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短編小説『小さな希望』

まえがき

私たちは日々、さまざまな困難や壁に直面します。時には、何もかもがうまくいかないように思えて、自分の力が信じられなくなることもあるでしょう。そんなとき、ふとした瞬間に触れる誰かの言葉や行動が、私たちを救うことがあります。それは、大きな出来事ではないかもしれません。ただの一言、ただの笑顔。しかし、それが確かに「小さな希望」となり、前に進む力を与えてくれるのです。

この物語は、そんな小さな希望が人々の間を渡り歩き、どのように次の人へと受け継がれていくのかを描いたものです。誰かの小さな行動が、巡り巡ってまた誰かの心を灯す――そんな連鎖が、私たちの日常の中で起きているのかもしれません。

この短編が、あなたにとって小さな光となり、前に進む勇気を与えるものであることを願っています。


春の風がやさしく街を包み込む朝、七瀬葵はいつものように小さなカフェに足を運んだ。このカフェは葵にとって特別な場所だった。小さな木製のテーブル、柔らかな日差しが差し込む窓辺、そして鼻腔をくすぐるコーヒーの香り。大学生の頃、ここで夢を語り合った友人たちは、今はそれぞれの道を歩んでいる。

カウンターで注文を済ませた葵は、店の片隅に置かれた「フリーノート」を手に取った。このノートはカフェに訪れる人々が自由に書き込むもので、日々の思いや詩、イラストが綴られている。葵も時々書き込んでいたが、今日は読むことに専念することにした。

ページをめくると、ある文章が目に留まった。


「誰かが見つけてくれると信じて、この言葉を残します。もしあなたが何かに迷っているなら、それは新しい一歩を踏み出すチャンスかもしれません。小さな希望を信じてみてください。-M」


その言葉は、葵の胸にまっすぐに刺さった。最近、彼女は仕事での失敗続きで心が折れそうになっていた。大手広告代理店に勤める葵は、理想と現実のギャップに押しつぶされそうになっていた。企画書が通らない、先輩の期待に応えられない、そんな日々が続き、心は荒んでいた。

「小さな希望か…」

その言葉を繰り返すと、不思議と心が少しだけ軽くなった気がした。誰かが何気なく書いたこのメッセージが、今の自分を支えてくれていると感じた。


翌日、葵は仕事に向かう前にカフェへ寄り、そのフリーノートを再び開いた。彼女はそのページにそっとペンを走らせた。

「Mさん、ありがとう。あなたの言葉が私に小さな希望を与えてくれました。私も誰かに届けたいと思います。-七瀬葵」


その日、葵は仕事で新しい挑戦をする決意を固めた。小さなプロジェクトでいい、自分が心から楽しめる企画を提案しようと。案外、それはうまくいき、上司から「葵らしい視点だね」と褒められた。その瞬間、心の奥で微かな光が灯るのを感じた。


数か月後、葵はカフェでまたフリーノートを開いた。彼女の書き込みに対する返信があった。

「葵さん、あなたの言葉が私を救ってくれました。私も頑張ってみます。ありがとう。-R」


葵は微笑んだ。誰かに渡された希望が、また別の誰かへと伝わる。それは小さな光だけれど、確かに存在するものだった。

「希望は連鎖するのね」

そうつぶやいた葵は、新しい一歩を踏み出すため、再びペンを取りフリーノートに言葉を刻んだ。


「小さな希望を信じてみてください。きっと、それは次の道を照らしてくれるから。」



−完−

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物語の綴り手
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