#024 雨の日の「キャット・ウォーク」
#マル・ウォルドロン の『レフト・アローン』には、雨の思い出がある。
学校から帰ってきた僕は、今から駅前まで『レフト・アローン』を買いに行くか行くまいか悩んでいた。店頭に在庫があったのは何度もチェックしていた。
小遣いはわずかだった。これを使ってしまうと、しばらくは何も買えない生活になるのは分かっていた。かなり迷ったが、えいやっと、自転車に飛び乗った。
目的の品をヤンレイでゲットして、また自宅に戻ろうとした矢先、雨雲が立ち込め、突然の雨に見舞われた。僕は、CDが濡れないように、入れてもらったビニール袋の口を折りたたみ、小脇に挟み、自転車を走らせた。
自宅に帰り、濡れた体とビニール袋を拭き、封を開け『レフト・アローン』をかけた。1曲目は「レフト・アローン」。まったく残響のない #ジャッキー・マクリーン のアルトサックスが、おしつけがましく、けれど切々と訴えてきた。
しかし、雨の風景や当時の気分に合っていたのは、2曲目の「キャット・ウォーク」だった。曲想はとても暗く、思春期に感じていた茫洋とした将来への不安感に共感してくれているようだった。
「キャット・ウォーク」とは、どういう意味だろう。キャットは「猫」他に、ジャズマンを示すスラングがある。ウォークは「散歩」だが、幽霊などが「出る」といった意味もある。だから「(望んでない)ジャズマンが来やがったぞ」と言った意味かもしれない。もしくは、あてもなくジャズクラブを渡り歩く、老ジャズマンの哀れな姿か。
ジャズマンが忌み嫌われる周りの目に対する怒りというかあきらめみたいなものを表現しているのかもしれない。そういった、世界から祝福されていないような気分が、思春期の自分にもリンクしたのかもしれない。