短編小説『ドラえもんがいたら』
まえがき
「もしもドラえもんがいたら」という夢を抱いたことのない人は少ないでしょう。未来の道具で問題を解決する彼の存在は、いつの時代も私たちの心をわくわくさせてくれます。この短編では、そんなドラえもんが「もしいたら」、ある普通の少年の日常がどのように変わるのかを描いてみました。
翔太は小学五年生。勉強も運動もあまり得意ではなく、学校では目立たない存在だった。家に帰ると、いつも机に向かい宿題とにらめっこする日々だ。そんな彼にとって、一日の終わりの楽しみは、古い漫画本で『ドラえもん』を読むことだった。
「いいなあ。僕もドラえもんがいたらなぁ…」
ベッドに寝転びながら、ため息交じりにそう呟いた。
その夜、不思議な夢を見た。翔太が目を覚ますと、自分の部屋に丸い形をした青いロボットが座っていた。
「やあ、翔太くん。」
低くて落ち着いた声が響く。翔太は驚きのあまり声が出なかった。
「ぼ、僕、夢を見てるのかな?」
「違うよ。君が僕を呼んだから来たんだ。」
そのロボット――ドラえもんは、ポケットから黄色い道具を取り出した。
「『ほんやくコンニャク』、これでどんな言葉でも分かるよ。」
翔太は目を輝かせた。「本当にドラえもんだ!」と。
その日から、翔太の日常は一変した。ドラえもんは学校にもついてきてくれた。算数のテストが難しかったときには、『暗記パン』を使って全ての公式を覚えたし、体育のリレーでは『タケコプター』で仲間のピンチを救った。
しかし、それが原因でトラブルも起きた。友達が翔太を「ずるい!」と責め立てたのだ。ドラえもんはしょんぼりした翔太をなぐさめた。
「道具は便利だけど、君自身が頑張ることが一番大切なんだよ。」
翔太はその言葉にハッとした。彼は道具に頼りすぎて、自分で何かをする努力を怠っていたのだ。
それからの翔太は変わった。ドラえもんの助けを借りることなく、自分の力で問題を解決しようとするようになった。算数の勉強には苦労したが、時間をかけて公式を覚えた。体育でも、自分の足で全力で走った。友達はそんな翔太の変化を見て、再び彼を応援してくれるようになった。
ある日、翔太が家に帰ると、ドラえもんが言った。
「そろそろ僕は未来に帰らなきゃいけないんだ。」
翔太は驚いたが、もう泣きはしなかった。「ありがとう、ドラえもん。僕、これからも頑張るよ。」
翌朝、翔太が目を覚ますと、ドラえもんはいなかった。しかし、机の上には一枚のメモが残されていた。
「困ったときは、自分の力を信じて。」
翔太はそのメモを大切にしまいながら、学校へ向かった。ドラえもんがいなくても、彼には自分の力で歩んでいく自信が芽生えていた。
あとがき
未来の道具に頼らず、自分の力で前に進む――それはきっと、ドラえもんが私たちに教えてくれる大切なメッセージです。どんな困難も、自分を信じて乗り越えようとするその姿勢が、何よりも輝くものなのではないでしょうか。この物語が、皆さんの日常に少しの勇気を届けられたら幸いです。