のっぽのかかし【おはなし】
山から谷から全て見渡せる所に立てられたかかしがある。
かの周りには死角はなく、これを倒したくば正面突破あるのみだ。
見渡せるからには頼むと町民たちはかかしを持て囃し、時には投資をした。服装や音楽などを持ち寄ったり、金銀などを恵むものもあった、
誰の服で誰の音楽をきかせるかは、毎度人間たちが争い決めた。
たくさんの人の想いを受け取って尚立ち続けるかかしには弱点があった。
そう。バレてしまうと一溜りもない。という事だった。
ある一羽の賢いカラスがかかしの頭に止まり、仲間らに警戒を解くよう嘆いた。
その途端かかしは身ぐるみを剥がされ、音楽はカラスの鳴き声にかき消され、元のただの藁へと戻ってしまった。
そしてカラスたちはタチの悪い笑い声を上げながら飛び去っていった。
ただ、幸いカラスが狙ったのはかかしばかりであったので、畑や野山は何も荒されることは無かった。
しかし、町民たちは口々にこう言った。
「私の施した着物は、お金はどこへやったんだ」と。
後にはただ、大きな藁が佇み遠くを見るだけだった。