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受話器の向こう側


プルルルル..... プルルルル.....



あ、もしもし。久しぶりだね。元気してた?
ごめんね、いきなり電話なんかして。今ちょっとだけ時間ある?
そっか、ありがとう。
いや、あのね、別に何か話したいことがあったってわけではないんだけど、なんか懐かしい声を聞きたくなったんだよね。
電話すんの何年ぶり?多分、6年ぶりとかだよね?しかもそれまでも2,3回しか話したことなかったし。うん、でも元気そうで良かったよ。




ポツポツ、ポツポツ、ポツポツ..........




なんか最近さ、何もかもにやる気しないんだよね。うん、ここ1ヶ月ぐらい。6月は本当にしんどかったよ。この前なんて「終活の思案」なんてタイトルでブログ書いてしまったし。本当に情けないよね。素直でいることが必ずしも良くないってことが浮き彫りになったような気がしたよ。なんというか、自分にとって「素直こそが正義」みたいな信条あるんだけど、そんなの他人には真っ先に否定されるよね。そもそも、この素直って言葉も難しいし。だってさ、この言葉、言い訳にも使えるんだよ?汚らしいよね。あー、なんかまた嫌になってきた。ううん、君のせいじゃないよ。ごめんね、久々の電話なのにこんなこと話しちゃって。





トゥトゥトゥトゥ....ッットゥ...........トゥートゥトゥトゥ





なんかね、さっき夜ご飯買いにコンビニ行ったんだけど、そしたらさ、車に轢かれそうになったのね。いや、別に飛び出しなんかしてないよ。余所見もしてない。ただ単に、あっちの不注意だったみたい。だけど、僕には全く怒りがなかった。「車って速いなぁ」なんて今更思ったよ。そのくせ、あっちには「危ねぇだろうこの野郎!!」なんて怒鳴られたけど。そんなに怒鳴るくらいなら、もう1回戻ってきてバックで轢いてくれればいいのにね。なーんて、冗談だよ。でも、やっぱりこの自分の日常に怒りという感情がある限り、僕は幸せになれないと思うんだよ。ううん、自分の感情じゃないよ。自分の"周りの人の"感情ね。いや、いくら考えたって、他人の感情とか行動なんて変えられないから仕方ないんだけどね。たまに本当に恨みたくなるよ。だから人間が嫌いなんだ。






オ.......ニ......タデ......バンゴ.......ゲン...イツカワレ.......オリ...セン






あーぁ、なんか幸せってなんなんだろうね。僕の好きな音楽の歌詞に「決まったやり方で僕らは幸せになんかなれない」って言葉があるんだけど、本当にその通りだよね。どうしたら自分が幸せになれるかを分かってる人は幸せな人なんだと思う。そして僕みたいに「幸せとは何か」っていう答えのない問いに永遠と向き合ってぶつかっている人は幸せになれないよきっと。いや、なんていうの、別にさ、「不幸な自分が可哀想...」みたいな悲劇のヒロイン的な思考はないよ。全くないって言うと嘘になるかもしれないけど。別に自分のこと幸せじゃないなって思っても、可哀想だとは思ってないし。もしかすると、他人から見た僕は幸せに見えるのかもしれないしね。






タダイ...ルスニシ.......リマス。ピーット.....ハッ...ンオンノ...ト.......






もう3時だって。電話してから5時間も経ってるよ。ごめんね、君の声が聞きたくて電話したはずなのに、僕ばっかり喋っちゃってる。しかも暗い話ばかり。また甘えちゃったね。こういうとこがダメなんだよなぁ本当に。殺してしまいたいよ、自分のこと。あぁ、ごめんごめん、これも冗談。安心して。死なないよきっと。でも、最近本当に生きている意味が分からないんだよ。誰しもこういう時ってあるんだろうけど、楽しさとか面白さとかそういうものが欠けていて、悲しさ、寂しさ、苦しさ、そういう負の感情ばっかが表立ってくる。いや、それだったらまだマシなのかも。本当に酷い時は空っぽだからね。人形みたいに。機械みたいに。俺の身体に涙腺って備わってたっけ?ってぐらい泣けないの。泣いたらきっと少しはスッキリするんだろうけど、空っぽだから。からっからだから。あ、でもさ、よく考えたら、機械の方がマシだよね。最近の機械って凄いんだよ?なんでも自動でやってくれるらしいし。まぁでもそれを生み出しているのが人間ってのが面白いよね。まぁ人間って言っても一部賢明な人に限るけど。






プーッ、プーッ、プーッ、プーッ、プーッ.......






いやいや、また暗い話になってしまったね。もういい加減にしないと。あぁ、外はもう陽が登ってきたね。そろそろカーテンを閉めないと。明日がまた来てしまったのか...。ってかもう来てるのか。そして今日が昨日になって、明日は今日になって、明後日も同じように明日になるのか。不気味だね。毎日って。平穏で不気味で退屈で。そうやって毎日が重なって歳をとっていくんだろうね。死に近づいていくんだろうね。......あああああもうわっかんね。俺、何が話したいんだろ。本当にごめんね。こんな話に付き合わせて。君が今日の電話で嫌な気分になっていないことを祈るばかりだよ。でも、やっぱ君優しいね。昔と変わってなくて本当に安心した。ありがとう。人間は嫌いだけど、君みたいな人は本当に幸せになってほしい。笑顔で日々を送ってほしい。そして、たまにその幸せに飽きた時は、またこういう話を聞いてほしい。本当に申し訳ないけど、こういう話、君にしかできないんだ。他の誰かに話したら、ドン引きされるし。「は?なら死ねばいいじゃん」なんて顔で見られたこともあるし。その時は思わず笑っちゃったよ。その通りだなって。だから、別に恨んだりはしないんだけどね。たかが人間だし。うん、でも、やっぱりいつも僕ばっか話ちゃうからね。僕が少しでも幸せを感じることができた日には、君の明るい話を聞きたいな。だから、用意しといてね。いつになるか分からないけど、その時を楽しみにしてるね。今日は長いことありがとう。おやすみ。またね。






うん、またね。






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