彼の言葉に真希は首を傾げた。「どういう意味ですか?」

彼は少し考え込むように視線を花に戻す。
「生きるってこと自体が、希望と不安の混じり合いじゃないかな。この花も、いつか枯れるかもしれないけど、それでも咲いている。その儚さが美しいと思う。」

真希はその言葉に、胸がぎゅっと締め付けられるのを感じた。最近の彼女は、自分が何を求めているのかもわからず、ただ流されるままの日々を過ごしていた。仕事のミス、友人との疎遠、家族との距離感――すべてが重くのしかかり、自分自身がどこにいるのかも見失いかけていた。

「あなたも、この花みたいに見える。」
突然の言葉に驚いて顔を上げた。彼の目は優しく、それでいて真剣だった。
「強く咲いているけど、どこか寂しそうだ。」

言葉を返せなかった。図星を突かれたような気がして、視線を花に戻す。
「でもね、この花を見ていると、そういう姿も悪くないって思えるんだ。きっと誰かが見てくれている。」

電車が駅に滑り込む音がした。
「じゃあ、また。」
彼はそれだけ言うと、電車に乗り込んでいった。

真希はその場に立ち尽くしていた。彼の言葉は胸の奥深くに刻まれた。誰かが見てくれている――その言葉が、今の彼女に必要だったのだろう。

次の日、真希は駅前の花壇に行き、白い花の隣に赤い花の苗を植えた。名前も知らないあの男性に、いつかまた会える日が来るのだろうか。そう思いながら、彼女の中に小さな希望の光が灯った。


あとがき

この物語の白い一輪の花は、私たちが日々の中で忘れがちな「自分らしさ」を象徴しています。それに気づき、行動することが、よりよい明日を生み出す一歩となるのではないでしょうか。
どんなに小さくても、その一歩を踏み出せるような物語を、これからも書き続けたいと思います。


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物語の綴り手
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